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第百十八話 私と勝負して頂けませんか?
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「そういえば、フォルネーゼ伯爵が溺愛する姉のリエル嬢は女だてらにチェスを嗜むそうですよ。」
「へえ。女の癖にチェスなんかやったって無駄なのに。どうせ、勝負にもならない位に弱いんだろ?」
「いえ…、それがあの伯爵とほぼ互角に渡り合う位にチェスが強いそうで…。
この間もチェスが強いのを自慢していた縁談相手の伯爵子息を完膚なまでに叩きのめしたそうです。」
「いかさまでもやったんじゃないの?女がやりそうな陰険な手でも使ってさ。」
「それはさすがに…、あ…、」
貴族の一人がリエルに気が付いたようで顔色を蒼褪める。リエルは無表情でその集団に近付いた。
「フォルネーゼ伯爵がチェスが強いのは認めるよ。
だって、この僕が初めて負けたんだから。
だけど、その伯爵の姉はどうかな。
まあ、僕が相手にしたところで所詮は女。
きっと、すぐに勝敗は…、」
年若い少年騎士の後姿を見やりながらリエルは声を掛けた。
「では…、私と勝負して頂けませんか?」
「ふぉ、フォルネーゼ伯爵令嬢!?」
少年騎士の周りにいた男達はギョッと目を剥いた。が、当の本人はゆっくりと振り返り、大して驚いた様子もなく、眉を顰めた。
「その、眼帯…。もしかして、君…、」
「申し遅れました。私はリエル・ド・フォルネーゼと申します。」
「へえ…。そう。君がねえ…。思ったより、普通の女だな。いかにも凡庸って感じ。」
「り、リオウ様!?」
リオウの態度に周囲の人間があわあわと慌てた。
「ありがとうございます。私にとって、普通という言葉は最高の誉め言葉ですわ。」
嫌味な言葉にリエルはニコリと微笑み返した。
「君、アルバートの元婚約者なんだって?
あいつの婚約者だった女だって聞いてたからどんな美女なのかと思えば…、とんだ貧乏くじを引かされたもんだな。」
リエルはニコニコと微笑んだまま黙っていた。
堪えた様子がないリエルにリオウは目を細めた。
「ふうん。成程ね…。これ位の応酬は慣れっこなのかな?まあ、いいや。丁度、暇していたし、相手してあげるよ。」
「光栄ですわ。」
リエルはにっこりと微笑んだ。
「でも、チェスするだけじゃつまらないし…、
あ。そうだ。僕が勝ったら君の弟ともう一回チェス勝負をさせてくれない?」
「いいでしょう。では、私が勝ったら、私の願いを一つ叶えて頂けませんか?」
リオウはキョトンとした後、おかしそうに笑った。
「アハハハ!何?君、僕に勝つ気でいるの?女の君が?」
「勝てない勝負を仕掛ける趣味はありません。
どんな勝負でも全力を尽くし、勝利を手にすべし。
それがフォルネーゼ家の家訓ですわ。」
「へえ。なら、僕は君をコテンパンに打ち負かしてあげるよ。
二度とそんな生意気な口を利けなくしてやる。」
リオウの言葉にリエルは微笑んだ。そして、チェスの勝負が始まった。
「…あー。成程。それでお前がチェスに勝ったんだな。」
「え?どうして、分かったの?」
「そりゃ、お前のチェスの強さは俺だってよく知っている。…餓鬼の頃は一回もお前に勝てなかったしな。」
そういえば、そうだった。
アルバートはかなり負けず嫌いで勝つまで勝負だ!と言ってチェス勝負を何回もした覚えがある。
が、全てリエルが勝ってしまった。
当たり前だ。リエルにチェスを教えてくれたのは父とリヒターなんだから。
「リオウはチェスは強いけどそれはあくまでも周りに強者がいなかっただけの話。
あいつとのチェスなら俺でも勝てたんだ。
そんなあいつが俺が勝てたことないリエルに勝てる訳がないだろう。要はあいつは周りにチヤホヤされすぎて鼻高々になっていたんだよ。」
「うん…。そうだったみたい。
でも、そのせいか今のリオウは少し成長したみたいだよ。もう女性をあんな風に馬鹿にすることはしなくなったし。」
「そういえば、あいついつからだったか丸くなっていたな。そういえば、お前、リオウに何をお願いしたんだよ?」
「ああ。それは…、今後、私を含め女性を馬鹿にしたり、貶める発言は控えて下さいって言ったの。
そしたら、根はいい子なんだね。律儀に守ってくれたわ。それからは、リオウにもう一度勝負だ!って言ってチェスをすることが多くなっただけで…。リオウとはただのチェス仲間ってだけだよ。」
「そ、そうか…。何だ。」
アルバートはホッと溜息を吐いた。
「そ、それなら、ニコラスはどうなんだ!?」
「いや。そもそも、ニコラス様は婚約者がいるし…。」
「ニコラスに婚約者がいるのは知っている。けど!お前一時期よくニコラスと話していただろ。」
「それはあの時、ニコラス様が落とした物を拾って返した時をきっかけに少し世間話をするようになって…、それでその内、婚約者の事を相談されるようになったんだ。
あの二人、最初はあまり仲は良くなかったらしくてよそよそしい関係だったみたいだけど、ふとしたきっかけで仲良くなったみたいだよ。その相談に乗っていた所を見たんじゃないかな?」
「それだけか?本当に?」
「それだけだよ。」
「けど!男女の恋愛ってお互いの恋愛相談に乗っている内に恋が生まれるってよく言うだろ!
