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第五十二話 今回だけだ
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鏡に映る自分を見る。このドレス少し露出度が激しいのではないかな?リエルは鏡に映る自分を見ながらそう思った。肩が剥き出しになっていて、何だか落ち着かない。
―お姉様が着れば色っぽく着こなせるだろうけど…、
リエルは姉の肉感的なスタイルを思い出す。チラリ、と自分の胸を見下ろせばそこにはささやかな膨らみの胸しかない。リエルはしょぼんと落ち込んだ。
―昔は、大きくなればお母様の様に大きくなるんだと希望を抱いていたけど…、多分、一生このままなんだろうな。
顔ばかりか体つきまでいいとこどりの母と姉が心底、羨ましい。顔が駄目でもせめて胸があれば諦めもついたのに。はあ、と溜息を吐きながらリエルは鏡にもう一度目をやる。そこには、暗い表情をした地味な女が映っていた。
『能天気に笑ってる方が…、い、いいんじゃないか。』
不意に彼の言葉が思い出される。リエルはそっと鏡に手を添える。髪は綺麗に編み込まれ、エメラルドと金の髪飾りで彩られている。リエルは笑顔を浮かべた。
―彼は…、私のこの姿を見て…、どう思ってくれるかな?
リエルは空色の瞳をした彼の姿を想像した。
「あの…、待たせてごめんなさい。ルイ。リヒター。」
「姉上!…何て素敵なんでしょう!まるで森の妖精の様です…。」
「あ、ありがとう。ルイ。」
「旦那様の仰る通り。とても似合っていますよ。お嬢様。やはり、お嬢様には大人っぽい色がよく合いますね。」
「ありがとう。リヒター。」
「アルバート様もそう思いませんか?」
アルバートは何も言わない。リエルが入った時から、じっとこちらを見るだけの彼にリエルはやっぱり、似合ってないのかなと不安になった。リヒターが声をかけると、アルバートはハッと我に返ると、
「…ま、馬子にも衣装だな。」
プイッと顔を背けるアルバートにリエルはやっぱり、可愛いとは言ってくれないかと落胆したがでも、少しはマシに見られているということかなと前向きに考えることにした。冷ややかな視線をアルバートに注ぐ存在に気づかず。
「…旦那様。そういえば、例の件でお話があるのでした。暫しお時間を頂けますね?…という訳ですので。アルバート様。私達は少し時間がかかるので先にお嬢様をエスコートして差し上げて下さいね?」
「なっ!?リヒター!?」
ルイが目を見開くがリヒターは微笑むと、ルイの肩を掴んだ。
「さあ、行きましょうか。旦那様。」
「ま、待て!リヒター!ぼ、僕が姉上のエスコートを…!」
ルイが抗うが無情にも扉が閉められ、リヒターは別室にルイを連れて行ってしまう。リエルは突然の事に口をはさむ暇がなかった。リエルはチラッとアルバートを見上げると、バチッと彼と目が合った。彼は一瞬、気まずそうに視線を彷徨わせるがスッとリエルに手を差し出した。
「今回だけだ。」
「あ、ありがとうございます。アルバート様。」
リエルは彼の手の上にそっと自分の手を乗せた。
―アルバート様…。また、背が大きくなった気がする。
昔はリエルより同じか少し高い位の変わらない背丈だったのに成長期に入った途端に彼の背はどんどん高くなり、今では見上げる程に大きい。それに、子供の頃は線が細く、儚げな美少年だったのに今は騎士をやっているのもあって細身ながらも凛とした雰囲気がある。加えてこの美貌だ。アルバートの母、グレースはリエルの母とはタイプが違う美しさだ。オレリーナは黒い真珠と謳われ、その華やかな美貌と匂い立つ色香は有名だがグレースは儚げで清楚な美貌が有名である。そんな母譲りの美貌を受け継いだアルバートは確かに美しい。
―アルバート様みたいな人の隣に立つ女性は…、きっとそれに釣り合う美しい方なんだろうな。お姉様やリーリア嬢みたいな。
リエルはズキリ、と胸が痛んだ。
「あら、アルバート様よ!…!?」
「戻ってこられたのね!…え。」
アルバートの姿を目ざとく発見した令嬢達が声を上げるがその隣にいるリエルを見て目を吊り上げた。
「何であの女が…、」
「セイアス様やサミュエル様だけでなく、アルバート様にまで媚を売るなんて…!」
し、視線が痛い。視線で人が殺せるならリエルは今、滅多刺しにされて即死している。そんなレベルの殺気が込められた視線だった。
「アルバート様。ここまで送って頂き、ありがとうございます。」
そう言って、早々に立ち去ろうとしたが、
「待て。リエル。」
不意に手首を掴まれる。え?とリエルが目を見開いていると、
「その…、」
「あの…、何か?」
「リエル。俺と踊っ、「アルバート!」
意を決したように口を開くアルバートだったがそれに被せるように女の高い声がかけられた。この声は…、リエルが顔を上げると、
「お帰りなさい。アルバート。待っていたのよ。…それなのに、どうして、その娘が一緒にいるのかしら?」
「お姉様…。」
セリーナが扇を手にしながらもリエルを睨みつけて立っていた。
「セリーナ…。」
「アルバート!さあ、あたし達も踊りましょう?」
「え、ちょっ…、セリーナ。悪いんだけど俺、今は…、」
セリーナはアルバートに抱き着くと、どさくさ紛れにリエルの手を扇で叩き落とした。セリーナはアルバートにその豊満な胸を押し付け、
「寂しかったわ。アルバート。あなたがいない間、あたし退屈で…、」
寄り添う二人は絵になる位にお似合いだった。リエルはグッと歯を噛み締めると、軽く頭を下げて二人に背を向けた。
「ま、待て!リエル!まだ話は…、」
背後で呼び止める声が聞こえるがリエルは振り返らなかった。
―お姉様が着れば色っぽく着こなせるだろうけど…、
リエルは姉の肉感的なスタイルを思い出す。チラリ、と自分の胸を見下ろせばそこにはささやかな膨らみの胸しかない。リエルはしょぼんと落ち込んだ。
―昔は、大きくなればお母様の様に大きくなるんだと希望を抱いていたけど…、多分、一生このままなんだろうな。
顔ばかりか体つきまでいいとこどりの母と姉が心底、羨ましい。顔が駄目でもせめて胸があれば諦めもついたのに。はあ、と溜息を吐きながらリエルは鏡にもう一度目をやる。そこには、暗い表情をした地味な女が映っていた。
『能天気に笑ってる方が…、い、いいんじゃないか。』
不意に彼の言葉が思い出される。リエルはそっと鏡に手を添える。髪は綺麗に編み込まれ、エメラルドと金の髪飾りで彩られている。リエルは笑顔を浮かべた。
―彼は…、私のこの姿を見て…、どう思ってくれるかな?
