欠ける星空

七瀬美織

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⑩ 交通事故

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 怖い話を聞いても何とも思わない日もあれば、どういう訳か、頭にこびり付いて離れずに、度々たびたび思い出してしまって困った事はありませんか?

 そんな時、きっと側に波長のあってしまったモノがいるのだと、私は考えています。

 あれは、友人と二人でアパートのわたしの部屋で、飲みながら話をしていた時のことです。近所に、頻繁ひんぱんに交通事故の起きる交差点がある話しになりました。

 不謹慎ですが、不審な事故の話しに盛り上がり、テーマを『交差点』に絞って各々おのおの話をすることになりました。

 時刻も零時を過ぎていましたし、友人は、うちに泊まることになっていました。

 交差点絡みの怪談話は、豊富にありました。

 昨今さっこんでは、ドライブレコーダーや、大きな交差点に警察の監視カメラがあり、大きな音や衝撃にあわせて録画もされるそうです。

 事故の直前に、必ず映り込む謎の姿とか、赤信号が、真っ赤な血に染まった人の顔だったとか、子どもだましのような話もありましたが、すぐにトイレに立ちたくないような、恐ろし話もありました。

 だいたいの話のネタも尽きた頃、友人の携帯電話が鳴りました。

 午前二時です。こんな時間に誰だろう? 

 一同、青い顔をして、携帯電話に出る友人の様子を見ていると、どうやら家族と会話しているようです。

 携帯電話を切った友人に。どうしたのかと尋ねると、父親が軽い脳梗塞を起こしたようだというのです。夜中に父親の片側の手足がマヒしてきたというので、救急車を呼んで、近くの救急病院に入院したというのです。

 救急病院に搬送されたばかりで、容態がわかりませんが、もしもの事を考えて、今すぐに病院に来て欲しいと言われたそうです。

 わたしは、アルコールが好きではないので、ずっとノンアルコールのソフトドリンクを飲んでいました。
 もう一人の友人に留守を頼んで、急いで友人を連れて、車で救急病院に向かうことにしました。

 救急病院は、住宅街から国道を越えて行き、ここから車で十分ほどの場所にあります。

 友人は、助手席で青白い顔をしていました。父親に、もしもの事があったらと思えば無理もありません。

 深夜にも関わらず、前方の国道は車が絶え間なく行き交っていました。

 こちらの信号は赤なので、停止しようとした時、異変が起こりました。

 あれ? どうやって止まればいいのだろう? そもそも、何故止まらなければならないの? 赤信号だからだ! 車を止めるならブレーキだ。ブレーキは、何処だった? 毎日、車通勤しているのに、度忘どわすれするなんてありえない! あ、まだ赤信号なのに、どうしよう!

 わたしは、そのまま減速する事なく、交差点に進入しました……!

 本当に運の良いことに、両車線の車の流れが途切れて、信号無視にも関わらず、わたしの車は、交差点を無事通過したのです。

 交差点から、五十メートルほど走ったところで、ハッとして、ブレーキを踏んで減速しました。路肩に車を止めて、パーキングにギアを入れ、更にサイドブレーキを踏み込みました。

 わたしの額から、汗がどっと流れます。背中まで汗でびっしょりです。いつの間にか、呼吸も荒くなっていて、身体中ひどく怠く感じます。わたしは、助手席の友人に、危ない目に合わせた事を、急いで謝ろうとしました。

 しかし、助手席は無人でした……。

 待って! わたしは、誰を病院まで送ろうとしたのでしょうか?

 わたしの携帯電話が、車内で鳴りました。電話に出ると、友人の焦った声で、わたしの無事を確認してきました。

 そして、こう言ったのです。

 ーーーー 私たち、二人だけで飲んでいたよね?!

 私たちの怪談話に波長があって、交差点の何かを、呼び寄せてしまったのかもしれません。


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