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第四十四話 リーリアの狙い
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「ごめんなさい。アルバート様。迷惑かけちゃって…。」
「いや。俺のせいで気分が悪くなったんだ。謝るのは俺の方だ。」
リーリアはアルバートの怪我の手当てに付き添い、手当てが終わった直後に血を見たせいで気分が悪くなってしまい、どこかで休みたいと言い出したため、アルバートはリーリアに手を貸し、休憩室へと向かった。
「アルバート様。私、奥の部屋がいいです。あそこの休憩室は他にも人が来るかもしれないから…、」
断る理由もなかったため、アルバートはリーリアが休みたいといった別室に向かった。リーリアはアルバートに凭れながら、彼に見えない角度でうっすらと歪んだ笑みを浮かべていた。
「ん…?鍵が…。」
部屋に着いたが扉を開けようとすると鍵がかかっていた。訝しむアルバートにリーリアは不思議そうに首を傾げた。
「もしかして、中に誰かいるんでしょうか?」
アルバートは眉を顰めた。また、どこかの貴族が一夜限りのアバンチュールを楽しんでいるのだろう。アルバートは溜息を吐いた。
「逢引きの最中なのかもな。他を当たるとしよう。」
「で、でも…、何だか音がしませんか?もしかして、何かあったんじゃ…、」
中からは男女の言い争う声が聞こえる。痴話喧嘩だろうか?
「あたし、心配です。もしかしたら、発作か何かで苦しんでいるのかも…、あたし、騎士の方を呼んできます!」
「待て。リーリア。…俺が開けるから、下がっていろ。」
アルバートは扉に近付くと、手を翳した。一瞬目を瞑る。次に目を開けた時には…、彼の瞳は淡く光っていた。
「解除。」
短く、それだけを告げた。すると、鍵がカチリ、と音がし、ひとりでに扉が開いた。扉が開いた時にはアルバートの目は普段通りの色に戻っていた。アルバートは飛び込んだ光景に目を見開いた。
リエルは扉が開かれた音に視線を向けた。そこに立っていたのは、アルバートと彼の腕に自分の腕を絡ませているリーリア嬢だった。
「アル、バート様…?」
リエルは呆然と呟いた。
「こ、これは一体…?リエル様?何しているのです?そんな格好で…、」
リーリアはわなわなと震えながら驚愕したと言わんばかりに問い詰めた。
「し、信じられない!婚約者でもない方とそんないかがわしい真似をなさるなんて!まるで、娼婦みたい…!」
リエルは表情を強張らせた。彼女の狙いはこれだった。リエルが見ず知らずの男と関係を持っていると周囲に知らしめ、自分の評判を落とす為にわざわざこんな手の込んだ真似をしたのだ。その為にアルバートを連れてきたのだろう。これでリエルの評判は地に落ちた。元より、評判は最悪だったがそれに加えて男にふしだらな女としての悪い噂も広まる事だろう。あれだけ、リヒターに忠告されていたのに…。後悔しても遅い。これは、リエルのミスだった。まさか、リーリアが男を使って襲わせるなんて過激な手段をとるとは想像もつかなかった。
「これはこれは…、白薔薇騎士殿とリーリア嬢。お見苦しい所を…、何せ、彼女があまりにもしつこいものでして…、」
この二人はグルだったんだ。これもあらかじめ考えていたシナリオなのだろう。リエルはギュッと手を握り締めた。じわり、と涙がこみ上げる。駄目だ。ここで泣いては駄目。でも…、怖くて顔が上げられない。アルバートが無言でいるのが怖い。どんな目で私を見ているのだろう。失望、嫌悪、落胆?どちらにしろ、アルバートはリエルに幻滅したことだろう。これで決定的に嫌われた。元から、好かれてもいなかったが。
「アルバート様…!聞きました?リエル様ったら、あたしにはああ言っておきながら、裏ではこんな事をしていただなんて…、人って見かけによらないんですね。きっと、アルバート様と婚約していた間だって…、」
リーリアの言葉が何処か遠くに聞こえる。
「ねえ。アルバート。青い薔薇って見たことある?」
庭に咲いていた薔薇を見ながら、リエルはアルバートに青い薔薇について話した。青い薔薇は現実には存在しないと言う幼馴染にリエルは青い薔薇の挿絵が乗った絵本を掲げて見せた。
「知ってる?アルバート。青薔薇はね、『神の祝福』『奇跡』という花言葉があるらしいの。とっても素敵だと思わない?」
青い薔薇は昔から、幻の薔薇と言われている。昔から青い薔薇を生み出す研究が続けられているが誰も実現したことはない。
「お父様がね、今青薔薇の研究を進めているの。もし、成功したら一番に私に見せてくれるって約束してくれたの!」
「良かったな。」
「もし、青薔薇ができたら、アルバートにも見せるね。約束する!」
「お前は本当に薔薇が好きなんだな。」
「うん!大好き。」
「そんなに好きなら、俺が大きくなったら、薔薇騎士になってやるよ。リエルは騎士も好きだろ?俺が青薔薇騎士になったら、騎士章を賜ることができるからそれをお前に見せてやるよ。」
「騎士章?」
「騎士の証みたいなものらしいぞ。この前、父上が教えてくれたんだ。薔薇騎士の騎士章はそれぞれの色の薔薇をイメージして作られたものらしい。だから、俺が青薔薇騎士になったら、特別にお前に見せてやる。」
「本当?見たい!約束だよ!アルバート!」
「ああ。約束だ。」
「そうだ!薔薇騎士になったらお馬にも乗せて欲しいな。黒いお馬がいい!」
「そこは白馬じゃないのか?女の子って大体、白馬に憧れているのに。」
「だって、黒い馬の方がかっこいいから!」
「いや。俺のせいで気分が悪くなったんだ。謝るのは俺の方だ。」
リーリアはアルバートの怪我の手当てに付き添い、手当てが終わった直後に血を見たせいで気分が悪くなってしまい、どこかで休みたいと言い出したため、アルバートはリーリアに手を貸し、休憩室へと向かった。
「アルバート様。私、奥の部屋がいいです。あそこの休憩室は他にも人が来るかもしれないから…、」
断る理由もなかったため、アルバートはリーリアが休みたいといった別室に向かった。リーリアはアルバートに凭れながら、彼に見えない角度でうっすらと歪んだ笑みを浮かべていた。
「ん…?鍵が…。」
部屋に着いたが扉を開けようとすると鍵がかかっていた。訝しむアルバートにリーリアは不思議そうに首を傾げた。
「もしかして、中に誰かいるんでしょうか?」
アルバートは眉を顰めた。また、どこかの貴族が一夜限りのアバンチュールを楽しんでいるのだろう。アルバートは溜息を吐いた。
「逢引きの最中なのかもな。他を当たるとしよう。」
「で、でも…、何だか音がしませんか?もしかして、何かあったんじゃ…、」
中からは男女の言い争う声が聞こえる。痴話喧嘩だろうか?
