隻眼の少女は薔薇騎士に愛でられる

柘榴アリス

文字の大きさ
上 下
93 / 226

第八十九.五話

しおりを挟む
ゾフィーがリエル達と別れた直後のお話。




「うっ…、な、何?」

ゾフィーは馬車の中で寒気を感じた。

「風邪かしら…?」

そういえば、最近、寝不足が続いていたんだった。気を付けなくてはと見当違いの心配をゾフィーはしていた。

「お嬢様!」

「遅くなってごめんなさい。何があったの?」

「そ、それが…、」

ゾフィーは部下の報告に顔色を変えた。急いでゾフィーは屋敷に向かった。

「お母様!」

バン!と勢いよく扉を開けて入ってきた長姉の姿にロンディ子爵夫人は眉を顰めた。

「まあ!何です!ゾフィー。淑女がノックもなしに入ってくるなんてはしたない…、」

「あら、お姉様。そんなに血相変えてどうしたの?」

続けて着飾った妹がおっとりとゾフィーにそう言ってきた。ゾフィーは母と娘の煌びやかな装いを見て、そして、室内を見渡した。たくさんの宝石やドレスの山が目に留まった。

「お母様。お話がありますの。」

「話?どうせ、碌でもないことでしょう。私は忙しいの。後にして頂戴。」

「先程、商会の従業員から聞きました。お母様が商会のお金を勝手に持ち出したと!」

「まあ!娘の癖に母である私にそんな口を聞くなんて…。何て、躾けのなっていない!聞き分けのいい妹を
少しは見習ってはどうなの?大体、あれだけたくさんの貯えがあるのなら少し位、使ってはいいのではないの。」

「お金でしたら、もう今月分の費用は渡したではありませんか!生活するのに困らない程度の額は渡した筈です!」

「あんなはした金じゃ足りないのよ!ドレスも宝石も数着しか買えなかったし…、」

「ドレスと宝石?何を言っているんですか!我が家はただでさえ、生活が厳しいのですよ!?毎月の借金の返済に、使用人だって人材を削って給料をあげるのも精一杯の状況なのに…、ドレスや宝石を買う余裕があるわけないでしょう!?だから、あのお金は生活費に充てるようにとあれ程、忠告したのに…!」

「なら、足りない分は商会から出せばいいのではないの!そもそも、あなたときたら、家族がお金に困っているのにあんな大金を隠し持っているなんて、何て意地汚い娘なの!」

「お母様たちにお金を渡したら全部使ってしまうからでしょう!?そもそも、お母様が持ち出したお金はこの先の融資に使う大事な資金なのですよ!?それを…!」

「お姉様ってば相変わらずね…。そんなにお金にがめついと、嫁の貰い手がなくなるわよ?」

クスクスと馬鹿にしたように妹は笑った。

「全く…。ソニアはこんなに可愛くて、よくできた娘なのにあなたはどうして、そうなの?育て方を間違えたのかしら?」

「…今はそんな事どうでもいいのです。お母様。早く持ち出したお金を返して下さい。」

「もうないわよ。全部、使ってしまったもの。」

「なっ…、まさか…、このドレスや宝石を買うために…?」

「少し買いすぎてしまったけど、これだけあればソニアも私もお茶会や夜会に出ても恥をかかずにすむわね。ああ。楽しみ。あの生意気な男爵夫人に一泡吹かせてあげられるのだわ!」

ゾフィーは眩暈を感じた。必死に怒鳴りつけたい気持ちを抑えつける。最早、母も妹もゾフィーなど気にも留めていない。新しい戦利品にはしゃいでいる。

「…失礼します。」

唇を噛み締め、ゾフィーはその場を退席した。もうこの二人に何を言っても無駄だ。家族は当てにならない。何とか自力で金を工面するしかない。ゾフィーはすぐに商会へ向かった。
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...