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三匹のヤギとドンガラガッシャーン
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むかしむかし、あるところに三匹のヤギが住んでいました。
ヤギたちは兄弟で、長男は一郎太、次男は次郎吉、三男は小三郎という名前でした。
ある日、三匹が山へ芝を食べに行ったとき、一郎太が言いました。
「向こうの谷に、ドンガラガッシャーンという化け物がいるらしいぜ」
「化け物!?」
そう聞いて小三郎は震え上がりました。
「へっ、化け物がなんぼのもんじゃい!」
次郎吉がヨウジでシーハーシーハーしながら鼻で笑います。
「俺たちはヤギだ。海の向こうじゃ悪魔の象徴だ!」
前足を掲げ、「ほ~ら悪魔だぞーう!」と小三郎に覆い被さります。
「きゃーっ、次郎吉兄ちゃん、やめてよう!」
「わっはっは、お前も蝋人形にしてやろうかぁ!」
「ばーか。無名のヤギなんぞ蝋人形にしてどないすんねん」
一郎太は「あとネタが古い」と肩をすくめました。
「なーにおう!」
聞き捨てならぬ、と次郎吉は一郎太に向き直ります。
「世は資本主義、成り上がるチャンスは等しくあるんだぞ!」
「ほんなら、ヤギがどうやって成り上がるんじゃい」
一郎太はお腹についたポケットから東大の赤本を取り出すと、ページを破ってムシャムシャと食べ始めました。
物欲しそうにしていた小三郎には、福沢諭吉という人間の小さな肖像画を与えました。
小三郎は嬉しそうにそれを食べ始めました。
「俺たちゃ紙切れや草を食ってクソして死ぬだけの獣だよ」
「いや、だから一郎太兄の言ってた化け物を退治するんだよ」
「誰が」
「俺たち兄弟がさ」
「まさか。平安時代じゃあるまいし」
「やらねってか! 草食ってクソして死ぬだけでいいのか」
「やらねぇとは言ってない。でも無策じゃダメだ。なにかあるのか」
「これよ」
次郎吉は小さな袋を取り出します。
「そりゃ何だい」
「俺も知らない。謎の小袋七〇袋、その一つだよ」
「知らないものに命預けるってか!」
一郎太が前足を振り上げたときでした。
「ぼく、これ知ってるよ。きびだんごって言うんだ!」
小三郎が中身を取りだして兄たちに見せました。
きびだんごぉ?と一郎太と次郎吉は顔を見合わせます。
「うん。これを犬と猿とキジにあげると、パーティーメンバーに加えることができるんだよ」
「へぇ。小三郎は物知りだなぁ」
一郎太に頭をなでてもらい、小三郎は嬉しそうに鳴き声をあげます。
「犬に猿にキジだぁ? そんなもんで化け物に勝てるかよ。やっぱりそこは、タカ、トラ、バッタだろ」
「いや、バッタがわからん」
「バッタはあれだよ。バッタは、高く跳べる」
「タカがいるのにそれいる?」
「うるっせえなぁ。てめぇはいちいち細かいんだよ」
「んだコラ、スッゾコラー!」
一郎太と次郎吉が激しく角を打ち合わせて、ケンカを始めてしまいました。
「えとね、犬と猿と鶏は、鬼門の反対にいるから呪術的には鬼にこうかばつぐんなんだよ」
「日本語でおk」
「キジはどうしたんだよ! 何で鶏になってんだよ! 卵が先なのか? アーン?」
そういうわけで、三匹のヤギは犬と猿とキジを探しに行きました。
「端折られた!? あー、クソ! 鶏が先なのか卵が先なのか、気になって夜しか眠れないじゃねぇか!!」
ヤギの兄弟が山を下り、川沿いに歩いているとおばあさんが洗濯をしていました。
何やら泥だらけで、今まで着ていた服を脱いで洗っているようでした。
「おお、おばあさんだ。人間だからたぶん賢いぞ」
「よーし、俺が情報を聞き出してくらあ」
前足の付け根の関節を回しながら、次郎吉はどしどしとおばあさんに近付いていきます。
