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第九十六話 私は嘘をつく男が嫌いなの
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「失礼いたします。奥様。頼まれた物をお持ちしました。…奥様?」
メイドは声を掛けるが反応がない。
訝しんで呼びかけるが部屋の主はこちらに見向きもせずに窓辺に佇み、庭園を見下ろしていた。
その横顔は無表情で何を考えているのか分からない。視線の先を辿ると、そこには、主の二番目の娘と緋色の髪の令嬢がいた。
メイドの主…、オレリーヌはリエルとゾフィーが談笑しているのをじっと昏い瞳で見下ろしていた。
それが逆に薄気味悪さを感じた。
「…最近、あれの笑い声を耳にするのよね。」
ぽつり、とオレリーヌは呟いた。
「本当に目障り…。」
オレリーヌは手の中で扇を一定のリズムで叩きながら話した。
「由緒正しいフォルネーゼ家の令嬢が下級貴族の娘と仲良くするだなんて、笑い話だと思わない?」
オレリーヌはそう言って、メイドに同意を求めた。
メイドはオレリーヌの迫力にコクコクと頷いた。
「つくづく愚かな娘だこと。
どうせ、今だけよ。…薄っぺらい友情ごっこなどすぐに壊れてしまうというのにねえ。」
クスクスとおかしそうに笑うオレリーヌはパチン、と扇を閉じた。
「せいぜい、夢の時間を楽しむことね。…リエル。」
その笑っているのに表情は冷たく、凍り付くような眼差しにメイドはぞっとしたものを感じた。
「んー。成程…。」
その頃、ゼリウスは自室で一冊の本を広げながら、フムフムと頷きながら読み込んでいた。
「旦那様はさっきから何を熱心に読んでいらっしゃるのでしょう?」
そんなゼリウスの姿に若いメイドが心配そうに年配のメイドに訊ねた。
「何でも、最近、城下街で仕入れた雑誌みたいよ。確か、題名が『難攻不落の女を落とす方法』ですって。」
「え…、あー。そういえば、旦那様って最近、ある子爵家の令嬢を落とそうと躍起になっていますものね。」
「確か、ゾフィー様って令嬢でしょ?
以前、屋敷に来られた赤い髪が印象的な綺麗なご令嬢。
私達、使用人にも丁寧に挨拶をしてとても優しそうな人だったわ。」
「あ!思い出した!
事務的に仕事の話をしているゾフィー様をあの手この手で口説く旦那様相手に一切、顔色を変えずに完全スルーしていた方ね!
あの旦那様相手にあんな態度をとるご令嬢は初めてだったからよく覚えているわ!」
「旦那様も粘るわよねえ。
あれから数か月も経つのに未だに諦めていない様子だし…、
ドレスやら宝石やら女が喜びそうな贈り物を贈っているし。」
ヒソヒソと囁き合うメイド達に気づかず、ゼリウスは本に夢中だった。
「成程…。必ずしも、高価な物ばかりではいけないと。」
ゾフィーを落とそうと奮闘して数か月が経過した。
初めは興味本位だった。遊ぼうとした女に逃げられたから代わりに相手してもらおうと思って迫ったら、平手打ちをされた。
あんな女は初めてだった。その後、自分が五大貴族だと知ると、サア、と顔色を悪くして謝罪する姿に次の獲物は彼女にしようと決めた。
あのロンディ家の令嬢というのも興味を引かれた。女の身で商会を切り盛りするなど中々に面白そうな女だ。保守的で見栄えと自信の評価ばかりを気にする令嬢を相手にするよりよっぽど楽しそうだ。
平手打ちをされたことを盾に関係を迫ることもできたがどうせなら、もっと楽しみたい。そんな軽い気持ちでゾフィーに近付いた。
三日もあれば陥落すると思ったがゾフィーは用心深く、中々落ちない。
今までの女ならすぐに落ちたのにゾフィーは全く靡かない。
一か月が過ぎる頃にゼリウスはもう少し本腰を入れるかと思い直した。持てる魅力を最大限に発揮した。
強引にいけばコロッといくかもと思い、多少、強引に迫ったら容赦なく股間を蹴られた。
罰せるならどうぞ。その時は自分の恥を晒すことになりますが。と言われ、軽蔑の眼差しで見下ろされた。
後で判明したことだがどうもリエルがゾフィーに自分が強引に迫ってきて危険だと感じたら身分や権力云々は気にする必要はない。その時は遠慮せず存分に反撃するといいと言ったそうだ。