どっかの恋愛攻略本に書いてあったぞ!」
「それはあくまでそういう例があるってだけで必ずしもそうだとは限らないでしょ。
…っていうか、アルバート。そんな本読んでいたの?」
「う…、そ、そういうのを勉強して女がときめくような言動を身に着ければお前がもしかしたら、振り向いてくれるんじゃないかと思ってだな…。けど、お前を前にするとあらかじめ用意していた台詞とは違う事言っちまうし…、全然役に立たなかったんだよ。」
あのアルバートが実はこっそり恋愛に関する本を読んでいるなんて…。想像するだけで思わず笑ってしまう。
「アルバートったら…。そんな事しなくても、私はいつもあなたにときめいているから大丈夫だよ。」
「は、はあ!?お、お前な、何を言って…!そ、そんな事言ってはぐらかしても無駄だからな!」
アルバートはかああ、と顔を赤くしていた。
照れている。可愛い。心の中でリエルはそう思った。
が、アルバートの言葉に首を傾げた。
「はぐらかす?」
「ヴァルトだよ!まだあいつの事は聞いてないんだぞ!あいつとはどうなんだ!?」
「どうもこうも…、そもそもヴァルト様は恋人がいるんだよ?私とどうこうなるわけないでしょ。」
「はあ!?ヴァルトに恋人何ていたのか!?初耳なんだが!?っていうかお前、何でそんなに詳しいんだよ!?」
「ヴァルト様。友達に若い令嬢がいないらしくて、私に相談したの。
あ、ちなみにここだけの話だけど…、ヴァルト様の恋人は隣国の公爵令嬢らしいよ。
隣国の建国祭に護衛として同行した時に一目惚れした令嬢が猛アタックしてきたんだって。」
「は?ヴァルトが一目惚れされたのか?
逆じゃなくて?あいつ、怖がられることはあっても一目惚れされるようなタイプじゃないんだが。」
「その公爵令嬢、見た目は深窓のご令嬢なんだけど、筋肉美至上主義者みたいで…、一言で言えば筋肉フェチなんだって。」
「あー。そういう事か…。」
ヴァルトは筋肉の塊みたいな肉体を持っている。筋肉好きにとってはまさに理想の男性だろう。
「けど、お前…、ヴァルトと城下町でデートしていたらしいじゃないか!お忍びで来ていた貴族の一人がお前達の姿を目撃したみたいで噂になっていたぞ!」
「デート?いや。私、ヴァルト様と一緒によくスイーツを食べに行くことはあったけど二人っきりで出かけたりとかしたことはないよ?」
「はあ!?けど、噂じゃ二人だけで出かけてたって…!」
「いや。私、必ずリヒター達と一緒に行っていたし…、さすがに恋人でも婚約者でもない相手と二人っきりはまずいもの。多分だけど…、リヒター達が注文やら飲み物を取りに席を外している時の現場を目にしただけじゃない?後、私、ヴァルト様が数か月に一回、恋人と逢瀬をする為にカモフラージュとして同行したりもするし。」
「カモフラージュ?」
「ちょっと、ヴァルト様とその公爵令嬢が交際しているのは秘密にしているの。
その公爵令嬢は一応、王太子妃の筆頭婚約者候補らしいから。隣国の王太子は美形だけど細身の体つきらしいから令嬢は全然興味がないんだけど、お父上が娘を婚約者にするのに必死なんだって。だから、表立って交際しているって言えないらしいの。ほとぼりが冷めたら二人の仲を認めて貰おうって。いざとなったら、家の名を捨ててヴァルト様と一緒になりますわ!って令嬢は結婚する気満々みたい。」
「え…、王太子妃の筆頭婚約者候補って…、隣国の宰相の娘じゃないか?そんな高貴な姫君とヴァルトは付き合っているのか!?」