「おいババア!」
「アーッ!!」
次郎吉が蹴飛ばすと、おばあさんは川に落ちてどんぶらこっこどんぶらこっこと流れていきました。
「ババアの川流れ」
「何してんだよ、おまえは!」
一郎太が次郎吉に拳骨を落とします。
しかし、次郎吉はそれを角で受け流しました。
「小癪な」
「兄ィ。あれを見ろ」
次郎吉がアゴで指した方には、大きなつづらがありました。
「あれがどうした。大事な情報源が流れていっちまったじゃねぇか」
「クク、感じないのか。強大な闇のパワーをよ!」
次郎吉は身体を反らせ、左足を顔に這わせるポーズで言いました。
「中で何か蠢く音がする。こ、怖いよ、お兄ちゃん!」
大きなつづらに耳をあてて様子を探った小三郎が、イヤイヤをするように頭を左右に振ります。
「ははは、犬猿キジじゃダメだ。化け物には、化け物をぶつけるんだよぉ!」
「タカとトラとバッタはどうした」
「シャーラップ!! 兵は神速を尊ぶだぜ兄ィ!」
「どうでもいいけど。あんなもんどうやって運ぶんだよ。だいぶ重そうだぞ」
すると、次郎吉は一郎太を真顔で見詰めます。
「何だよ。俺に持てってのか?」
「力の一号、技の二号って言うじゃん」
「いや、技の一号、力の二号だろ」
「いいや、一号は力で敵をねじ伏せるだろ」
「はぁ!? 頭に歴史改変ビームでも食らってるのかお前!」
「ったく、四の五の言わずに持てやコラァ!」
「んだコラァ、やんのか? アーン?」
大変です。
荷物の押し付け合いで、一郎太と次郎吉はケンカを始めてしまいました。
激しい角のぶつけ合いが、熱い火花を散らしています。
「おや、ヤギじゃないか。こんなところでどうしたんだい?」
「あ、おじいさん! 実はかくかくしかじか」
新たな情報提供者、おじいさんを見つけた小三郎は早速、聞き込みを開始するのでした。
「「結局、どっちが力でどっちが技なんだよーう!!」」
「犬は死んだ」
「うわぁ、いきなり詰んだ」
おじいさんは壺いっぱいの灰を小三郎に見せて言いました。
「すまんのう、力になれなくて」
おじいさんは灰を掴むと、枯れ木に投げつけました。
「しかし、犬の死骸を焼いた灰でわしは皆を笑顔にする力を得た。さぁ見よ」
おじいさんが指差した枯れ枝を見ると、たちまち花が咲きました。
「わしは、花咲かじいさんとしてスターダムをのしあがってみせる!」
どう収納していたのか、おじいさんは懐から「遅咲き! 犬好きジジイの花咲き芸!!」という看板を取りだして、ヤギの兄弟たちに自慢しました。
一郎太は無関心を貫き、小三郎は困ったように笑っていました。
しかし、次郎吉が黙っちゃいませんでした。
「はー、つっかえ! こんなもん田舎で持ってても宝の持ち腐れじゃねぇか。見世物やるなら都でないと意味ないじゃん」
「わぁーっ、何をするんじゃあ!」
「黙れジジイ!」
次郎吉は灰の詰まった壺を奪うと、遠くへ放り投げてしまいました。
壺は放物線を描いて、肥溜めの中にドボンと落ちてしまいました。
「キ、キサマァーッ!!」
「がら空きだぜぇ!」
顔を赤黒くさせたおじいさんが腕を振り上げましたが、次郎吉は素早く躱します。
鳩尾に蹄をめり込ませ、おじいさんが身体を曲げたところを後ろに回り込み、腎臓へと強烈な後ろ足蹴りを叩き込みます。
おじいさんは動かなくなってしまいましたとさ。
「よーし、次だな」
「まったく、次郎吉。おまえというやつは、どうしてすぐ暴力に訴えるんだ」
「最高の褒め言葉だ」
「待って、一郎太兄ちゃん、次郎吉兄ちゃん」
「どうした、小三郎」
引き留められた二匹の兄ヤギは、小三郎に振り向きます。
「肥溜めが泡立ってるよ」
「ま、まさか化け物ってのは肥溜めなのか?」
三匹の間に緊張が走ります。
