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第四十八話 リヒターの出自
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―そっか。アルバート様はリーリアに心惹かれていたわけじゃないんだ。
「何だよ?」
「あ。いいえ。ただ、意外だなって思って。リーリア嬢ってあれだけ可愛らしい方だから、アルバート様もてっきり彼女が好きなのかと、」
そこまで言いかけたリエルだったがアルバートが思いっきり渋い顔をしたのを見て、口を噤んだ。その表情だけでアルバートの気持ちが雄弁に語っていた。
「俺はそこまで女の趣味は悪くない。大体、あいつ絶対浮気や二股する最低女だぞ。幾ら顔が良くても、自分以外の男を誘惑して平然と愛の言葉を吐く女なんか気持ち悪いだけだ!」
そ、それは確かに…。リエルはリーリアの態度を思い出し、納得してしまう。彼女はルイやリヒターにも近づこうとした位だ。貞淑さの欠片もないといえるだろう。
「あ…、でも、こんな機密事項話しても良かったのですか?」
「…黒猫を追っているお前なら無関係でもないだろう。それに…、今回のは…、詫びも含まれているからな。」
「え?」
アルバートの言葉にリエルはキョトンとした。詫び?何の?アルバートは一瞬、気まずそうに顔を背け、前髪を掴みながら、視線を彷徨わせた。
―あれ?この仕草…。
リエルはこの癖に見覚えがあった。いつも意地悪をされた後に泣き出したリエルにやり過ぎたと思ったアルバートが謝ろうとする前に必ずする癖だった。
「その…、この間は悪かった。言い過ぎた。」
あのプライドが高いアルバートが謝った。リエルはびっくりして言葉が出てこない。
「あの時は、その…、虫の居所が悪くて心にもないことを言った。お前は人形でもないし、ちゃんと心のある人間で人一倍傷つきやすい女だって知っていたのに、その…、お前があんまりにも本心を見せないからついカッとなって…、誤解がないよう言っておくが俺はお前を気持ち悪いなんて思ったことはない。」
「…。」
「だから…、って、おい。聞いているのか?」
「…あなた、アルバート様なんですか?」
「はあ?」
「もしかして、変身能力で姿を変えた別の薔薇騎士なのでは…、」
「違えよ!正真正銘、俺に決まってるだろうが!人が折角、殊勝に謝ってんのにお前って奴は…!」
ああ。うん。このすぐに怒り出すところはアルバートだ。リエルは妙に納得した。
「フフッ…、」
幼馴染の昔の面影を思い出し、リエルは笑った。すると、アルバートが目を瞠り、黙り込んだ。
「どうしました?アルバート様。」
「いや…。お前、そうやって笑えるんだな。お前の笑顔何て、ここ数年間目にしてなかったから…、」
「?私、アルバート様の前では笑っていましたけど…、」
「表面上はな。けど、あんな作った笑い方じゃなくて、もっと…、自然な心からの笑った顔なんてずっと見せなかっただろ。」
リエルは目を見開いた。リエルの仮面の笑みを彼はずっと見抜いていたんだ。そして、気付いた。自分は最後にアルバートの前で心からの笑顔を見せたのはいつだっただろうか。すぐに思い出せない位にはずっと前のことだった気がする。恐らく、彼との婚約が決まった時から…、私は彼に心を閉ざし、作った微笑みしか見せていなかった。
「その…、い、いつもの何考えているのか分からない淑女の微笑みよりも、そうやって、能天気に笑ってる方がい、いいんじゃないのか。」
「え…、」
ゴホン、とわざとらしく咳払いをしてそう言うアルバートの言葉にリエルは思わず彼を見上げた。その時、
「お取込み中の所、申し訳ありませんが…、そろそろお嬢様を返して頂きましょうか。白薔薇騎士殿。」
バッとほぼ同じタイミングで二人同時に声のする方向に顔を向ければそこには…、いつの間にか正装姿で佇んでいるリヒターが立っていた。今日は眼鏡を外しており、その怜悧な美貌が露になっていた。
「り、リヒター!て、手前いつからそこに!?」
「つい先程ですよ。全く。あなたという方は…、薔薇騎士ともあろう者が一介の執事の気配に気づかなかったのですか?まだまだ未熟な証拠ですね。白薔薇騎士殿。…いえ、この場合は愚弟と呼んだ方がふさわしいかもしれませんね。」
にっこりと微笑みながら強烈な嫌味を吐くリヒターにアルバートは怒鳴り返した。
「その、愚弟って呼び方やめろ!」
「愚弟を愚弟と呼んで何が悪いのです。文句があるのなら、それなりの振る舞いをすればよろしいでしょう。…はあ。こうして、一々口にしないと分からないだなんて手のかかる弟を持つと兄は苦労します。」
「一々、厭味ったらしい奴だな!お前は!俺だって、手前みたいな小姑な兄なんて願い下げだ!」
