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第五十九話 叔母の存在
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「大丈夫だったか?リエル。」
「え、ええ…。その、色々と彼女の話はおかしいことばかりで驚きました。」
「会ったこともないのにさっきのように俺を知り合いかの様に話しかけてくるし、あの令嬢は精神的におかしいのだろうな。あれでは、有力な情報を聞き出すのは無理かもしれない。」
「でも…、」
「どうかしたのか?」
「あ、いいえ。その…、気になる事がありまして…、」
リエルはリーリアの言葉の全てがあながち間違いではないのかもしれないと思った。だって、彼女はルイやリヒターの過去を知っていた。それが逆に恐ろしかった。でも、それを言葉には出さず、リエルは別の事を話した。
「彼女は最後にあの人の言う事に間違いはないと言っていました。もしかして、協力者がいたのかもしれません。」
「成程。可能性はあるな。」
セイアスは思案気に呟いた。その時、ガターン!と何かが倒れたような大きな音が聞こえた。その後もガン!ゴン!と何かを叩きつけるような音と男の悲鳴が聞こえた。
「あれは…、尋問室からか…。すまない。リエル。少し様子を見てくる。ここで少し待っていてくれ。」
そう言い、セイアスは音のする方向に駆け足で向かった。リエルは呆然としていたが何かあったのかが気になり、その後を追った。セイアスが一つの部屋に入っていくのが見えた。もしかして、取り調べ中の囚人が暴れているのだろうか?そう思っていると、
「落ち着け!アルバート!やりすぎだ!」
リエルはその言葉にハッと身体を強張らせた。彼がここに?
「何で止めるんだ!こういう奴はこれ位痛めつけないと、自分の仕出かしたことも自覚しない屑野郎だぞ!」
「ヒッ、ヒイイ!」
「気持ちは分かるがそれ以上、すれば尋問どころではない。また気絶したら…、」
どうやら、例のリエルを襲ったあの男の尋問をアルバートがしているみたいだ。が、どうもかなりやり過ぎているみたいでセイアスが止めているという状況だろう。男の震え上がった声がここまで聞こえている。
「…で?お前、さっき何て言ったんだ?」
「ヒッ!?」
「リエルが不義の子って噂は知っている。けど…、本当にそれだけか?ただの噂だけでお前は五大貴族の娘に手を出したと?…もし、それが嘘だと分かったらお前どう落とし前つけるつもりなんだ?」
「う、噂も何も…、あの髪と目の色が何よりの証だ!あの女には先代当主とオレリーヌ様どちらの色も引き継がれていないじゃないか!容姿だって、美しくもない地味で凡庸だ。あんな女が名門貴族、フォルネーゼ家の実子であるものか!」
リエルはピクリ、と耳を震わせた。
「両親と髪と目の色が違うから実の子ではないと誰が決めたんだ?子が親に似るのはよくあるが必ずしも、子が親に似るとは限らない。大体、子が親の何を引き継ぐかなんて分からないだろう。」
「だ、だが俺は確かに聞いたんだ!リエルはフォルネーゼ家の子ではなく、不義の子だと…、」
リエルはバッと顔を上げた。私が不義の子だと誰かが?
「ほお…。それで、お前はその妄言を真に受けてあいつに手を出したと?…そいつの名は?」
「わ、わたしは何も知らない!聞いていない!う、噂で知っただけで…、ヒイッ!」
慌てて誤魔化そうとする男だが突然、男は悲鳴を上げる。アルバートが男の胸蔵を掴み上げたからだ。
「…今度こそ、窓から突き落とされたいのか?」
お望みながらそうするが?と言うアルバートに男は情けない程、悲鳴を上げた。
「アルバート。よせ。冷静になるんだ。」
アルバートの肩を掴み、セイアスは諭した。
「…分かった。」
アルバートが手を離すと、男はゴホッゴホッと咳き込んだ。
「まあ、聞かなくても大体の予想はついているがな。オレリーヌ・ド・フォルネーゼ。あの女がリエルは不義の子だと言った。違うか?」
リエルは目を見開いた。お母様が…?私を…?