「へっ、ビビってやんの兄ィ」
「まあ、臭いしそういうことでいいや」
「俺がいっちょシメてきてやるぜ」
「おう、任せた。一生俺に近付くなよ」
「次郎吉兄ちゃん、気を付けて」
イキる次郎吉は歯を見せると、肥溜めに向かって行きます。
「おいクソ野郎!」
「いかにも。私はうんちだ」
「ク、クソがしゃべりやがった」
「ヤギの仔よ。何の用だ」
「枯れ木に花を咲かせる灰が、クソに命を与えたとでも言うのか?」
「物わかりのいいヤギの仔よ。理解が早くて助かります。で、何の用だ」
「用……まぁ、クソすることを『用を足す』って言うよな」
「言いますね」
次郎吉はそのまま前足を組んで黙ってしまいました。
「あのバカ、何やってんだ?」
「お兄ちゃーん、猿を知らないか聞いてみてー!」
小三郎が叫んだのを聞き、次郎吉は頷きました。
「おい、クソッタレ!」
「確かに私は命を得た肥溜めであるからして、うんちは無限に垂れていますね。で、何の用だ」
「猿を知らないか?」
「猿は死んだ」
「またか!!」
「猿は、カニを殺した。ゆえに、私と臼や子ガニたちでリンチしてぶち殺してやったわ」
「そうか。殺しに手を染めたヤツとはパーティー組みたくないし、どのみち猿は願い下げだな」
「用は足せたか、おまいう感MAXのヤギの仔よ」
「やかましいわ」
次郎吉は兄弟たちに向き直ると、前足でバツを作って肥溜めを後にしました。
「猿も死んだとよ」
「えぇっ! あとはキジしか残ってないよ」
「私を呼びましたか?」
頭上に、どこからか飛んできたキジが舞っていました。
「あっ! やせいのキジが とびだしてきた!」
「その不自然なスペースはどうしたのですか」
キジは不思議そうにしています。
「おい、小三郎。きびだんご使えよ」
「ええっ、でも、どうすれば」
「お前、使い方知らないのかよ!」
「だって、だってー!」
小三郎は空飛ぶキジにきびだんごを差し出してみましたが、キジは首を傾げるだけでした。
「おい、このままだとホントに次郎吉が強盗した大きなつづらしかないぞ」
一郎太が焦っていると、通りすがりのたんパンこぞうが声を掛けてきました。
「おまえら、捕まえ方知らないのかよ! よーし、僕が手本をみせてあげるよ!」
「おおっ、何か知らんががんばれ、たんパンこぞう!」
「任せて! いけっ、ネズミ!」
たんパンこぞうが自分のきびだんごを空に投げると、きびだんごから大きなネズミが飛び出しました。
ネズミはきびだんごを蹴って跳躍すると、キジに飛びかかります。
「う、うわぁーっ、何をするだぁーっ!!」
キジは余裕を失い、野太い声で叫びます。
ネズミがキジに前歯を突き立てると、ネズミの身体が燃え上がります。
「ギャース!」
羽根を燃やされたキジは、真っ逆さまに落ちていきます。
「捕まえるときは、まず弱らせる。毒、麻痺、火傷、凍り、眠りの状態異常にするのもおすすめだ!」
「いや、ほぼ死にかけてるだろ!」
「HPは一に近ければ近いほどよい」
「やかましいわ!」
「よし、きびだんごを投げるよ!」
たんパンこぞうがきびだんごをふりかぶった、その時。
風切り音がすると、どこからともなく飛んできた矢がネズミとキジを貫きました。
「やったぁ! 火ネズミだ! あいつの皮衣を持っていけば、かぐや姫と結婚できる!!」
狩衣姿の男が草むらから現れ、小躍りし始めました。
「おい、平安時代じゃねぇか!」
「すまねぇ、平安時代だったようだ」
怒ったのはたんパンこぞうです。
「キ、キサマァーッ!! ひとのものをとったらどろぼう!」
「黙れガキ!」
「グワァーッ!!」
狩衣の男はたんパンこぞうをカラテキックで瞬殺してしまいました。
「た、たんパンこぞーう!」
無情にも、狩衣の男に火ネズミごとキジは持って行かれてしまいました。
