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 整列が済んだところに遅参した関係で、別に遅刻ではないのに俺と尾羽は最後尾に並んだ。
 全校集会なんてのは、固定電話だ。
 俺に関係のない話と興味のない話を耳に入れようとしてくる時点で、時代遅れのアレと同じだ。
 外靴に履き替えて朝日の鬱陶しいグラウンドでやるのもうんざりだが、体育館ならいいわけでもない。
 大人数を収容するせいで、湿気と独特の臭気が充満していて不快だ。
 別のクラスでは、担任が列の乱れをまっすぐに整えている。
 高校生にもなって、担任にそんな世話を焼かれるのも、綺麗に並ぶのも馬鹿馬鹿しい。
 社会に出ず、学校で現役世代のすべてを過ごす教師なんてのはまさしく“ビッグブラザー”なのだろう。
 肥え太った支配欲を満たしたいという、唾棄すべきちんけな自尊心。
 学校でこんなものが横行する理由は、社会に出てからもこれが待っているからだろう。
 俺たちはどう生きるべきか?
「なんか、どうでもいいこと難しく考えてそう」
「別にいいだろう? ラノベ持ち込んだら取り上げられる場なんだから」
「今はいいけど、集会始まったらちゃんと見てないと後悔するよ」
「なんだよ。爆弾でも仕掛けたのか?」
「爆弾か。いいセンいってると思うよ」
 いたずらっぽく、と形容するにはいかばかりか悪意が漏れすぎている笑みを浮かべる尾羽。
 しかしその言葉に反して全校集会は、つつがなく進行する。
 クソ偽善者の粗須加が登壇し、インターハイで活躍した部活のキャプテンたちにトロフィーの類を授与する茶番が始まった。
 運動部に入っていない者からすれば、屈指の無駄コーナーだ。
 野球部もバスケ部も、帰宅部にトロフィー見せびらかして楽しいのか?
 それも、各大会で主催から授与されたものを一旦学校に預け、腰痛持ちの校長に代わって生徒会長様から受け取り直すって。
 これが茶番と言わずしてなんと言うわけよ。
 大あくびが出るのを出るに任せていると、女子テニス部の部長が登壇、粗須加と向かい合った。
「始まるよ」
 尾羽に脇腹を小突かれた。
 仕方がないので、大口開けたまま壇上を注視する。
 大仰な金メッキのカップを粗須加が女子テニス部の部長に受け渡そうとした、瞬間だった。
 ぴゅぴゅっ。
 前かがみになった粗須加の股間から、白濁した液体がスラックスを貫通して飛び出した。
 女子テニス部部長のスカートへとそれは降りかかり、場の空気が凍結する。
 目一杯に振った炭酸飲料を無防備に開栓したかのように、白濁液体はびゅーびゅーびゅびゅびゅびゅーっと女子テニス部部長の制服を汚した。
 トロフィーが鈍い音を立てて壇上に落ち、女子テニス部部長の悲鳴が体育館にこだました。
 顔面を真っ青にして「違う、違う!」と中腰で必死に叫ぶ粗須加は滑稽だった。
 逃げるテニ女部長を本能的に追いかけた粗須加は、上履きを白濁液で滑らせて前のめりに転倒。
 無様の極み。
「はは、ははっ……あっははははは!」
 あっけに取られていたのも束の間。
 ザマミロ&スカッと爽やかな気分が湧き起こり、腹を抱えて大笑いした。
 俺だけではない。大半の生徒が腹を抱え、粗須加を指差し、おかしさに涙を滲ませて笑っている。
 粗須加を嘲笑う生徒の声が、体育館を揺るがすほどの大爆笑となっていた。
 なるほど、こいつは確かに俗悪だ。
 この珍現象、もといチン現象を尾羽は予知したのか、何か仕込んだのかわからないがどうでもよかった。
 もちろん、真相に興味はあるが今は思いっきり粗須加を嗤(わら)ってやることの方が重要だった。
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