「ッ、な、何故…!?」
「…やっぱりな。そうじゃないかと思った。幾らリーリアの頼みでもさすがに五大貴族に手を出せばどんな目に遭うかなど考えるまでもない。大方、オレリーヌにあいつは不義の子なんだから手を出しても五大貴族に手を出したことにはならないとでも言われたんじゃないのか?母親である自分がそう言うのだから、それが真実だと。」
「そ、そうだ!実の母親がそう言ったんだ!だから、あの女は五大貴族なんかじゃ…、」
お母様が私を不義の子だと言った。それはリエルの心に衝撃を与えた。じゃあ、私はやっぱり…、動揺のあまりリエルは手が震える。まるで足元が崩れ落ちていく感覚に陥った。
「愚かな男だな。そうやって、あの女の策に嵌まったのか。」
「な、何だと…?」
「あいつは、不義の子じゃない。フォルネーゼ家の正統な血筋を持った娘だ。」
リエルは伏せていた視線をそっと上げた。
「う、嘘を吐くな!あんな親の誰にも似てない女…、」
「似てなくて当然だろうが!リエルはそもそも、父親似でも母親似でもないんだから!」
リエルは思わず顔を上げた。
「あいつは、叔母似なんだよ!だから、髪も目の色も違うんだ!」
叔母…?私の親族に容姿が似ている人は誰一人いない筈だ。呆然とするリエル。
「あいつは、先代当主、エドゥアルト様の妹に瓜二つなんだよ!だから、両親のどちらにも似ていないんだ!」
父に妹?そんなの聞いたことがない。リエルは初めて知る事実に驚愕した。
「なのに、お前ら貴族ときたら…!親に似てないからって好き勝手に噂をしまくって…、あいつがそのせいでどれだけ苦しんできたのか分かってんのか!お前ら、本当に腐った屑野郎だな!」
「ぎゃああああ!?」
「アルバート!」
男の悲鳴とガシャン!と何かに叩きつけられる音がした。もしかして、アルバートがまた男を投げ飛ばしたのだろうか。男の悲鳴が止み、セイアスの溜息が静かになった部屋に響いた。
「…アルバート。まだこの男には尋問することがたくさんあったのだが?」
「じゃあ、水をぶっかけて起こすか。」
「そういう問題じゃない。…アルバート。お前はまず、その感情のコントロールを何とかしろ。お前はただでさえ、その能力で力が暴走しがちな傾向にあるんだから。」
「これでも、抑えたつもりなんだが。」
「これでか。」
「殺してないからいいだろ。」
「ハア…。全く…。それより、今の話は本当なのか?アルバート。」
「本当だ。俺がエドゥアルト様本人から聞いた話だからな。」
「この事をリエルは?」
「あいつは知らない。エドゥアルト様がリエルには叔母の存在を明かさないように秘密にしていたから。」
不意にキイ、と扉が開いた。二人が入り口に視線を向けると、
「!?り、リエル!?」
愕然とした表情で佇むリエルが立っていた。
「え、ええ…。その、色々と彼女の話はおかしいことばかりで驚きました。」
「会ったこともないのにさっきのように俺を知り合いかの様に話しかけてくるし、あの令嬢は精神的におかしいのだろうな。あれでは、有力な情報を聞き出すのは無理かもしれない。」
「でも…、」
「どうかしたのか?」
「あ、いいえ。その…、気になる事がありまして…、」
リエルはリーリアの言葉の全てがあながち間違いではないのかもしれないと思った。だって、彼女はルイやリヒターの過去を知っていた。それが逆に恐ろしかった。でも、それを言葉には出さず、リエルは別の事を話した。
「彼女は最後にあの人の言う事に間違いはないと言っていました。もしかして、協力者がいたのかもしれません。」
「成程。可能性はあるな。」
セイアスは思案気に呟いた。その時、ガターン!と何かが倒れたような大きな音が聞こえた。その後もガン!ゴン!と何かを叩きつけるような音と男の悲鳴が聞こえた。
「あれは…、尋問室からか…。すまない。リエル。少し様子を見てくる。ここで少し待っていてくれ。」
そう言い、セイアスは音のする方向に駆け足で向かった。リエルは呆然としていたが何かあったのかが気になり、その後を追った。セイアスが一つの部屋に入っていくのが見えた。もしかして、取り調べ中の囚人が暴れているのだろうか?そう思っていると、
「落ち着け!アルバート!やりすぎだ!」
リエルはその言葉にハッと身体を強張らせた。彼がここに?
「何で止めるんだ!こういう奴はこれ位痛めつけないと、自分の仕出かしたことも自覚しない屑野郎だぞ!」
「ヒッ、ヒイイ!」
「気持ちは分かるがそれ以上、すれば尋問どころではない。また気絶したら…、」
どうやら、例のリエルを襲ったあの男の尋問をアルバートがしているみたいだ。が、どうもかなりやり過ぎているみたいでセイアスが止めているという状況だろう。男の震え上がった声がここまで聞こえている。
「…で?お前、さっき何て言ったんだ?」
「ヒッ!?」
「リエルが不義の子って噂は知っている。けど…、本当にそれだけか?ただの噂だけでお前は五大貴族の娘に手を出したと?…もし、それが嘘だと分かったらお前どう落とし前つけるつもりなんだ?」
「う、噂も何も…、あの髪と目の色が何よりの証だ!あの女には先代当主とオレリーヌ様どちらの色も引き継がれていないじゃないか!容姿だって、美しくもない地味で凡庸だ。あんな女が名門貴族、フォルネーゼ家の実子であるものか!」
リエルはピクリ、と耳を震わせた。
「両親と髪と目の色が違うから実の子ではないと誰が決めたんだ?子が親に似るのはよくあるが必ずしも、子が親に似るとは限らない。大体、子が親の何を引き継ぐかなんて分からないだろう。」
「だ、だが俺は確かに聞いたんだ!リエルはフォルネーゼ家の子ではなく、不義の子だと…、」
リエルはバッと顔を上げた。私が不義の子だと誰かが?