「キジも鳴かずば撃たれなかったろうに」
「やかましいわ!」
こうして、三匹のヤギは大きなつづらを引きずって、化け物の住む向こうの谷へと行くことになりました。
そして、化け物がいるという谷に到着しました。
「すげぇ端折られた!!」
「天竺にお経届けた話面白かったのに」
谷にはでんでんだいこを背負った鬼が寝ていました。
「あれが化け物。ドンガラガッシャーン!」
「かみなりさまやないかーい!」
「まさか名前は擬音のことだったとは」
「よっし、相手にとって不足なし! いけっ、俺の友達! 出てこい!」
次郎吉は大きなつづらの蓋を開け、谷に向かって蹴り落としました。
大きなつづらからは、毒蛇、ムカデ、サソリ、なんかやばそうな得体の知れないものがたくさん出てきました。
それらはすごい勢いでかみなりさまへと殺到しました。
「うぎゃああああああああああっ、なんじゃこりゃあああああああっ!!」
慌てたかみなりさまは、つづらの中身を払い落としながら空高く飛び上がりました。
「ふははは!! 参ったか雷神!! これで俺は、雷神を倒したもの、とかいう感じの二つ名を得るだろう!!」
よせばいいのに、次郎吉はそう勝ち誇るのでした。
一郎太と小三郎が大急ぎで逃げたのは、言うまでもありません。
当然、次郎吉はかみなりさまに見つかってしまいます。
「この、バカモンがぁーっ!!」
ドンガラガッシャーン!
「ぎゃああああああああああああっ!!」
次郎吉めがけて、特大の雷が落ちましたとさ。
こうして悪は滅びたのです。
めでたし、めでたし。
「全っ然、めでたくなあああああああああああああいっ!!」
ヤギたちは兄弟で、長男は一郎太、次男は次郎吉、三男は小三郎という名前でした。
ある日、三匹が山へ芝を食べに行ったとき、一郎太が言いました。
「向こうの谷に、ドンガラガッシャーンという化け物がいるらしいぜ」
「化け物!?」
そう聞いて小三郎は震え上がりました。
「へっ、化け物がなんぼのもんじゃい!」
次郎吉がヨウジでシーハーシーハーしながら鼻で笑います。
「俺たちはヤギだ。海の向こうじゃ悪魔の象徴だ!」
前足を掲げ、「ほ~ら悪魔だぞーう!」と小三郎に覆い被さります。
「きゃーっ、次郎吉兄ちゃん、やめてよう!」
「わっはっは、お前も蝋人形にしてやろうかぁ!」
「ばーか。無名のヤギなんぞ蝋人形にしてどないすんねん」
一郎太は「あとネタが古い」と肩をすくめました。
「なーにおう!」
聞き捨てならぬ、と次郎吉は一郎太に向き直ります。
「世は資本主義、成り上がるチャンスは等しくあるんだぞ!」
「ほんなら、ヤギがどうやって成り上がるんじゃい」
一郎太はお腹についたポケットから東大の赤本を取り出すと、ページを破ってムシャムシャと食べ始めました。
物欲しそうにしていた小三郎には、福沢諭吉という人間の小さな肖像画を与えました。
小三郎は嬉しそうにそれを食べ始めました。
「俺たちゃ紙切れや草を食ってクソして死ぬだけの獣だよ」
「いや、だから一郎太兄の言ってた化け物を退治するんだよ」
「誰が」
「俺たち兄弟がさ」
「まさか。平安時代じゃあるまいし」
「やらねってか! 草食ってクソして死ぬだけでいいのか」
「やらねぇとは言ってない。でも無策じゃダメだ。なにかあるのか」
「これよ」
次郎吉は小さな袋を取り出します。
「そりゃ何だい」
「俺も知らない。謎の小袋七〇袋、その一つだよ」
「知らないものに命預けるってか!」
一郎太が前足を振り上げたときでした。
「ぼく、これ知ってるよ。きびだんごって言うんだ!」
小三郎が中身を取りだして兄たちに見せました。
きびだんごぉ?と一郎太と次郎吉は顔を見合わせます。
「うん。これを犬と猿とキジにあげると、パーティーメンバーに加えることができるんだよ」