「アルバート。これは秘密だよ。バレたら、最悪国際問題になりかねないんだから。」
「マジかよ…。」
アルバートは額に手をやり、溜息を吐いた。
確かに候補とはいえ、王太子妃に選ばれるかもしれない令嬢に手を出したとなれば大事だ。
実際、手を出したのはヴァルトではなく、令嬢の方なのだが。
ヴァルトは最後まで身分が釣り合わないからって令嬢の告白を断っていたのにめげずに告白し続け、三十回目の告白でヴァルトが根負けしてしまった。
いや。あれは、胃袋を掴まれただけだろう。何せ、令嬢はヴァルトを落とす為にプロの菓子職人に弟子入りし、菓子作りの腕を上げ、見事ヴァルト好みの菓子を作れるまでに上達したのだ。
恐るべし、女の恋心。リエルはそんな風に感心した程だ。
でも、そんな始まりでもヴァルトは何だかんだで恋人を大切に想っているみたいだ。
あの公爵令嬢の恋人もヴァルト様好き好きオーラが凄まじいが見ていて微笑ましい。
だから、二人を応援したいと思った。令嬢はリエルがヴァルトを異性として見てないことは分かってくれたのでこれからもヴァルト様に適度に糖分を与えてあげて下さいね!とお願いされた。
なので、二人の交際後も彼とのスイーツ巡りと菓子の差し入れは続いているのだ。その代わり、ヴァルトから本人は無自覚なのだが惚気話と相談をよくされるようになった。
「ね?これで分かったでしょう?私が薔薇騎士の皆とはただの知り合いで何もないってことが。」
「とりあえずはな。けど、お前って何気に顔が広いからいつ他の男にお前を取られてもおかしくないだろ。」
「アルバートったら‥、心配しすぎだよ。」
リエルは思わず笑った。自分が異性に恋愛対象にならないのは知っているがどうやら、彼はそうではないみたいだ。きっと、リエルの事を姉のように異性にモテるようだと勘違いしている様だ。
そんな過剰ともいえる不安と嫉妬をするアルバートが嫌じゃなく、むしろ嬉しいなと思ってしまうリエルだった。
「へえ。女の癖にチェスなんかやったって無駄なのに。どうせ、勝負にもならない位に弱いんだろ?」
「いえ…、それがあの伯爵とほぼ互角に渡り合う位にチェスが強いそうで…。
この間もチェスが強いのを自慢していた縁談相手の伯爵子息を完膚なまでに叩きのめしたそうです。」
「いかさまでもやったんじゃないの?女がやりそうな陰険な手でも使ってさ。」
「それはさすがに…、あ…、」
貴族の一人がリエルに気が付いたようで顔色を蒼褪める。リエルは無表情でその集団に近付いた。
「フォルネーゼ伯爵がチェスが強いのは認めるよ。
だって、この僕が初めて負けたんだから。
だけど、その伯爵の姉はどうかな。
まあ、僕が相手にしたところで所詮は女。
きっと、すぐに勝敗は…、」
年若い少年騎士の後姿を見やりながらリエルは声を掛けた。
「では…、私と勝負して頂けませんか?」
「ふぉ、フォルネーゼ伯爵令嬢!?」
少年騎士の周りにいた男達はギョッと目を剥いた。が、当の本人はゆっくりと振り返り、大して驚いた様子もなく、眉を顰めた。
「その、眼帯…。もしかして、君…、」
「申し遅れました。私はリエル・ド・フォルネーゼと申します。」
「へえ…。そう。君がねえ…。思ったより、普通の女だな。いかにも凡庸って感じ。」
「り、リオウ様!?」
リオウの態度に周囲の人間があわあわと慌てた。
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嫌味な言葉にリエルはニコリと微笑み返した。
「君、アルバートの元婚約者なんだって?