「あたし、心配です。もしかしたら、発作か何かで苦しんでいるのかも…、あたし、騎士の方を呼んできます!」
「待て。リーリア。…俺が開けるから、下がっていろ。」
アルバートは扉に近付くと、手を翳した。一瞬目を瞑る。次に目を開けた時には…、彼の瞳は淡く光っていた。
「解除。」
短く、それだけを告げた。すると、鍵がカチリ、と音がし、ひとりでに扉が開いた。扉が開いた時にはアルバートの目は普段通りの色に戻っていた。アルバートは飛び込んだ光景に目を見開いた。
リエルは扉が開かれた音に視線を向けた。そこに立っていたのは、アルバートと彼の腕に自分の腕を絡ませているリーリア嬢だった。
「アル、バート様…?」
リエルは呆然と呟いた。
「こ、これは一体…?リエル様?何しているのです?そんな格好で…、」
リーリアはわなわなと震えながら驚愕したと言わんばかりに問い詰めた。
「し、信じられない!婚約者でもない方とそんないかがわしい真似をなさるなんて!まるで、娼婦みたい…!」
リエルは表情を強張らせた。彼女の狙いはこれだった。リエルが見ず知らずの男と関係を持っていると周囲に知らしめ、自分の評判を落とす為にわざわざこんな手の込んだ真似をしたのだ。その為にアルバートを連れてきたのだろう。これでリエルの評判は地に落ちた。元より、評判は最悪だったがそれに加えて男にふしだらな女としての悪い噂も広まる事だろう。あれだけ、リヒターに忠告されていたのに…。後悔しても遅い。これは、リエルのミスだった。まさか、リーリアが男を使って襲わせるなんて過激な手段をとるとは想像もつかなかった。
「これはこれは…、白薔薇騎士殿とリーリア嬢。お見苦しい所を…、何せ、彼女があまりにもしつこいものでして…、」
この二人はグルだったんだ。これもあらかじめ考えていたシナリオなのだろう。リエルはギュッと手を握り締めた。じわり、と涙がこみ上げる。駄目だ。ここで泣いては駄目。でも…、怖くて顔が上げられない。アルバートが無言でいるのが怖い。どんな目で私を見ているのだろう。失望、嫌悪、落胆?どちらにしろ、アルバートはリエルに幻滅したことだろう。これで決定的に嫌われた。元から、好かれてもいなかったが。
「アルバート様…!聞きました?リエル様ったら、あたしにはああ言っておきながら、裏ではこんな事をしていただなんて…、人って見かけによらないんですね。きっと、アルバート様と婚約していた間だって…、」
リーリアの言葉が何処か遠くに聞こえる。
「ねえ。アルバート。青い薔薇って見たことある?」
庭に咲いていた薔薇を見ながら、リエルはアルバートに青い薔薇について話した。青い薔薇は現実には存在しないと言う幼馴染にリエルは青い薔薇の挿絵が乗った絵本を掲げて見せた。
「知ってる?アルバート。青薔薇はね、『神の祝福』『奇跡』という花言葉があるらしいの。とっても素敵だと思わない?」
青い薔薇は昔から、幻の薔薇と言われている。昔から青い薔薇を生み出す研究が続けられているが誰も実現したことはない。
「お父様がね、今青薔薇の研究を進めているの。もし、成功したら一番に私に見せてくれるって約束してくれたの!」
「良かったな。」
「もし、青薔薇ができたら、アルバートにも見せるね。約束する!」
「お前は本当に薔薇が好きなんだな。」
「うん!大好き。」
「そんなに好きなら、俺が大きくなったら、薔薇騎士になってやるよ。リエルは騎士も好きだろ?俺が青薔薇騎士になったら、騎士章を賜ることができるからそれをお前に見せてやるよ。」
「騎士章?」
「騎士の証みたいなものらしいぞ。この前、父上が教えてくれたんだ。薔薇騎士の騎士章はそれぞれの色の薔薇をイメージして作られたものらしい。だから、俺が青薔薇騎士になったら、特別にお前に見せてやる。」
「本当?見たい!約束だよ!アルバート!」
「ああ。約束だ。」
「そうだ!薔薇騎士になったらお馬にも乗せて欲しいな。黒いお馬がいい!」
「そこは白馬じゃないのか?女の子って大体、白馬に憧れているのに。」
「だって、黒い馬の方がかっこいいから!」
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