「へぇ。小三郎は物知りだなぁ」
一郎太に頭をなでてもらい、小三郎は嬉しそうに鳴き声をあげます。
「犬に猿にキジだぁ? そんなもんで化け物に勝てるかよ。やっぱりそこは、タカ、トラ、バッタだろ」
「いや、バッタがわからん」
「バッタはあれだよ。バッタは、高く跳べる」
「タカがいるのにそれいる?」
「うるっせえなぁ。てめぇはいちいち細かいんだよ」
「んだコラ、スッゾコラー!」
一郎太と次郎吉が激しく角を打ち合わせて、ケンカを始めてしまいました。
「えとね、犬と猿と鶏は、鬼門の反対にいるから呪術的には鬼にこうかばつぐんなんだよ」
「日本語でおk」
「キジはどうしたんだよ! 何で鶏になってんだよ! 卵が先なのか? アーン?」
そういうわけで、三匹のヤギは犬と猿とキジを探しに行きました。
「端折られた!? あー、クソ! 鶏が先なのか卵が先なのか、気になって夜しか眠れないじゃねぇか!!」
ヤギの兄弟が山を下り、川沿いに歩いているとおばあさんが洗濯をしていました。
何やら泥だらけで、今まで着ていた服を脱いで洗っているようでした。
「おお、おばあさんだ。人間だからたぶん賢いぞ」
「よーし、俺が情報を聞き出してくらあ」
前足の付け根の関節を回しながら、次郎吉はどしどしとおばあさんに近付いていきます。
「おいババア!」
「アーッ!!」
次郎吉が蹴飛ばすと、おばあさんは川に落ちてどんぶらこっこどんぶらこっこと流れていきました。
「ババアの川流れ」
「何してんだよ、おまえは!」
一郎太が次郎吉に拳骨を落とします。
しかし、次郎吉はそれを角で受け流しました。
「小癪な」
「兄ィ。あれを見ろ」
次郎吉がアゴで指した方には、大きなつづらがありました。
「あれがどうした。大事な情報源が流れていっちまったじゃねぇか」
「クク、感じないのか。強大な闇のパワーをよ!」
次郎吉は身体を反らせ、左足を顔に這わせるポーズで言いました。
「中で何か蠢く音がする。こ、怖いよ、お兄ちゃん!」
大きなつづらに耳をあてて様子を探った小三郎が、イヤイヤをするように頭を左右に振ります。
「ははは、犬猿キジじゃダメだ。化け物には、化け物をぶつけるんだよぉ!」
「タカとトラとバッタはどうした」
「シャーラップ!! 兵は神速を尊ぶだぜ兄ィ!」
「どうでもいいけど。あんなもんどうやって運ぶんだよ。だいぶ重そうだぞ」
すると、次郎吉は一郎太を真顔で見詰めます。
「何だよ。俺に持てってのか?」
「力の一号、技の二号って言うじゃん」
「いや、技の一号、力の二号だろ」
「いいや、一号は力で敵をねじ伏せるだろ」
「はぁ!? 頭に歴史改変ビームでも食らってるのかお前!」
「ったく、四の五の言わずに持てやコラァ!」
「んだコラァ、やんのか? アーン?」
大変です。
荷物の押し付け合いで、一郎太と次郎吉はケンカを始めてしまいました。
激しい角のぶつけ合いが、熱い火花を散らしています。
「おや、ヤギじゃないか。こんなところでどうしたんだい?」
「あ、おじいさん! 実はかくかくしかじか」
新たな情報提供者、おじいさんを見つけた小三郎は早速、聞き込みを開始するのでした。
「「結局、どっちが力でどっちが技なんだよーう!!」」
「犬は死んだ」
「うわぁ、いきなり詰んだ」
おじいさんは壺いっぱいの灰を小三郎に見せて言いました。
「すまんのう、力になれなくて」
おじいさんは灰を掴むと、枯れ木に投げつけました。
「しかし、犬の死骸を焼いた灰でわしは皆を笑顔にする力を得た。さぁ見よ」
おじいさんが指差した枯れ枝を見ると、たちまち花が咲きました。
「わしは、花咲かじいさんとしてスターダムをのしあがってみせる!」