リエルは空色の瞳をした彼の姿を想像した。
「あの…、待たせてごめんなさい。ルイ。リヒター。」
「姉上!…何て素敵なんでしょう!まるで森の妖精の様です…。」
「あ、ありがとう。ルイ。」
「旦那様の仰る通り。とても似合っていますよ。お嬢様。やはり、お嬢様には大人っぽい色がよく合いますね。」
「ありがとう。リヒター。」
「アルバート様もそう思いませんか?」
アルバートは何も言わない。リエルが入った時から、じっとこちらを見るだけの彼にリエルはやっぱり、似合ってないのかなと不安になった。リヒターが声をかけると、アルバートはハッと我に返ると、
「…ま、馬子にも衣装だな。」
プイッと顔を背けるアルバートにリエルはやっぱり、可愛いとは言ってくれないかと落胆したがでも、少しはマシに見られているということかなと前向きに考えることにした。冷ややかな視線をアルバートに注ぐ存在に気づかず。
「…旦那様。そういえば、例の件でお話があるのでした。暫しお時間を頂けますね?…という訳ですので。アルバート様。私達は少し時間がかかるので先にお嬢様をエスコートして差し上げて下さいね?」
「なっ!?リヒター!?」
ルイが目を見開くがリヒターは微笑むと、ルイの肩を掴んだ。
「さあ、行きましょうか。旦那様。」
「ま、待て!リヒター!ぼ、僕が姉上のエスコートを…!」
ルイが抗うが無情にも扉が閉められ、リヒターは別室にルイを連れて行ってしまう。リエルは突然の事に口をはさむ暇がなかった。リエルはチラッとアルバートを見上げると、バチッと彼と目が合った。彼は一瞬、気まずそうに視線を彷徨わせるがスッとリエルに手を差し出した。
「今回だけだ。」
「あ、ありがとうございます。アルバート様。」
リエルは彼の手の上にそっと自分の手を乗せた。
―アルバート様…。また、背が大きくなった気がする。
昔はリエルより同じか少し高い位の変わらない背丈だったのに成長期に入った途端に彼の背はどんどん高くなり、今では見上げる程に大きい。それに、子供の頃は線が細く、儚げな美少年だったのに今は騎士をやっているのもあって細身ながらも凛とした雰囲気がある。加えてこの美貌だ。アルバートの母、グレースはリエルの母とはタイプが違う美しさだ。オレリーナは黒い真珠と謳われ、その華やかな美貌と匂い立つ色香は有名だがグレースは儚げで清楚な美貌が有名である。そんな母譲りの美貌を受け継いだアルバートは確かに美しい。
―アルバート様みたいな人の隣に立つ女性は…、きっとそれに釣り合う美しい方なんだろうな。お姉様やリーリア嬢みたいな。
リエルはズキリ、と胸が痛んだ。
「あら、アルバート様よ!…!?」
「戻ってこられたのね!…え。」
アルバートの姿を目ざとく発見した令嬢達が声を上げるがその隣にいるリエルを見て目を吊り上げた。
「何であの女が…、」
「セイアス様やサミュエル様だけでなく、アルバート様にまで媚を売るなんて…!」
し、視線が痛い。視線で人が殺せるならリエルは今、滅多刺しにされて即死している。そんなレベルの殺気が込められた視線だった。
「アルバート様。ここまで送って頂き、ありがとうございます。」
そう言って、早々に立ち去ろうとしたが、
「待て。リエル。」
不意に手首を掴まれる。え?とリエルが目を見開いていると、
「その…、」
「あの…、何か?」
「リエル。俺と踊っ、「アルバート!」
意を決したように口を開くアルバートだったがそれに被せるように女の高い声がかけられた。この声は…、リエルが顔を上げると、
「お帰りなさい。アルバート。待っていたのよ。…それなのに、どうして、その娘が一緒にいるのかしら?」
「お姉様…。」
セリーナが扇を手にしながらもリエルを睨みつけて立っていた。
「セリーナ…。」
「アルバート!さあ、あたし達も踊りましょう?」
「え、ちょっ…、セリーナ。悪いんだけど俺、今は…、」
セリーナはアルバートに抱き着くと、どさくさ紛れにリエルの手を扇で叩き落とした。セリーナはアルバートにその豊満な胸を押し付け、
「寂しかったわ。アルバート。あなたがいない間、あたし退屈で…、」
寄り添う二人は絵になる位にお似合いだった。リエルはグッと歯を噛み締めると、軽く頭を下げて二人に背を向けた。
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背後で呼び止める声が聞こえるがリエルは振り返らなかった。
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