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第2話
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その時、ざああ、と一陣の強い風が吹いた。
ふわり、と鳥の羽根がどこからともなく、飛んできて頬に落ちた。
「耳障りな声が聞こえると思ったら…、お前らだったのか。人間。」
聞き慣れない声が聞こえた。
静かだが艶のある低音…。その声には嫌悪と蔑みの色があった。
暗がりから出てきたのは一人の男だった。
「な、何だ?手前は!」
兵士達は男の姿に狼狽えたように叫んだ。
セラフィーナは突然現れた男の姿を見て、息を呑んだ。
その男は人間ではなかった。
鷲のような大きな翼に鋭い爪、額から生えた太い角、先端が尖った黒い尻尾のようなものも生えている。
艶やかな黒髪に白い肌と黄金の瞳を持つ男は容姿こそ見惚れる程に美しいがその姿はあまりにも異質だった。男は全身が真っ黒の服に包まれ、まるで闇の使者のようだった。
「ば、化け物!」
男達は怯んだように頬を引き攣らせ、青ざめた。
明らかに人間ではない謎の男はクッと唇を歪めて笑い、
「丁度いい。こいつらも腹を空かせていたところだ。」
ざわり、と周囲の葉が蠢いた。
「ふ、フン!何者か知らないがお前みたいな化け物はこうして…!」
兵の一人が銃を取り出した。が、その銃の引き金を引くよりも男の方が行動は早かった。
「存分に味わえ。」
そう呟いた途端、一斉に森の中からバサバサと羽音がしたと思ったら、黒い何かが飛び出した。
早すぎて目で追いつかず、その正体がなにであるかを確かめる前に黒い塊の集団が兵たちに襲い掛かった。
「うわああああ!?」
「ぎゃあああ!」
バサバサ、と羽根をばたつかせる音と辺りに散った羽根にセラフィーナはその集団が鳥の群れだと認識できた。
一匹どころか何十匹もの鴉の大群が兵達を覆いかぶさるように襲い掛かり、兵達はその鳥に目玉をくり抜かれ、喉元を食い破られた。
鮮血が舞い、セラフィーナはその返り血を浴びた。
そのまま彼らは生きた状態で肉が食われていく。
「ぐああああ!」
「た、助け‥!」
断末魔の悲鳴が轟いた。
セラフィーナは血を拭うこともせず、衣服を治すこともせずに茫然とその光景を眺めるしかない。
これは、現実なのか。
思わずそう疑ってしまう光景だった。
不意に背後に気配を感じた。
振り返ればさっきの異形の男が立っていた。
無機質な金の瞳。
まるで吸い込まれそうなくらいに神秘的で美しい色。セラフィーナはこんな状況にも関わらず、見惚れた。
「綺麗…。」
ぽつりと呟かれた言葉に男が訝し気に眉を顰めた。その時、セラフィーナは急に目の前がぼやけた。
「あ、れ…?」
目が開けていられなくなり、頭が真っ白になった。
そのままセラフィーナは意識を失った。
どさり、と地面に倒れ込んだセラフィーナを前に男は黙ったまま見下ろす。
男はセラフィーナの頬に鋭い爪を伸ばした。
その白い肌に爪の先端が触れる。
少し動かすだけで簡単に切り裂けそうな状態だったが不意に男は手を離した。
男が手を振ると、爪が消え、人間の手と変わらない形に変わった。
その時、バサバサと音を立てて、男の元に一匹の鴉が肩に降り立った。カアカア、と喚き立てる鴉に男は、
「…ああ。分かってる。…この女は殺さない。掟には従わないとな。」
そう言い、男はセラフィーナを見下ろした。
ふわり、と鳥の羽根がどこからともなく、飛んできて頬に落ちた。
「耳障りな声が聞こえると思ったら…、お前らだったのか。人間。」
聞き慣れない声が聞こえた。
静かだが艶のある低音…。その声には嫌悪と蔑みの色があった。
暗がりから出てきたのは一人の男だった。
「な、何だ?手前は!」
兵士達は男の姿に狼狽えたように叫んだ。
セラフィーナは突然現れた男の姿を見て、息を呑んだ。
その男は人間ではなかった。
鷲のような大きな翼に鋭い爪、額から生えた太い角、先端が尖った黒い尻尾のようなものも生えている。
艶やかな黒髪に白い肌と黄金の瞳を持つ男は容姿こそ見惚れる程に美しいがその姿はあまりにも異質だった。男は全身が真っ黒の服に包まれ、まるで闇の使者のようだった。
「ば、化け物!」
男達は怯んだように頬を引き攣らせ、青ざめた。
明らかに人間ではない謎の男はクッと唇を歪めて笑い、
「丁度いい。こいつらも腹を空かせていたところだ。」
ざわり、と周囲の葉が蠢いた。
「ふ、フン!何者か知らないがお前みたいな化け物はこうして…!」
兵の一人が銃を取り出した。が、その銃の引き金を引くよりも男の方が行動は早かった。
「存分に味わえ。」
そう呟いた途端、一斉に森の中からバサバサと羽音がしたと思ったら、黒い何かが飛び出した。
早すぎて目で追いつかず、その正体がなにであるかを確かめる前に黒い塊の集団が兵たちに襲い掛かった。
「うわああああ!?」
「ぎゃあああ!」
バサバサ、と羽根をばたつかせる音と辺りに散った羽根にセラフィーナはその集団が鳥の群れだと認識できた。
一匹どころか何十匹もの鴉の大群が兵達を覆いかぶさるように襲い掛かり、兵達はその鳥に目玉をくり抜かれ、喉元を食い破られた。
鮮血が舞い、セラフィーナはその返り血を浴びた。
そのまま彼らは生きた状態で肉が食われていく。
「ぐああああ!」
「た、助け‥!」
断末魔の悲鳴が轟いた。
セラフィーナは血を拭うこともせず、衣服を治すこともせずに茫然とその光景を眺めるしかない。
これは、現実なのか。
思わずそう疑ってしまう光景だった。
不意に背後に気配を感じた。
振り返ればさっきの異形の男が立っていた。
無機質な金の瞳。
まるで吸い込まれそうなくらいに神秘的で美しい色。セラフィーナはこんな状況にも関わらず、見惚れた。
「綺麗…。」
ぽつりと呟かれた言葉に男が訝し気に眉を顰めた。その時、セラフィーナは急に目の前がぼやけた。
「あ、れ…?」
目が開けていられなくなり、頭が真っ白になった。
そのままセラフィーナは意識を失った。
どさり、と地面に倒れ込んだセラフィーナを前に男は黙ったまま見下ろす。
男はセラフィーナの頬に鋭い爪を伸ばした。
その白い肌に爪の先端が触れる。
少し動かすだけで簡単に切り裂けそうな状態だったが不意に男は手を離した。
男が手を振ると、爪が消え、人間の手と変わらない形に変わった。
その時、バサバサと音を立てて、男の元に一匹の鴉が肩に降り立った。カアカア、と喚き立てる鴉に男は、
「…ああ。分かってる。…この女は殺さない。掟には従わないとな。」
そう言い、男はセラフィーナを見下ろした。
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