どう収納していたのか、おじいさんは懐から「遅咲き! 犬好きジジイの花咲き芸!!」という看板を取りだして、ヤギの兄弟たちに自慢しました。
一郎太は無関心を貫き、小三郎は困ったように笑っていました。
しかし、次郎吉が黙っちゃいませんでした。
「はー、つっかえ! こんなもん田舎で持ってても宝の持ち腐れじゃねぇか。見世物やるなら都でないと意味ないじゃん」
「わぁーっ、何をするんじゃあ!」
「黙れジジイ!」
次郎吉は灰の詰まった壺を奪うと、遠くへ放り投げてしまいました。
壺は放物線を描いて、肥溜めの中にドボンと落ちてしまいました。
「キ、キサマァーッ!!」
「がら空きだぜぇ!」
顔を赤黒くさせたおじいさんが腕を振り上げましたが、次郎吉は素早く躱します。
鳩尾に蹄をめり込ませ、おじいさんが身体を曲げたところを後ろに回り込み、腎臓へと強烈な後ろ足蹴りを叩き込みます。
おじいさんは動かなくなってしまいましたとさ。
「よーし、次だな」
「まったく、次郎吉。おまえというやつは、どうしてすぐ暴力に訴えるんだ」
「最高の褒め言葉だ」
「待って、一郎太兄ちゃん、次郎吉兄ちゃん」
「どうした、小三郎」
引き留められた二匹の兄ヤギは、小三郎に振り向きます。
「肥溜めが泡立ってるよ」
「ま、まさか化け物ってのは肥溜めなのか?」
三匹の間に緊張が走ります。
「へっ、ビビってやんの兄ィ」
「まあ、臭いしそういうことでいいや」
「俺がいっちょシメてきてやるぜ」
「おう、任せた。一生俺に近付くなよ」
「次郎吉兄ちゃん、気を付けて」
イキる次郎吉は歯を見せると、肥溜めに向かって行きます。
「おいクソ野郎!」
「いかにも。私はうんちだ」
「ク、クソがしゃべりやがった」
「ヤギの仔よ。何の用だ」
「枯れ木に花を咲かせる灰が、クソに命を与えたとでも言うのか?」
「物わかりのいいヤギの仔よ。理解が早くて助かります。で、何の用だ」
「用……まぁ、クソすることを『用を足す』って言うよな」
「言いますね」
次郎吉はそのまま前足を組んで黙ってしまいました。
「あのバカ、何やってんだ?」
「お兄ちゃーん、猿を知らないか聞いてみてー!」
小三郎が叫んだのを聞き、次郎吉は頷きました。
「おい、クソッタレ!」
「確かに私は命を得た肥溜めであるからして、うんちは無限に垂れていますね。で、何の用だ」
「猿を知らないか?」
「猿は死んだ」
「またか!!」
「猿は、カニを殺した。ゆえに、私と臼や子ガニたちでリンチしてぶち殺してやったわ」
「そうか。殺しに手を染めたヤツとはパーティー組みたくないし、どのみち猿は願い下げだな」
「用は足せたか、おまいう感MAXのヤギの仔よ」
「やかましいわ」
次郎吉は兄弟たちに向き直ると、前足でバツを作って肥溜めを後にしました。
「猿も死んだとよ」
「えぇっ! あとはキジしか残ってないよ」
「私を呼びましたか?」
頭上に、どこからか飛んできたキジが舞っていました。
「あっ! やせいのキジが とびだしてきた!」
「その不自然なスペースはどうしたのですか」
キジは不思議そうにしています。
「おい、小三郎。きびだんご使えよ」
「ええっ、でも、どうすれば」
「お前、使い方知らないのかよ!」
「だって、だってー!」
小三郎は空飛ぶキジにきびだんごを差し出してみましたが、キジは首を傾げるだけでした。
「おい、このままだとホントに次郎吉が強盗した大きなつづらしかないぞ」
一郎太が焦っていると、通りすがりのたんパンこぞうが声を掛けてきました。
「おまえら、捕まえ方知らないのかよ! よーし、僕が手本をみせてあげるよ!」
「おおっ、何か知らんががんばれ、たんパンこぞう!」
「任せて! いけっ、ネズミ!」
たんパンこぞうが自分のきびだんごを空に投げると、きびだんごから大きなネズミが飛び出しました。