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堪えた様子がないリエルにリオウは目を細めた。
「ふうん。成程ね…。これ位の応酬は慣れっこなのかな?まあ、いいや。丁度、暇していたし、相手してあげるよ。」
「光栄ですわ。」
リエルはにっこりと微笑んだ。
「でも、チェスするだけじゃつまらないし…、
あ。そうだ。僕が勝ったら君の弟ともう一回チェス勝負をさせてくれない?」
「いいでしょう。では、私が勝ったら、私の願いを一つ叶えて頂けませんか?」
リオウはキョトンとした後、おかしそうに笑った。
「アハハハ!何?君、僕に勝つ気でいるの?女の君が?」
「勝てない勝負を仕掛ける趣味はありません。
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「へえ。なら、僕は君をコテンパンに打ち負かしてあげるよ。
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「…あー。成程。それでお前がチェスに勝ったんだな。」
「え?どうして、分かったの?」
「そりゃ、お前のチェスの強さは俺だってよく知っている。…餓鬼の頃は一回もお前に勝てなかったしな。」
そういえば、そうだった。
アルバートはかなり負けず嫌いで勝つまで勝負だ!と言ってチェス勝負を何回もした覚えがある。
が、全てリエルが勝ってしまった。
当たり前だ。リエルにチェスを教えてくれたのは父とリヒターなんだから。
「リオウはチェスは強いけどそれはあくまでも周りに強者がいなかっただけの話。
あいつとのチェスなら俺でも勝てたんだ。
そんなあいつが俺が勝てたことないリエルに勝てる訳がないだろう。要はあいつは周りにチヤホヤされすぎて鼻高々になっていたんだよ。」
「うん…。そうだったみたい。
でも、そのせいか今のリオウは少し成長したみたいだよ。もう女性をあんな風に馬鹿にすることはしなくなったし。」
「そういえば、あいついつからだったか丸くなっていたな。そういえば、お前、リオウに何をお願いしたんだよ?」
「ああ。それは…、今後、私を含め女性を馬鹿にしたり、貶める発言は控えて下さいって言ったの。
そしたら、根はいい子なんだね。律儀に守ってくれたわ。それからは、リオウにもう一度勝負だ!って言ってチェスをすることが多くなっただけで…。リオウとはただのチェス仲間ってだけだよ。」
「そ、そうか…。何だ。」
アルバートはホッと溜息を吐いた。
「そ、それなら、ニコラスはどうなんだ!?」
「いや。そもそも、ニコラス様は婚約者がいるし…。」
「ニコラスに婚約者がいるのは知っている。けど!お前一時期よくニコラスと話していただろ。」
「それはあの時、ニコラス様が落とした物を拾って返した時をきっかけに少し世間話をするようになって…、それでその内、婚約者の事を相談されるようになったんだ。
あの二人、最初はあまり仲は良くなかったらしくてよそよそしい関係だったみたいだけど、ふとしたきっかけで仲良くなったみたいだよ。その相談に乗っていた所を見たんじゃないかな?」
「それだけか?本当に?」
「それだけだよ。」
「けど!男女の恋愛ってお互いの恋愛相談に乗っている内に恋が生まれるってよく言うだろ!
どっかの恋愛攻略本に書いてあったぞ!」
「それはあくまでそういう例があるってだけで必ずしもそうだとは限らないでしょ。
…っていうか、アルバート。そんな本読んでいたの?」
「う…、そ、そういうのを勉強して女がときめくような言動を身に着ければお前がもしかしたら、振り向いてくれるんじゃないかと思ってだな…。けど、お前を前にするとあらかじめ用意していた台詞とは違う事言っちまうし…、全然役に立たなかったんだよ。」
あのアルバートが実はこっそり恋愛に関する本を読んでいるなんて…。想像するだけで思わず笑ってしまう。
「アルバートったら…。そんな事しなくても、私はいつもあなたにときめいているから大丈夫だよ。」
「は、はあ!?お、お前な、何を言って…!そ、そんな事言ってはぐらかしても無駄だからな!」
アルバートはかああ、と顔を赤くしていた。
照れている。可愛い。心の中でリエルはそう思った。
が、アルバートの言葉に首を傾げた。
「はぐらかす?」
「ヴァルトだよ!まだあいつの事は聞いてないんだぞ!あいつとはどうなんだ!?」
「どうもこうも…、そもそもヴァルト様は恋人がいるんだよ?私とどうこうなるわけないでしょ。」
「はあ!?ヴァルトに恋人何ていたのか!?初耳なんだが!?っていうかお前、何でそんなに詳しいんだよ!?」
「ヴァルト様。友達に若い令嬢がいないらしくて、私に相談したの。
あ、ちなみにここだけの話だけど…、ヴァルト様の恋人は隣国の公爵令嬢らしいよ。
隣国の建国祭に護衛として同行した時に一目惚れした令嬢が猛アタックしてきたんだって。」
「は?ヴァルトが一目惚れされたのか?