リヒター・ド・ルイゼンブルク。ルイゼンブルク家の第一子として生まれ、アルバートの実の兄であり、五大貴族の息子。それが執事、リヒターの出自であった。
「何だよ?」
「あ。いいえ。ただ、意外だなって思って。リーリア嬢ってあれだけ可愛らしい方だから、アルバート様もてっきり彼女が好きなのかと、」
そこまで言いかけたリエルだったがアルバートが思いっきり渋い顔をしたのを見て、口を噤んだ。その表情だけでアルバートの気持ちが雄弁に語っていた。
「俺はそこまで女の趣味は悪くない。大体、あいつ絶対浮気や二股する最低女だぞ。幾ら顔が良くても、自分以外の男を誘惑して平然と愛の言葉を吐く女なんか気持ち悪いだけだ!」
そ、それは確かに…。リエルはリーリアの態度を思い出し、納得してしまう。彼女はルイやリヒターにも近づこうとした位だ。貞淑さの欠片もないといえるだろう。
「あ…、でも、こんな機密事項話しても良かったのですか?」
「…黒猫を追っているお前なら無関係でもないだろう。それに…、今回のは…、詫びも含まれているからな。」
「え?」
アルバートの言葉にリエルはキョトンとした。詫び?何の?アルバートは一瞬、気まずそうに顔を背け、前髪を掴みながら、視線を彷徨わせた。
―あれ?この仕草…。
リエルはこの癖に見覚えがあった。いつも意地悪をされた後に泣き出したリエルにやり過ぎたと思ったアルバートが謝ろうとする前に必ずする癖だった。
「その…、この間は悪かった。言い過ぎた。」
あのプライドが高いアルバートが謝った。リエルはびっくりして言葉が出てこない。
「あの時は、その…、虫の居所が悪くて心にもないことを言った。お前は人形でもないし、ちゃんと心のある人間で人一倍傷つきやすい女だって知っていたのに、その…、お前があんまりにも本心を見せないからついカッとなって…、誤解がないよう言っておくが俺はお前を気持ち悪いなんて思ったことはない。」
「…。」
「だから…、って、おい。聞いているのか?」
「…あなた、アルバート様なんですか?」
「はあ?」
「もしかして、変身能力で姿を変えた別の薔薇騎士なのでは…、」
「違えよ!正真正銘、俺に決まってるだろうが!人が折角、殊勝に謝ってんのにお前って奴は…!」
ああ。うん。このすぐに怒り出すところはアルバートだ。リエルは妙に納得した。
「フフッ…、」
幼馴染の昔の面影を思い出し、リエルは笑った。すると、アルバートが目を瞠り、黙り込んだ。
「どうしました?アルバート様。」
「いや…。お前、そうやって笑えるんだな。お前の笑顔何て、ここ数年間目にしてなかったから…、」
「?私、アルバート様の前では笑っていましたけど…、」
「表面上はな。けど、あんな作った笑い方じゃなくて、もっと…、自然な心からの笑った顔なんてずっと見せなかっただろ。」
リエルは目を見開いた。リエルの仮面の笑みを彼はずっと見抜いていたんだ。そして、気付いた。自分は最後にアルバートの前で心からの笑顔を見せたのはいつだっただろうか。すぐに思い出せない位にはずっと前のことだった気がする。恐らく、彼との婚約が決まった時から…、私は彼に心を閉ざし、作った微笑みしか見せていなかった。
「その…、い、いつもの何考えているのか分からない淑女の微笑みよりも、そうやって、能天気に笑ってる方がい、いいんじゃないのか。」
「え…、」
ゴホン、とわざとらしく咳払いをしてそう言うアルバートの言葉にリエルは思わず彼を見上げた。その時、
「お取込み中の所、申し訳ありませんが…、そろそろお嬢様を返して頂きましょうか。白薔薇騎士殿。」
バッとほぼ同じタイミングで二人同時に声のする方向に顔を向ければそこには…、いつの間にか正装姿で佇んでいるリヒターが立っていた。今日は眼鏡を外しており、その怜悧な美貌が露になっていた。
「り、リヒター!て、手前いつからそこに!?」
「つい先程ですよ。全く。あなたという方は…、薔薇騎士ともあろう者が一介の執事の気配に気づかなかったのですか?まだまだ未熟な証拠ですね。白薔薇騎士殿。…いえ、この場合は愚弟と呼んだ方がふさわしいかもしれませんね。」
にっこりと微笑みながら強烈な嫌味を吐くリヒターにアルバートは怒鳴り返した。
「その、愚弟って呼び方やめろ!」
「愚弟を愚弟と呼んで何が悪いのです。文句があるのなら、それなりの振る舞いをすればよろしいでしょう。…はあ。こうして、一々口にしないと分からないだなんて手のかかる弟を持つと兄は苦労します。」
「一々、厭味ったらしい奴だな!お前は!俺だって、手前みたいな小姑な兄なんて願い下げだ!」
リヒター・ド・ルイゼンブルク。ルイゼンブルク家の第一子として生まれ、アルバートの実の兄であり、五大貴族の息子。それが執事、リヒターの出自であった。
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