ネズミはきびだんごを蹴って跳躍すると、キジに飛びかかります。
「う、うわぁーっ、何をするだぁーっ!!」
キジは余裕を失い、野太い声で叫びます。
ネズミがキジに前歯を突き立てると、ネズミの身体が燃え上がります。
「ギャース!」
羽根を燃やされたキジは、真っ逆さまに落ちていきます。
「捕まえるときは、まず弱らせる。毒、麻痺、火傷、凍り、眠りの状態異常にするのもおすすめだ!」
「いや、ほぼ死にかけてるだろ!」
「HPは一に近ければ近いほどよい」
「やかましいわ!」
「よし、きびだんごを投げるよ!」
たんパンこぞうがきびだんごをふりかぶった、その時。
風切り音がすると、どこからともなく飛んできた矢がネズミとキジを貫きました。
「やったぁ! 火ネズミだ! あいつの皮衣を持っていけば、かぐや姫と結婚できる!!」
狩衣姿の男が草むらから現れ、小躍りし始めました。
「おい、平安時代じゃねぇか!」
「すまねぇ、平安時代だったようだ」
怒ったのはたんパンこぞうです。
「キ、キサマァーッ!! ひとのものをとったらどろぼう!」
「黙れガキ!」
「グワァーッ!!」
狩衣の男はたんパンこぞうをカラテキックで瞬殺してしまいました。
「た、たんパンこぞーう!」
無情にも、狩衣の男に火ネズミごとキジは持って行かれてしまいました。
「キジも鳴かずば撃たれなかったろうに」
「やかましいわ!」
こうして、三匹のヤギは大きなつづらを引きずって、化け物の住む向こうの谷へと行くことになりました。
そして、化け物がいるという谷に到着しました。
「すげぇ端折られた!!」
「天竺にお経届けた話面白かったのに」
谷にはでんでんだいこを背負った鬼が寝ていました。
「あれが化け物。ドンガラガッシャーン!」
「かみなりさまやないかーい!」
「まさか名前は擬音のことだったとは」
「よっし、相手にとって不足なし! いけっ、俺の友達! 出てこい!」
次郎吉は大きなつづらの蓋を開け、谷に向かって蹴り落としました。
大きなつづらからは、毒蛇、ムカデ、サソリ、なんかやばそうな得体の知れないものがたくさん出てきました。
それらはすごい勢いでかみなりさまへと殺到しました。
「うぎゃああああああああああっ、なんじゃこりゃあああああああっ!!」
慌てたかみなりさまは、つづらの中身を払い落としながら空高く飛び上がりました。
「ふははは!! 参ったか雷神!! これで俺は、雷神を倒したもの、とかいう感じの二つ名を得るだろう!!」
よせばいいのに、次郎吉はそう勝ち誇るのでした。
一郎太と小三郎が大急ぎで逃げたのは、言うまでもありません。
当然、次郎吉はかみなりさまに見つかってしまいます。
「この、バカモンがぁーっ!!」
ドンガラガッシャーン!
「ぎゃああああああああああああっ!!」
次郎吉めがけて、特大の雷が落ちましたとさ。
こうして悪は滅びたのです。
めでたし、めでたし。
「全っ然、めでたくなあああああああああああああいっ!!」
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ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
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おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
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Himeri
青春
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