おまけにあの優秀な執事直伝の護身術の基礎をゾフィーに教えてあげたとか。
察しがいい友人も考えものだ。さすがに昔から付き合いのあるリエルは自分の行動パターンをよく熟知している。そうゼリウスは痛感した。
ゾフィーの意思に反して無体な事をすればリエルは黙っていない。
リエルだけなら何とかなるが彼女の背後にはあのシスコンの塊の弟と腹黒執事がいるのだ。
リエルを敵に回したら、厄介だ。ゾフィーの扱いには慎重にしなければならない。
でも、それはあくまでもゾフィーが嫌がったらの話。ゾフィーをその気にさせれば問題ない。
要は彼女を自分に惚れさせればいいのだ。
だから、ゼリウスは作戦変更することにした。
押して駄目なら引いてみよう。
その後、一切、ゾフィーに近づかずに距離を置いた。が、全く気にした素振りも見せないどころかゾフィーは商会の仕事や領地の経営に追われており、自分の存在など忘れているのではないかと思う位に忙しそうにしていた。
結局、一週間程で自分が折れた。それ以外でも、他の女と親しくして嫉妬を煽ってみたり、自分とそういう関係を持てばどれだけの利益があるかを熱弁したりしてみたがゾフィーは見向きもしない。
それどころか、自分が贈ったドレスや宝石も身に着けている所は一度も見たことない。
自分が会いに行っても彼女ときたら、仕事で手が放せなかったり、空いている時間はリエルと会っており、全く相手にしてくれない。
十回中、一回のペースで相手はしてくれるがそれも渋々といった感じだ。
しかも、用件がなければすぐに帰ろうとする。
お蔭で毎回それとなく、仕事の話を持って行くしかなく、プライベートでは一度も付き合いがない。
なのに、自分よりも付き合いの浅いリエルはゾフィーとすぐに打ち解け、名前を呼び合う始末。この前はお泊りもしたらしい。実に羨ましい。
世間話ついでに話題を振れば、ゾフィーは楽しそうにリエルの話ばかりする。
ついでに同じ五大貴族出身とは思えない位にリエルは優しくて、貴族の鏡だと言っていた。
誰と比べていたかは…、言うまでもないだろう。
ここまで惨敗していれば普通は諦めるだろう。
だが、しかし!自分は諦めない。
何故なら、ゲームとは、障害があればあるだけ燃えるからだ。山は高ければ高いほど登り甲斐がある。
それと同じだ。
それに、これはよくある恋の駆け引きだ。
男は追いかけられるよりも追う方が好きな生き物だ。彼女はそれを心得ている。
きっと、あれは彼女なりのアピールだ。そう考えれば、彼女もいじらしい所もあるじゃないか。
ゼリウスはそうほくそ笑んだ。
「よし。なら、今度の贈り物は…、菓子にしてみるか。確か、リエルが甘いものには詳しいな。
ゾフィーと親しい彼女なら、その好みも知っているかも…、」
リエルに聞いたところで絶対に協力してくれないだろうがさすがは前向き人間。
そんな可能性は微塵も思いつかない。
そんなゼリウスに来客が訪れた。
「旦那様。あの…、今、旦那様にお会いしたいというご令嬢が…、」
「何だ。爺。俺は忙しい。ゾフィー以外の女は対応するなと言っているだろう。」
きっと、関係を切った女達の誰かだろう。全く、面倒臭いな。
ゾフィーを落とすまでは彼女に専念したいのに。
ゾフィーを落とした後はまた以前の様に相手してあげてもいいが今は駄目だ。
少しでもゾフィーには心象を良くしたい。
そう思っていると…、
「そのゾフィー嬢がいらしているのですが…、」
「な、何?ゾフィーが?何やっているんだ!すぐに通せ!」
ゼリウスは思わず持っていた本を取り落とした。
「ゾフィー!君から会いに来てくれるなんて…、
嬉しいよ!」
「光栄ですわ。ティエンディール侯爵。」
彼女は相変わらず素っ気ない。
知り合って数か月は経っているのに未だに名前を呼んではくれない。
だが、そこがいい。
彼女が陥落した時の楽しみが増える。
「君の為に最高級の茶葉と菓子を用意したんだ。
良かったら…、」
「いえ。お話が終わればすぐに失礼しますのでお気になさらず。」
「君は本当に慎み深いんだね。
でも、遠慮しないで。君とわたしの仲じゃないか。」
「…侯爵と私はただの客と商人の筈ですが。」
「今はね。でも、この先は分からないだろ?