「ほお…。それで、お前はその妄言を真に受けてあいつに手を出したと?…そいつの名は?」
「わ、わたしは何も知らない!聞いていない!う、噂で知っただけで…、ヒイッ!」
慌てて誤魔化そうとする男だが突然、男は悲鳴を上げる。アルバートが男の胸蔵を掴み上げたからだ。
「…今度こそ、窓から突き落とされたいのか?」
お望みながらそうするが?と言うアルバートに男は情けない程、悲鳴を上げた。
「アルバート。よせ。冷静になるんだ。」
アルバートの肩を掴み、セイアスは諭した。
「…分かった。」
アルバートが手を離すと、男はゴホッゴホッと咳き込んだ。
「まあ、聞かなくても大体の予想はついているがな。オレリーヌ・ド・フォルネーゼ。あの女がリエルは不義の子だと言った。違うか?」
リエルは目を見開いた。お母様が…?私を…?
「ッ、な、何故…!?」
「…やっぱりな。そうじゃないかと思った。幾らリーリアの頼みでもさすがに五大貴族に手を出せばどんな目に遭うかなど考えるまでもない。大方、オレリーヌにあいつは不義の子なんだから手を出しても五大貴族に手を出したことにはならないとでも言われたんじゃないのか?母親である自分がそう言うのだから、それが真実だと。」
「そ、そうだ!実の母親がそう言ったんだ!だから、あの女は五大貴族なんかじゃ…、」
お母様が私を不義の子だと言った。それはリエルの心に衝撃を与えた。じゃあ、私はやっぱり…、動揺のあまりリエルは手が震える。まるで足元が崩れ落ちていく感覚に陥った。
「愚かな男だな。そうやって、あの女の策に嵌まったのか。」
「な、何だと…?」
「あいつは、不義の子じゃない。フォルネーゼ家の正統な血筋を持った娘だ。」
リエルは伏せていた視線をそっと上げた。
「う、嘘を吐くな!あんな親の誰にも似てない女…、」
「似てなくて当然だろうが!リエルはそもそも、父親似でも母親似でもないんだから!」
リエルは思わず顔を上げた。
「あいつは、叔母似なんだよ!だから、髪も目の色も違うんだ!」
叔母…?私の親族に容姿が似ている人は誰一人いない筈だ。呆然とするリエル。
「あいつは、先代当主、エドゥアルト様の妹に瓜二つなんだよ!だから、両親のどちらにも似ていないんだ!」
父に妹?そんなの聞いたことがない。リエルは初めて知る事実に驚愕した。
「なのに、お前ら貴族ときたら…!親に似てないからって好き勝手に噂をしまくって…、あいつがそのせいでどれだけ苦しんできたのか分かってんのか!お前ら、本当に腐った屑野郎だな!」
「ぎゃああああ!?」
「アルバート!」
男の悲鳴とガシャン!と何かに叩きつけられる音がした。もしかして、アルバートがまた男を投げ飛ばしたのだろうか。男の悲鳴が止み、セイアスの溜息が静かになった部屋に響いた。
「…アルバート。まだこの男には尋問することがたくさんあったのだが?」
「じゃあ、水をぶっかけて起こすか。」
「そういう問題じゃない。…アルバート。お前はまず、その感情のコントロールを何とかしろ。お前はただでさえ、その能力で力が暴走しがちな傾向にあるんだから。」
「これでも、抑えたつもりなんだが。」
「これでか。」
「殺してないからいいだろ。」
「ハア…。全く…。それより、今の話は本当なのか?アルバート。」
「本当だ。俺がエドゥアルト様本人から聞いた話だからな。」
「この事をリエルは?」
「あいつは知らない。エドゥアルト様がリエルには叔母の存在を明かさないように秘密にしていたから。」
不意にキイ、と扉が開いた。二人が入り口に視線を向けると、
「!?り、リエル!?」
愕然とした表情で佇むリエルが立っていた。
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