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第7話 狂気のバカンス
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「まずは自己紹介をしておこうか。俺の名前は兜頼弘。年齢は二十九歳。職業は傭兵をやってる」
「傭兵ですか」
「珍しいか?」
「日本人では珍しいかと」
兜の強さの性質は戦場で培ったタイプのものだと黎一は読んでいたが、傭兵だと聞き合点がいく。
「綿上黎一。十九歳の大学二年生です」
殺し屋だとはもちろん名乗らないが、単なる学生でないということはすでに見抜かれていることは黎一も察している。兜は間違いなく観察眼や思慮深さも持ち合わせているはずだ。
「私は百重玲於奈。高校二年生です」
玲於奈もやはり高校生という以上の情報は与えない。黎一にもそれ以上のことは説明していないのだから、出会ったばかり兜にそれをしないのも当然だ。
「綿上黎一に百重玲於奈か。よし、覚えたぜ」
兜は踏み入ったことは聞いてこなかった。お人好しなのか、この状況下では素性など意味を持たないと考えているのか。真意は分からない。
「お前さんたち。あの小太りのおっさんに支給されるはずだった武器を探しにここまで来たんじゃないか?」
「やはり兜さんもそれで?」
「そうだ。俺の方が早く到着したようだが」
そう言うと、兜は携帯している大容量のリュックから、鮫のマークのついた布袋を取り出した。
「どうりで見つからないわけだ」
「先着一名様限定グッズ。狭き門でしたね」
黎一と玲於奈は互いの顔を見合わせて苦笑した。先に回収されていては見つかるはずもない。
「だけど、武器を回収したのにどうしてこの近くに留まっていたんですか? おかげで助かりましたけど」
「俺の目的は武器の回収だけじゃない。武器を回収に来た他の参加者と合流することが本命だ。お前さんたちも似たようなことは考えていたんじゃないか?」
「まるで心を見透かされてるようですよ。俺たちも他の参加者との合流の重要性を議論していたところです」
「なら話は早い。三人で共同戦線を張らないか?」
兜との共闘は黎一も望んでいたことだが、多少の交渉は必要だろうと思っていたので、こうもあっさりと話が進んで、少し拍子抜けした。
「俺たちでいいんですか? 学生二人ですよ」
「そんなことは関係無い。重要なのは年齢や立場ではなく、この苦境を生き延びるに有用な人材であるかどうかだ。先の戦いを見るに、お前さんたち二人は戦闘能力、知略共に申し分ないと俺は判断した。加えてその瞳には、絶対に生き残ってやるとていう強い意志が宿っている。他力本願で救済を求めるんじゃない、自分達の力で死という檻を食い破ってやろう。そういう覚悟を持った人間の目だ。そういう目をした人間が、俺は好きでね」
満足気に語ると、兜はそっと二人の前へと手を差し出す。
「改めて聞く。俺たち三人で、共同戦線を張ろう」
黎一と玲於奈はお互いの顔を見合わせ頷き合った。答えはもう決まっている。
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
「おう。大船に乗ったつもりでいろ」
最初に黎一が甲の手を取り固い握手を交わし、続いて玲於奈が兜の手を取った。
「よろしくお願いします。兜さん。先程は助けていただきありがとうございました」
「お役に立てて何よりだ。これからよろしくな」
かくして新たな同盟は結ばれた。傭兵、兜頼弘の加入。戦力は大幅にアップしたといえる。
「お近づきの印ってわけではないが、綿上に一個プレゼントだ」
そう言って兜が手渡してきたのは、彼がこの岩場で回収した鮫のマークがついた布袋だった。
「開けてみろ」
袋を開けると、それは片側が釘抜きとなったネイルハンマーであった。
バールよりリーチは短いが、頭部を狙えば破壊力は十分だろう。強度もあるため、バール同様に近接戦闘では重宝しそうだ。
「貰ってもいいんですか? 兜さんの物でしょう」
「チームを組んだ以上は共有財産だろ。俺はもう武器を二種類持ってるし、打撃系の武器の扱いは綿上の方が上手そうだ」
「そういえば、兜さんはマチェーテとナイフを使ってましたね」
「ああ、マチェーテは最初に支給された武器だが、ナイフはこの岩場にやってくる途中に森で回収した」
そう言って兜は、リュックから鮫のマークのついた黒いケースを取り出す。中には投擲用のダガーナイフが十四本収納されていた。
「どうやって手に入れたんですか?」
「少し前に端末が二人の脱落を知らせて来ただろう。その中の男の方、高紐とかいう奴の死体を見つけてな。近くを探したらこいつが落ちてた」
「元は二十本入りですか?」
箱の中の隙間を見て、玲於奈が訪ねる。
「たぶんそうだな。死ぬまでに、五本のナイフは使っちまったようだ」
ダガーナイフを一本取り出し、兜は器用に手元で回し始める。
「二人に忠告しておく。脅威はゾンビだけじゃないかもしれないぞ」
兜の声のトーンが一気に下がる。穏やかかつ陽気な印象の兜の変声。それだけで緊張感は一気に高まる。
「人間という名の怪物ですか?」
黎一も可能性は感じていた。恐らくこの島に集められた人間は、殺しや戦いに慣れている人間ばかりだ。人が人を襲うという状況も十分に考えられる。
「高紐の死体には、明らかに生前につけられたと思しき刃物傷がいくつか見受けられた。ゾンビが武器を扱うとは思えない。あれは、人間によってつけられた傷だ」
