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 あるところに大学生がいた。
 その大学生は文字通りただのどこにでもいる普通の大学生だ。
 彼の専攻は理論物理学。もちろん学者を目指していた。
 そして彼は今どこにいるかと言うと、ある異世界にいた。
 そう、そこはある国の王宮の魔法研究所。
 彼はその一室にいた。

「発見してしまった」

 そう、彼は非常に憔悴していた。

「物理学のすべてが解ってしまった」

 続けて彼の声が聞こえる。

「もし、この理論を魔法に全て載せてやればこの世もあの世も俺のいた世界もすべて消えてしまう」

 大きな音がした。
 彼は魔法の実験装置が乗っているデスクをひっくり返してしまったのである。

「俺が! 俺がこんなものを発見しなければ! こんな理論を発見しなければ! 世界が消える未来なんて無かった! 知らないままでいたら消失する未来なんて無かった! 何だ物理学って? 滅びの学問じゃないか!」

 彼は叫んだ。そして脅えた。
 自分がしてしまった事について自己追求した。
 しかし、彼は知ってしまった。
 もう取り返しがつかない。

「おいどうした!」

 一人の少女が研究室のドアを開けて入ってきた。
 おそらく、今彼が起こした大きな音を聞いて駆けつけてきたのだろう。
 部屋の惨状。デスクは倒され、窓ガラスが割られ、彼の腕からは血がしたたり落ちていた。
 少女が言う。

「落ち着け。何があったんだ」

 彼は泣きながら言う。

「レティシア。さよならだ……」

 彼はある魔法を発動した。
 それは彼がかつていた世界に戻る魔法だった。
 少女が叫ぶ。

「さよならだと!? どうして! 私が何か君にしたのか!」

「違うよ。俺は、俺は……」

 魔法の発動は終了した。そこには光でできたドアの様なものができる。

「俺がいなくなっても俺を探すな。俺はもうダメだ……。レティシア……。今までありがとう……」

「おい、待て!」

「レティシア。俺は立派な社会人になるよ……」

「待て! 待ってくれ! 私は君に伝えたい事が!」

「さようなら」

「待てええええええええええええええええええええ!」
 


 少女はその時、目を覚ました。
 そう。額にはひどい汗が。



「あのバカ。度々私の夢に出てきやがって……」

 そして続けて言う。

「ま、そうだな。そろそろ迎えに行ってやるか。異世界転移魔法も習得したし、『あの魔法』も完成した……」

 そして彼女は部屋に置かれた鏡の前に立つ。
 しかしながら彼女の姿は写らない。

「(私はあれから何か変わっただろうか。そして奴はどういう風体になっている事やら)」

 そして彼女はこうも思う。

「(世界の滅びが担保されていた事位であんなに動揺しやがって。そんな事決まった事だろう。永遠なんてこの世界にあるわけが無かろうが)」
 
 そう。彼女はすでに知っていた。この世界に終わりがある事など。
 そして彼がその事を発見してしまったという事も。
 しかし、それがなんだと言うんだと命がほぼ永遠の彼女の感覚ならばそう思うだろう。
 ハーフヴァンパイアの彼女ならばだが。

 彼女は自分の召物が入ったクローゼットの方に歩いて行く。

「どの服を着て行こうか……」
 
 そう。彼が普通の大学生だったように彼女も所詮一人の女性に過ぎないというわけなのである。
 事はそれ以上でもそれ以下でもない。
 皆、自分を生きている。
 自分を生きられない彼を一人除いてはだが。

「はっくしょん! まもの」

 彼はとある世界でくしゃみをした。

「ふぅ~。大方仕事終わった……。しかし明日も休日出勤かよ……」

 そう。彼は今日も残業の日々である。

「さて。小腹がすいたな。コンビニでカップラ~でも買ってくるか……」

 彼は今日も生きている。

「いや、カップ焼きそばにしよう。食いでがあるからな」

 理不尽を言うものを許容しながら……。
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