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第七十二話 ある盗賊団の壊滅

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ある夕暮れ時の地方の村の一角で…、馬に跨り、武器を手にした男達の集団が丘から村を見下ろしていた。武装した男達は兵士や騎士とは真逆の雰囲気で粗野で野蛮な印象尾与える。先頭にいる男が下卑た笑いを浮かべた。
「へっへっ…。さも狙って下さいといわんばかりの守りの薄い村だな。」
「へえ。頭。偵察に行かせた奴の話だと今、男達は出払っていて村には女と子供、老人しかいないらしいですぜ。」
「そいつは、都合がいい。」
頭と呼ばれた男は黒く刈り込まれた短髪に大柄な体を持った見るからに強者といった風体の男だった。それもその筈、彼は盗賊の世界でも恐れられている人物…、『暴虐の熊』と呼ばれている男だった。彼が率いる盗賊団は残虐で無慈悲な盗賊として有名だった。彼らの凶行で幾つもの村が襲われ、焼き払われ、犠牲になった村人も多い。
「行くぞ!野郎共!好きなだけ暴れて残らず奪い尽くせ!」
頭の掛け声に盗賊の男達が声を張り上げて後に続いた。
村の囲いをあっけなく突き破り、村に押し入った。しかし、そこには、村人の姿はない。家に立て込んでいるのかとも思ったがそれにしても、妙だ。まるで人の気配を感じない。これではまるで…、
「頭!あそこに人が…、」
「あ?」
部下の言葉に頭は顔を上げた。そこには、一人の抜身の剣を手にした男がゆっくりと近付いてきた。雪の様に真っ白なフードを被り、男の素顔は見えない。ただ、こちらは五十人以上の集団であるにも関わらず、相手は一人。しかも、武器は剣だけだ。にも関わらず男は逃げる様子はなく、着々とこちらに近付いてきている。その足取りに迷いはない。それに妙な迫力もあった。が、そんな相手に臆する盗賊たちではない。一人が持っていた銃を発砲した。が、謎の剣士は剣を一閃し、銃弾を叩き落とした。
「なっ…!?」
弾を叩き落とすなんて想定外の反撃に彼らは動揺した。今度こそと立て続けに銃弾を打ち込むが掠りもしなかった。銃を撃つと同時に男はどこから弾が飛んでくるのか分かっているように避け、時には持っている剣で弾を叩き落とすのだ。そうしている内に男はどんどん距離を縮め、遂には弾が切れてしまった。
「チッ!小賢しい真似をしやがって!」
暴虐の熊が男に向かって大剣を振り上げた。そのまま男を斬り伏せたと思ったら、刃が男に当たる寸前、ユラリと男の身体が炎の様に揺らめいた。そのまま男の身体が消えたように見えた。
「なっ!?き、消えた?」
空振りになった剣を手に男の姿を追おうとする頭だったが
「ぎゃああああ!?」
背後から聞こえる部下達の叫び声に頭は勢いよく振り返った。見れば既に数人の部下が急所を斬りつけられており、絶命していた。その間にも次々と部下達が血を流しながらバタバタと倒れていく。まるで風のような早さだった。ヒュン、と剣を振り払い、血がビシャリと地面に飛び散った。消えたと思った男がいつの間にか立っていた。剣を振り払ったと同時にまた数人の部下が地面に倒れ込んだ。
―ま、まさか…。今の全部あの野郎が…?ば、馬鹿な…。あ、有り得ない。こんな、こんな事が…、
頭は漸く目の前の男が危険であることに気が付いた。何が起こったのか頭自身も分からないが部下が血の海の中死んでいるのはこの男が原因であることだけは分かった。
「うわあああ!に、逃げろ!」
「ば、化け物だ!」
仲間の死を目の当たりにした盗賊の一人が逃げ出した。それに続いて他の男達も我先にと逃げ出した。が、男は逃げ惑う盗賊達の背を見ると、タッと駆け出した。そして、数秒後にはもう見えない影となって盗賊達を斬りつけていった。辛うじて、影みたいなものが時々視界で確認できる程度のものだ。傍から見れば盗賊たちが一人でに倒れていくだけにしか見えない。まるで風の刃で斬りつけられているかのようだ。そんな不可解な現象に襲われているのだと錯覚する位に。頭はすぐにその場を逃げ出した。部下達を見捨てて。
「チッ…!」
神業ともいえる剣技と銃も通用しない男に頭の判断は早かった。すぐに馬を走らせ、背を向けて逃げ出した。
―くそっ!こんな所で死んでたまるか!
あの男が部下を屠っている内に逃げようとする頭だったが村を出た所で、突然、馬が崩れ落ちた。頭は慌てて馬から飛び降りると、地面に着地した。
「くそっ!急いでるってのに…!この、役立たずめ!」
そう言って、馬を罵倒していると背後に気配を感じた。
「暴虐の熊、だな。」
振り向けばそこには血を滴らせた剣を手にした例の男が立っていた。
「な、何なんだ…!手前、ただの村人じゃないな!」
「村人?俺は村人だなんて名乗った覚えはないが?」
「舐めやがって!」
頭は男に斬りかかった。男はスッと軽く身体を動かしただけで男の剣を避けた。風圧で男のフードが外れ、素顔が露になった。白金の髪が夕日の光に反射して眩しく映った。青い瞳は空の様に澄んでいる。人形の様に整った容姿はまるで芸術品のよう…。思わず見惚れてしまうそんな美しさだった。男が目を細め、僅かに剣の刃が反射する。
「ぐはあ!?」
いつの間にか足の腱を切断されていたのか激痛が走り、頭はその場に倒れ伏した。
「く、そ…!お、お前…!お前一体何者なんだ!?」
男はその言葉に僅かに眉を顰めたが溜息を吐きながらも答えた。
「…白薔薇騎士、アルバート・ド・ルイゼンブルクだ。」
「し、白薔薇騎士…!?」
頭は驚愕した。裏の世界では王国の最強兵器とまで言われている化け物共の集団…。普通の騎士とは比べ物にならない強さを持ち、一人だけで千人力の戦力を誇るといわれている。薔薇騎士に睨まれたら終わりだ。薔薇騎士だけは絶対に敵に回すなというのが暗黙のルールとして成り立っている位に恐れられている程に。まさか、国王がたかが田舎の村や街を襲ったくらいで薔薇騎士に討伐を任せるとは思いもしなかった。スッと薔薇騎士の手が掲げられる。
「お前には聞きたいことが山ほどある。だから…、暫く眠っていろ。」
ドスッと首に激痛が走り、そのまま暴虐の熊は気絶した。
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