それよりも…、君に贈ったドレスは届いたかな?
気に入ってくれたら嬉しいよ!」
「ドレス?」
ゾフィーは怪訝な顔をした。
「そうだよ。君のその燃える様な赤い髪と同じ鮮やかな色をしたドレスを仕立てたんだ。
きっと、君によく似合、」
「ああ。そうでした。素敵な贈り物をどうもありがとうございました。
…ところで、本題なのですが、」
ゾフィーはばっさりとゼリウスの言葉に被せるように礼を言うがその表情は辟易としていて、棒読みだった。
形ばかりの礼を言うと、さっさと本題に入った。
「侯爵にお聞きしたい話があります。」
「わたしに?何だい?改まって。」
「リエルとアルバート様の事で確認したいことがあるのです。」
「リエルとアルバート?
ああ。もしかして…、リエルの元婚約者のことが気になるのかな?
それはそうだろうね。いやあ。あの二人が婚約者になった時は驚いたよ。
わたしはてっきりセリーナが婚約者に選ばれるものかと…、」
「お二人は幼馴染と聞いています。
同時にあなたも親交があったそうですね?
なら、あなたは気付いている筈。」
「ん?何が?」
「あの二人はお互いを想い合っている。
そうでしょう?」
ゼリウスはピタッと動きを止めた。
「リエルとアルバートが?
まさか!ゾフィーは知らないんだね。
アルバートはね、本当はセリーナ狙いなんだよ。
リエルと婚約したのもセリーナと…、」
「私は嘘を吐く男が嫌いなの。
それから…、他人の恋路を邪魔する男はもっと嫌い。」
ゼリウスは目を見開いた。
メイドは声を掛けるが反応がない。
訝しんで呼びかけるが部屋の主はこちらに見向きもせずに窓辺に佇み、庭園を見下ろしていた。
その横顔は無表情で何を考えているのか分からない。視線の先を辿ると、そこには、主の二番目の娘と緋色の髪の令嬢がいた。
メイドの主…、オレリーヌはリエルとゾフィーが談笑しているのをじっと昏い瞳で見下ろしていた。
それが逆に薄気味悪さを感じた。
「…最近、あれの笑い声を耳にするのよね。」
ぽつり、とオレリーヌは呟いた。
「本当に目障り…。」
オレリーヌは手の中で扇を一定のリズムで叩きながら話した。
「由緒正しいフォルネーゼ家の令嬢が下級貴族の娘と仲良くするだなんて、笑い話だと思わない?」
オレリーヌはそう言って、メイドに同意を求めた。
メイドはオレリーヌの迫力にコクコクと頷いた。
「つくづく愚かな娘だこと。
どうせ、今だけよ。…薄っぺらい友情ごっこなどすぐに壊れてしまうというのにねえ。」
クスクスとおかしそうに笑うオレリーヌはパチン、と扇を閉じた。
「せいぜい、夢の時間を楽しむことね。…リエル。」
その笑っているのに表情は冷たく、凍り付くような眼差しにメイドはぞっとしたものを感じた。
「んー。成程…。」
その頃、ゼリウスは自室で一冊の本を広げながら、フムフムと頷きながら読み込んでいた。
「旦那様はさっきから何を熱心に読んでいらっしゃるのでしょう?」
そんなゼリウスの姿に若いメイドが心配そうに年配のメイドに訊ねた。
「何でも、最近、城下街で仕入れた雑誌みたいよ。確か、題名が『難攻不落の女を落とす方法』ですって。」
「え…、あー。そういえば、旦那様って最近、ある子爵家の令嬢を落とそうと躍起になっていますものね。」
「確か、ゾフィー様って令嬢でしょ?