逆じゃなくて?あいつ、怖がられることはあっても一目惚れされるようなタイプじゃないんだが。」
「その公爵令嬢、見た目は深窓のご令嬢なんだけど、筋肉美至上主義者みたいで…、一言で言えば筋肉フェチなんだって。」
「あー。そういう事か…。」
ヴァルトは筋肉の塊みたいな肉体を持っている。筋肉好きにとってはまさに理想の男性だろう。
「けど、お前…、ヴァルトと城下町でデートしていたらしいじゃないか!お忍びで来ていた貴族の一人がお前達の姿を目撃したみたいで噂になっていたぞ!」
「デート?いや。私、ヴァルト様と一緒によくスイーツを食べに行くことはあったけど二人っきりで出かけたりとかしたことはないよ?」
「はあ!?けど、噂じゃ二人だけで出かけてたって…!」
「いや。私、必ずリヒター達と一緒に行っていたし…、さすがに恋人でも婚約者でもない相手と二人っきりはまずいもの。多分だけど…、リヒター達が注文やら飲み物を取りに席を外している時の現場を目にしただけじゃない?後、私、ヴァルト様が数か月に一回、恋人と逢瀬をする為にカモフラージュとして同行したりもするし。」
「カモフラージュ?」
「ちょっと、ヴァルト様とその公爵令嬢が交際しているのは秘密にしているの。
その公爵令嬢は一応、王太子妃の筆頭婚約者候補らしいから。隣国の王太子は美形だけど細身の体つきらしいから令嬢は全然興味がないんだけど、お父上が娘を婚約者にするのに必死なんだって。だから、表立って交際しているって言えないらしいの。ほとぼりが冷めたら二人の仲を認めて貰おうって。いざとなったら、家の名を捨ててヴァルト様と一緒になりますわ!って令嬢は結婚する気満々みたい。」
「え…、王太子妃の筆頭婚約者候補って…、隣国の宰相の娘じゃないか?そんな高貴な姫君とヴァルトは付き合っているのか!?」
「アルバート。これは秘密だよ。バレたら、最悪国際問題になりかねないんだから。」
「マジかよ…。」
アルバートは額に手をやり、溜息を吐いた。
確かに候補とはいえ、王太子妃に選ばれるかもしれない令嬢に手を出したとなれば大事だ。
実際、手を出したのはヴァルトではなく、令嬢の方なのだが。
ヴァルトは最後まで身分が釣り合わないからって令嬢の告白を断っていたのにめげずに告白し続け、三十回目の告白でヴァルトが根負けしてしまった。
いや。あれは、胃袋を掴まれただけだろう。何せ、令嬢はヴァルトを落とす為にプロの菓子職人に弟子入りし、菓子作りの腕を上げ、見事ヴァルト好みの菓子を作れるまでに上達したのだ。
恐るべし、女の恋心。リエルはそんな風に感心した程だ。
でも、そんな始まりでもヴァルトは何だかんだで恋人を大切に想っているみたいだ。
あの公爵令嬢の恋人もヴァルト様好き好きオーラが凄まじいが見ていて微笑ましい。
だから、二人を応援したいと思った。令嬢はリエルがヴァルトを異性として見てないことは分かってくれたのでこれからもヴァルト様に適度に糖分を与えてあげて下さいね!とお願いされた。
なので、二人の交際後も彼とのスイーツ巡りと菓子の差し入れは続いているのだ。その代わり、ヴァルトから本人は無自覚なのだが惚気話と相談をよくされるようになった。
「ね?これで分かったでしょう?私が薔薇騎士の皆とはただの知り合いで何もないってことが。」
「とりあえずはな。けど、お前って何気に顔が広いからいつ他の男にお前を取られてもおかしくないだろ。」
「アルバートったら‥、心配しすぎだよ。」
リエルは思わず笑った。自分が異性に恋愛対象にならないのは知っているがどうやら、彼はそうではないみたいだ。きっと、リエルの事を姉のように異性にモテるようだと勘違いしている様だ。
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