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第一章 初恋
第六話 竜騎士 ①
しおりを挟む私は、上機嫌で貰った本を長椅子に置き、何だか様子の変なシドに別れの挨拶をして、蝶たちと寝室に戻った。それから、お昼寝をしようと、いそいそとベッドに入いる。
寝室に戻ってくると、『妖精の庭』で過ごした時間はなかった事になる。なので、お昼寝時間は、まだたっぷりとあるのだ。
私は、『妖精の庭』で繰り返される時間と、普通に流れている時間 …… 二つの『時間の流れ』について考えた。
今にして思えば、『妖精の庭』は雨の降った翌日でも、長椅子やクッションが濡れていた事は一度もなかった。しかも、どんなにいい天気だろうが、中庭に蝶の群れがいなければ『妖精の庭』へ行けない。あの庭は、雷の荒れ狂う嵐でも、深々と雪の降る日でも、きっと穏やかに晴れているのだろう。
ふと、シドが持ち込んだ長椅子とクッションや本は、あの庭の魔法にとって異物にならないのか気になった。持ち込まれた物は、庭にある限り、繰り返される時間の一部として存在するのだろうか?
では、人間は? 人があの場所に居続けると、どうなるのだろう? ああ、戻れば時間は経っていないのだから、変わらないのかな? …… あれ? 変わらないはず無いよね …… おや?! そんな似たような場所の出てくるお話があったような …… ?! う~ん? 前世の知識だったのだろうか ……?
「それで、マリーはどうやって調べてみるの?」
「シィ様、私は図書館に行って調べてみたいです」
「城の図書館は、王宮から遠いよ。だから、マリーは王宮内の図書室を利用した方がいいよ。本の数は図書館より少ないけれど、図書室の司書に頼めば、好きな本や調べたい内容に合わせて、図書館からすぐに本を取寄せてくれるよ」
「そうなのですか? だったら、図書室で『ファルザルク王国の農産物』について調べてみます」
次の教師が来るまで時間があるので、さっきの授業で分からなかった『ファルザルク王国の農産物』について、アレクシリスと話をしている。とても幼児教育とは思えない内容だ。私達のお勉強は、同年代の子供と比べても、かなり進んでいると思う。王族は、貴族の手本になるべきという訳で、いわゆる英才教育なのだ。私は、前世の知識チートだから余裕で授業についていけている。
しかし、この世界の知識は無いし、将来伸び悩まない為に基礎からきっちり学ぶつもりだ。明るい未来のために頑張ろう!
アレクシリスが、ゲンタリオス国の王女との結婚話を知っているのか気になっていたけど、大丈夫みたい。いつもの『シィ様』だ。
私達の教師は、母上配下の文官達だ。ただし、学園の元教師なので授業はとてもわかりやすい。
数年前、母上が学園内部の派閥争いで、辞職した教師を文官に登用したのだ。学園でも、派閥ですか …… 。本来、学園から教師が派遣されるのが、慣例なのだという。でも、母上は現在の学園を信用出来ないから、配下の文官に、教師役も依頼している。だから、兼任教師は、仕事の都合で授業の約束時間に遅刻したりする事がある。アレクシリス達と待っている間、おしゃべりするのも楽しい時間なので問題ない。
「シィ様、午後から図書室にご一緒しませんか?」
「ごめんね。僕がマリーを図書室に案内してあげたいけど、午後から竜騎士団の見学に行く予定だから、今度一緒に行こう」
「り、竜騎士団?!」
「そうだよ。大空を竜の飛ぶ姿が見られるかもしれないから、楽しみだな」
私は、びっくりして聞き返した。
「り、竜?! ………… !! 竜って、どんな生き物なのですか?!」
危な~い!! もう少しで、この世界には竜がいるのですか?! って、言いそうになった!
「マリーは、竜族を知らないの?」
「竜族?」
「姫様は、竜が王都の空を飛んでいるのを見かけたりしませんか?」
ナチュラルにフレデリクが会話に参加してきているけど、基本的に従者は主人と同じ席でお茶はいたしません。ほら、エルシアは私の背後で控えているよね。フレデリクの兄は侯爵家当主でも、君はまだ子供でしょう? それとも子供だから許されるのかな? アレクシリスが何も言わないから、いいの? それにしても、竜族?! 知らなかった!
「中庭からなら …… 時々空を見ていますが、竜を見たことはありません」
「なるほど。それは姫様が知らなくて当然ですね。王宮上空は竜の飛行禁止区域です。それに、姫様は行動範囲が狭いですから、気がつかなくて当たり前ですね」
「…… フレデリクって、悪気はないみたいだけど、ちょっと意地悪ね」
「えっ、姫様? 殿下、私は意地悪じゃないですよね?!」
「フレデリクは、意地悪と言うよりも、無自覚に失礼な発言が多いだけだ」
「そうですね、フレデリクって …… 」
「「天然の無礼者だ」ね」
おおっ! アレクシリスと息ピッタリ。
「ええ~! 殿下に姫様まで、ひどい評価です! 私は、そんなつもりで言っておりません。姫様がご存知ないようですから、お教えしましょう。ええっと、竜族は人の姿と竜の姿を持つ、最強の一族なのです。生態も住処も不明ですが、古より契約で人間に力を貸してくれる、不思議な一族なのです」
フレデリクは、『竜族』について焦りながら話してくれた。でも、何気に上から目線な感じの口調は、さすが『天然の無礼者』だ。
「義兄上が副団長を務める近衛騎士団の他に、ファルザルク王国には、竜騎士団、王国軍と王国警備隊がある。海軍は辺境伯を中心に貴族の私設軍隊が担っているそうだ」
「凄いです! シィ様はよくご存知なのですね」
「そうでもないよ …… 」
アレクシリスは、ちょっと嬉しそうに照れ笑いをした。まだ幼さが抜けないが、整った容姿をしたアレクシリスが少し笑っただけで、とても麗しい。まさに、天使降臨だ。私は、うっとり顔でアレクシリスの笑顔に見とれてしまった。
はっ! そうだ、竜だ!!
「ねえ、エルシア! 私も竜騎士団を見てみたいわ!」
「承知いたしました。王女殿下に、ご相談しておきます」
「ありがとう、エルシア」
母上、許可してくれるかな? 竜に、竜族に会ってみたい。生で見るドラゴン! なんか、ワクワクしちゃうな。前世の世界には、生きてるドラゴンは存在しなかったよね。実在してないのに、存在は知っているって、前世の異世界って不思議だな。でも、生ドラゴンはファンタジーの王道だ! いや、生は要らないドラゴン! ドラゴン! ドラゴン!
私が、脳内大興奮状態なのをエルシアが察して、お茶を飲んで落ち着くように言われた。ヤバい。アレクシリス達の前だった。やだ、恥ずかしいから、みんな微笑ましそうに見ないで!
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