以前、屋敷に来られた赤い髪が印象的な綺麗なご令嬢。
私達、使用人にも丁寧に挨拶をしてとても優しそうな人だったわ。」
「あ!思い出した!
事務的に仕事の話をしているゾフィー様をあの手この手で口説く旦那様相手に一切、顔色を変えずに完全スルーしていた方ね!
あの旦那様相手にあんな態度をとるご令嬢は初めてだったからよく覚えているわ!」
「旦那様も粘るわよねえ。
あれから数か月も経つのに未だに諦めていない様子だし…、
ドレスやら宝石やら女が喜びそうな贈り物を贈っているし。」
ヒソヒソと囁き合うメイド達に気づかず、ゼリウスは本に夢中だった。
「成程…。必ずしも、高価な物ばかりではいけないと。」
ゾフィーを落とそうと奮闘して数か月が経過した。
初めは興味本位だった。遊ぼうとした女に逃げられたから代わりに相手してもらおうと思って迫ったら、平手打ちをされた。
あんな女は初めてだった。その後、自分が五大貴族だと知ると、サア、と顔色を悪くして謝罪する姿に次の獲物は彼女にしようと決めた。
あのロンディ家の令嬢というのも興味を引かれた。女の身で商会を切り盛りするなど中々に面白そうな女だ。保守的で見栄えと自信の評価ばかりを気にする令嬢を相手にするよりよっぽど楽しそうだ。
平手打ちをされたことを盾に関係を迫ることもできたがどうせなら、もっと楽しみたい。そんな軽い気持ちでゾフィーに近付いた。
三日もあれば陥落すると思ったがゾフィーは用心深く、中々落ちない。
今までの女ならすぐに落ちたのにゾフィーは全く靡かない。
一か月が過ぎる頃にゼリウスはもう少し本腰を入れるかと思い直した。持てる魅力を最大限に発揮した。
強引にいけばコロッといくかもと思い、多少、強引に迫ったら容赦なく股間を蹴られた。
罰せるならどうぞ。その時は自分の恥を晒すことになりますが。と言われ、軽蔑の眼差しで見下ろされた。
後で判明したことだがどうもリエルがゾフィーに自分が強引に迫ってきて危険だと感じたら身分や権力云々は気にする必要はない。その時は遠慮せず存分に反撃するといいと言ったそうだ。
おまけにあの優秀な執事直伝の護身術の基礎をゾフィーに教えてあげたとか。
察しがいい友人も考えものだ。さすがに昔から付き合いのあるリエルは自分の行動パターンをよく熟知している。そうゼリウスは痛感した。
ゾフィーの意思に反して無体な事をすればリエルは黙っていない。
リエルだけなら何とかなるが彼女の背後にはあのシスコンの塊の弟と腹黒執事がいるのだ。
リエルを敵に回したら、厄介だ。ゾフィーの扱いには慎重にしなければならない。
でも、それはあくまでもゾフィーが嫌がったらの話。ゾフィーをその気にさせれば問題ない。
要は彼女を自分に惚れさせればいいのだ。
だから、ゼリウスは作戦変更することにした。
押して駄目なら引いてみよう。
その後、一切、ゾフィーに近づかずに距離を置いた。が、全く気にした素振りも見せないどころかゾフィーは商会の仕事や領地の経営に追われており、自分の存在など忘れているのではないかと思う位に忙しそうにしていた。
結局、一週間程で自分が折れた。それ以外でも、他の女と親しくして嫉妬を煽ってみたり、自分とそういう関係を持てばどれだけの利益があるかを熱弁したりしてみたがゾフィーは見向きもしない。
それどころか、自分が贈ったドレスや宝石も身に着けている所は一度も見たことない。
自分が会いに行っても彼女ときたら、仕事で手が放せなかったり、空いている時間はリエルと会っており、全く相手にしてくれない。
十回中、一回のペースで相手はしてくれるがそれも渋々といった感じだ。
しかも、用件がなければすぐに帰ろうとする。
お蔭で毎回それとなく、仕事の話を持って行くしかなく、プライベートでは一度も付き合いがない。
なのに、自分よりも付き合いの浅いリエルはゾフィーとすぐに打ち解け、名前を呼び合う始末。この前はお泊りもしたらしい。実に羨ましい。
世間話ついでに話題を振れば、ゾフィーは楽しそうにリエルの話ばかりする。