ダガーナイフの回転をピタリと止め、兜はケースにナイフを戻す。
「いかれた野郎が、この島で狂気のバカンスを楽しんでやがるらしい」
「傭兵ですか」
「珍しいか?」
「日本人では珍しいかと」
兜の強さの性質は戦場で培ったタイプのものだと黎一は読んでいたが、傭兵だと聞き合点がいく。
「綿上黎一。十九歳の大学二年生です」
殺し屋だとはもちろん名乗らないが、単なる学生でないということはすでに見抜かれていることは黎一も察している。兜は間違いなく観察眼や思慮深さも持ち合わせているはずだ。
「私は百重玲於奈。高校二年生です」
玲於奈もやはり高校生という以上の情報は与えない。黎一にもそれ以上のことは説明していないのだから、出会ったばかり兜にそれをしないのも当然だ。
「綿上黎一に百重玲於奈か。よし、覚えたぜ」
兜は踏み入ったことは聞いてこなかった。お人好しなのか、この状況下では素性など意味を持たないと考えているのか。真意は分からない。
「お前さんたち。あの小太りのおっさんに支給されるはずだった武器を探しにここまで来たんじゃないか?」
「やはり兜さんもそれで?」
「そうだ。俺の方が早く到着したようだが」
そう言うと、兜は携帯している大容量のリュックから、鮫のマークのついた布袋を取り出した。
「どうりで見つからないわけだ」
「先着一名様限定グッズ。狭き門でしたね」
黎一と玲於奈は互いの顔を見合わせて苦笑した。先に回収されていては見つかるはずもない。
「だけど、武器を回収したのにどうしてこの近くに留まっていたんですか? おかげで助かりましたけど」
「俺の目的は武器の回収だけじゃない。武器を回収に来た他の参加者と合流することが本命だ。お前さんたちも似たようなことは考えていたんじゃないか?」
「まるで心を見透かされてるようですよ。俺たちも他の参加者との合流の重要性を議論していたところです」
「なら話は早い。三人で共同戦線を張らないか?」
兜との共闘は黎一も望んでいたことだが、多少の交渉は必要だろうと思っていたので、こうもあっさりと話が進んで、少し拍子抜けした。
「俺たちでいいんですか? 学生二人ですよ」
「そんなことは関係無い。重要なのは年齢や立場ではなく、この苦境を生き延びるに有用な人材であるかどうかだ。先の戦いを見るに、お前さんたち二人は戦闘能力、知略共に申し分ないと俺は判断した。加えてその瞳には、絶対に生き残ってやるとていう強い意志が宿っている。他力本願で救済を求めるんじゃない、自分達の力で死という檻を食い破ってやろう。そういう覚悟を持った人間の目だ。そういう目をした人間が、俺は好きでね」
満足気に語ると、兜はそっと二人の前へと手を差し出す。
「改めて聞く。俺たち三人で、共同戦線を張ろう」
黎一と玲於奈はお互いの顔を見合わせ頷き合った。答えはもう決まっている。
「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
「おう。大船に乗ったつもりでいろ」
最初に黎一が甲の手を取り固い握手を交わし、続いて玲於奈が兜の手を取った。
「よろしくお願いします。兜さん。先程は助けていただきありがとうございました」
「お役に立てて何よりだ。これからよろしくな」
かくして新たな同盟は結ばれた。傭兵、兜頼弘の加入。戦力は大幅にアップしたといえる。
「お近づきの印ってわけではないが、綿上に一個プレゼントだ」
そう言って兜が手渡してきたのは、彼がこの岩場で回収した鮫のマークがついた布袋だった。
「開けてみろ」
袋を開けると、それは片側が釘抜きとなったネイルハンマーであった。
バールよりリーチは短いが、頭部を狙えば破壊力は十分だろう。強度もあるため、バール同様に近接戦闘では重宝しそうだ。
「貰ってもいいんですか? 兜さんの物でしょう」
「チームを組んだ以上は共有財産だろ。俺はもう武器を二種類持ってるし、打撃系の武器の扱いは綿上の方が上手そうだ」
「そういえば、兜さんはマチェーテとナイフを使ってましたね」
「ああ、マチェーテは最初に支給された武器だが、ナイフはこの岩場にやってくる途中に森で回収した」
そう言って兜は、リュックから鮫のマークのついた黒いケースを取り出す。中には投擲用のダガーナイフが十四本収納されていた。
「どうやって手に入れたんですか?」
「少し前に端末が二人の脱落を知らせて来ただろう。その中の男の方、高紐とかいう奴の死体を見つけてな。近くを探したらこいつが落ちてた」
「元は二十本入りですか?」
箱の中の隙間を見て、玲於奈が訪ねる。
「たぶんそうだな。死ぬまでに、五本のナイフは使っちまったようだ」
ダガーナイフを一本取り出し、兜は器用に手元で回し始める。
「二人に忠告しておく。脅威はゾンビだけじゃないかもしれないぞ」
兜の声のトーンが一気に下がる。穏やかかつ陽気な印象の兜の変声。それだけで緊張感は一気に高まる。
「人間という名の怪物ですか?」
黎一も可能性は感じていた。恐らくこの島に集められた人間は、殺しや戦いに慣れている人間ばかりだ。人が人を襲うという状況も十分に考えられる。
「高紐の死体には、明らかに生前につけられたと思しき刃物傷がいくつか見受けられた。ゾンビが武器を扱うとは思えない。あれは、人間によってつけられた傷だ」
ダガーナイフの回転をピタリと止め、兜はケースにナイフを戻す。
「いかれた野郎が、この島で狂気のバカンスを楽しんでやがるらしい」
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