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真冬の魔界の窓の外

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   一月にもなると魔界は人間界よりもかなり冷え込む。そもそも魔界の方が人間界よりも平均的に気温が低いのだから当然のことなのかもしれないが、実際に体感している人間の兵はここに来てからこれ程のものだとは。と驚いているだろう。人間界でこの時期の魔界はかなり寒いから気合いを入れて出陣しろだとか、下手をしたら凍傷の恐れあり、だとか言われてからここに赴いだのだろうが、前知識を持ってしてもやはり、体感すると驚きを覚えるのが心情である。そして実際、彼らが人間界で散々警告された通り、兵隊の何割かは凍傷になっているだろうし、七割近くは相当参っていることだろう。ここに永い間暮らしている魔人でさえこの寒さは堪えると言うのに、初めてここに来た人間達が平然としていられるわけがない。そもそも魔人と人間は体の構造が違う。それに寒くて寒くて辛いのに付随して、ここが戦地であると言う精神的負担を背負わなくてはならない。ここは戦争の最前線であり、最も死の確率が高い戦地なのである。いくら辛いと弱音を吐いたところで結局死にたくないのは皆同じなのである。だから皆、神経を研ぎ澄ませて、いつ敵に襲撃されるかわからない魔界の市街を魔法銃を握って血眼になって敵を探し歩くである。
   私、クネヒト・アベットはそんな彼ら、人間の兵を潜伏している民家の窓から見つからないように覗いていた。ここに居るの私ただ一人である。なぜなら私達の部隊、それどころか師団はすでに私以外、彼らに全員殺され、私は死にたくなくて戦場からただひたすらに逃亡し、逃げ込んだ先がここだったからである。ここは魔界の第三の都市イバントロ。奇跡的にまだ命ある私は、多くある建物の中でひたすら息を潜めることとなった。これだけ多くの建物の中を全て探索することもないだろうと私は思って、私は内心助かったと思っていた。死の焦りが消えて冷静になった私は現在の魔界について窓の外の人間の兵隊達を偵察しながら思いを巡らせた。ここはもう第三の都市だ。すでに人間軍は魔界の中枢のすぐ近くまで侵攻して来ている。我々の任務はその侵攻を阻止し、人間軍を押し返すと言うものだったはずなのにこんな有様だ。臆病者の一兵士が生き残って居るだけじゃないか。どこもかしこも火事の炎があって、子供の頃遊んだ公園も人間達の爆弾でなくなった。ああ、昔は仲良くやっていたのに。クネヒトは悲観そうな眼差しをしてから、その目をこすった。
   戦争当初の魔界は人間軍よりも優勢であった。理由としては、人間は道具を使って魔法を駆使するのに対し、魔人は生身で魔法が使えると言うのと、魔人は人間よりも体が丈夫あると言うこと、そして人間よりも魔界は軍国主義的であり、軍備がもともと整っており、兵士数が多く、これ以前の戦争で活躍した兵士や指揮官達も数多く存在していたからである。しかし次第に劣勢となっていった。これにも要因があった。まず魔人は魔力を消費するたびに体力を消耗する。そして主に魔力を動力として体が機能するのだが、人間と比べて多くのエネルギーを必要し多くの食べ物が必要であった。魔界の民に食料を供給する負担と兵士への負担で経済的な負担が人間よりも重かった。それと人間ならば多少動けるような傷でも、魔人にとっては魔力が漏れ出てしまったり、魔力が逆流したりで致命的になったりもすること。魔人は人間ほど簡単に傷を負わないし、気候にも強いのだが一旦重傷を負うと手がつけられないのである。最後に、これが最も大きな要因であるのだが人間は道具を使って魔法を駆使するので必然的に武器の性能が飛躍的に上がっていたことである。戦争初期には魔人に傷1つつけることのできなかった人間の武器はどんどん魔人にとって致命的なものになっていった。前述した通り魔人は致命傷に弱い。人間の最新兵器で魔人軍はどんどんと押し返された。
   クネヒトが目をこすっていると人間の武器の発砲音が聞こえた。クネヒトが目を開けると人間が人間を射殺したようだった。窓の外から怒鳴り声が聞こえる。
「貴様ら、よく見ろ、コイツは魔人共の酒をこっそりポケットに入れてやがった。魔人の作った酒を飲もうとするなど言語道断だ。いくら寒いからといってもこう言う勝手な行動は許さない。酒ならば人間界の酒を飲め。貴様らも同じようなことをしたら銃殺する。」
どうやら人間軍の上官が声を荒らげているようだった。それにしてもひどいことをする。しかし、さっき殺された兵も、元を辿れば私達魔人が戦争を仕掛けたせいだ。私たちが殺したのだ。魔人の私があの上官を貶すことができた立場ではないのかもしれない。だがもし私があの上官ならきっと殺さないだろう。叱ることは正直な話、軍の風潮だとかで少しは感化されて、行うだろうが、殺しはしないだろう。やはりきっとあの上官は冷酷な人間なんだと私は決めつけた。しばらくすると上官は辺りを見回してから大声で召集と言った。上官は暫く休憩に入るとでもいったのか、兵士達は地面に座ったり、煉瓦造りだった壊れた家に腰掛けたりした。
上官はどこかへ去ってしまって窓からは姿が見えなかった。私はその間ずっと兵士達を偵察していたのだが、何か音が聞こえるのである。この建物の下のようだ。私は心臓がドキドキして汗が出てきた。まさか上がっては来ないよなと。部屋の床に耳をつけて盗聴すると何かすすり泣いているような声が聞こえた。
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