ついでに同じ五大貴族出身とは思えない位にリエルは優しくて、貴族の鏡だと言っていた。
誰と比べていたかは…、言うまでもないだろう。
ここまで惨敗していれば普通は諦めるだろう。
だが、しかし!自分は諦めない。
何故なら、ゲームとは、障害があればあるだけ燃えるからだ。山は高ければ高いほど登り甲斐がある。
それと同じだ。
それに、これはよくある恋の駆け引きだ。
男は追いかけられるよりも追う方が好きな生き物だ。彼女はそれを心得ている。
きっと、あれは彼女なりのアピールだ。そう考えれば、彼女もいじらしい所もあるじゃないか。
ゼリウスはそうほくそ笑んだ。
「よし。なら、今度の贈り物は…、菓子にしてみるか。確か、リエルが甘いものには詳しいな。
ゾフィーと親しい彼女なら、その好みも知っているかも…、」
リエルに聞いたところで絶対に協力してくれないだろうがさすがは前向き人間。
そんな可能性は微塵も思いつかない。
そんなゼリウスに来客が訪れた。
「旦那様。あの…、今、旦那様にお会いしたいというご令嬢が…、」
「何だ。爺。俺は忙しい。ゾフィー以外の女は対応するなと言っているだろう。」
きっと、関係を切った女達の誰かだろう。全く、面倒臭いな。
ゾフィーを落とすまでは彼女に専念したいのに。
ゾフィーを落とした後はまた以前の様に相手してあげてもいいが今は駄目だ。
少しでもゾフィーには心象を良くしたい。
そう思っていると…、
「そのゾフィー嬢がいらしているのですが…、」
「な、何?ゾフィーが?何やっているんだ!すぐに通せ!」
ゼリウスは思わず持っていた本を取り落とした。
「ゾフィー!君から会いに来てくれるなんて…、
嬉しいよ!」
「光栄ですわ。ティエンディール侯爵。」
彼女は相変わらず素っ気ない。
知り合って数か月は経っているのに未だに名前を呼んではくれない。
だが、そこがいい。
彼女が陥落した時の楽しみが増える。
「君の為に最高級の茶葉と菓子を用意したんだ。
良かったら…、」
「いえ。お話が終わればすぐに失礼しますのでお気になさらず。」
「君は本当に慎み深いんだね。
でも、遠慮しないで。君とわたしの仲じゃないか。」
「…侯爵と私はただの客と商人の筈ですが。」
「今はね。でも、この先は分からないだろ?
それよりも…、君に贈ったドレスは届いたかな?
気に入ってくれたら嬉しいよ!」
「ドレス?」
ゾフィーは怪訝な顔をした。
「そうだよ。君のその燃える様な赤い髪と同じ鮮やかな色をしたドレスを仕立てたんだ。
きっと、君によく似合、」
「ああ。そうでした。素敵な贈り物をどうもありがとうございました。
…ところで、本題なのですが、」
ゾフィーはばっさりとゼリウスの言葉に被せるように礼を言うがその表情は辟易としていて、棒読みだった。
形ばかりの礼を言うと、さっさと本題に入った。
「侯爵にお聞きしたい話があります。」
「わたしに?何だい?改まって。」
「リエルとアルバート様の事で確認したいことがあるのです。」
「リエルとアルバート?
ああ。もしかして…、リエルの元婚約者のことが気になるのかな?
それはそうだろうね。いやあ。あの二人が婚約者になった時は驚いたよ。
わたしはてっきりセリーナが婚約者に選ばれるものかと…、」
「お二人は幼馴染と聞いています。
同時にあなたも親交があったそうですね?
なら、あなたは気付いている筈。」
「ん?何が?」
「あの二人はお互いを想い合っている。
そうでしょう?」
ゼリウスはピタッと動きを止めた。
「リエルとアルバートが?
まさか!ゾフィーは知らないんだね。
アルバートはね、本当はセリーナ狙いなんだよ。
リエルと婚約したのもセリーナと…、」
「私は嘘を吐く男が嫌いなの。
それから…、他人の恋路を邪魔する男はもっと嫌い。」
ゼリウスは目を見開いた。
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