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婚約破棄された悪役令嬢は辺境で幸せに暮らす
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私は今日も王宮で働いていた。
私は公爵令嬢エリザベス・ファルコンという名前で、この国の第一王子レオン・アルトリアと婚約している。
私たちは幼馴染みであり、互いに想い合っているつもりだった。
しかし最近レオンは私に冷たくなった。
私が話しかけても無視したり、会おうとしても断られたりすることが多くなった。
それでも私はレオンを信じて待っていた。
レオンは国の未来の王だから忙しいんだろうと思って。
でも今日、その信頼が裏切られることになった。
「エリザベス。君と話がある」
レオンが突然私の部屋に現れてそう言った。
「レオン!久しぶりね!どうしたの?」
私は驚きながらも笑顔で迎えようとした。
しかしレオンの表情は冷ややかだった。
「君と話さなければならないことがあるんだ」
「何か問題でも?」
「問題……そう言えばそうかもしれない」
レオンは深呼吸してから言った。
「君との婚約を破棄する」
「えっ……?」
私は信じられないという声を上げた。
「どうして?私たちは愛し合っているんじゃないの?」
「愛し合っている?そんなことはない。君との婚約は政略結婚に過ぎなかったんだ」
「政略結婚……?でも私たちは幼馴染みで、一緒に遊んだり勉強したりしたじゃない。あの頃は本当に好きだったんでしょう?」
「あの頃はまだ子供だった。大人になってから気づいたんだ。君とは相性が悪いし、価値観も違うし、何より愛している人が別にいることに」
「愛している人が別に……誰よ!?」
私は怒りと悲しみで涙が溢れそうになった。
レオンは冷静に答えた。
「聖女だよ。彼女こそが僕の真実の伴侶なんだ」
「聖女……あの国を救ったと言われている聖女……?」
私は思わず呟いた。
聖女というのは、数ヶ月前に突然現れて、この国を襲っていた魔物や瘴気を浄化した存在だ。
彼女は神から授かった力で奇跡を起こし、国民から敬愛されている。
王宮でも彼女を招待してパーティーを開くほどだった。
私も一度会っただけだが、彼女は美しくて優しくて清らかで、まさに聖女そのものだった。
レオンが彼女に惹かれるのも無理はなかったかもしれない。
でもそれでも私は納得できなかった。
「レオン……どうしてそんなこと言うの……私達これから結婚するんだよ……幸せに暮らすつもりだったのに……」
私は涙声で訴えた。
レオンは無表情で言った。
「それは君の勝手な思い込みだ。僕は君と結婚する気はなかったし、幸せに暮らすつもりもなかった。君との婚約は父上の命令だったから仕方なく受け入れただけだ」
「そんな……嘘よ……」
私は信じられないという顔をした。
レオンは冷酷に言った。
「嘘じゃない。本当のことだ。君に対して愛情など一切感じていない。むしろ邪魔でしかなかった。聖女が現れてくれて本当に良かったよ。彼女が僕の運命の人だって分かったから」
「運命の人……?」
私は呆然とした。
レオンは自信満々に言った。
「そうだ。聖女と僕は運命的に出会って、一目惚れしたんだ。彼女も僕のことを好きだって言ってくれたよ。彼女こそが僕を理解してくれる唯一の存在なんだ」
「でもレオン……私達も一目惚れしたじゃない……あの日、初めて会った時に……」
私は必死に思い出した。
私達が初めて会った日、それは私が五歳、レオンが六歳の時だった。
父親が公爵である私は王宮へ招待され、王太子であるレオンと対面した。
その時、レオンは金色の髪と碧色の瞳を持つ美しい少年だった。
私はその姿に見惚れてしまった。
レオンも私を見て、目を輝かせた。
「君はエリザベス・ファルコンだね。僕はレオン・アルトリア。よろしくね」
「はい……よろしくお願いします……」
私は恥ずかしそうに答えた。
それから私達は一緒に遊んだり勉強したりするようになった。
レオンは優しくて頭が良くて勇敢で、私の理想の王子様だった。
私はレオンにどんどん惹かれていった。
そして十歳の時、レオンから婚約の申し込みを受けた。
「エリザベス、僕と結婚してくれないか?」
「えっ……本当ですか?」
「本当だよ。君が好きだから」
「私もレオンが好きです……」
私達は幸せそうに抱き合った。
それから二年間、私達は婚約者として仲良く暮らしていた。
しかし、聖女が現れてからすべてが変わってしまったのだ。
「あの日……?ああ、あれか。確かに君に一目惚れしたことは事実だけど、それも子供の気まぐれだったんだよ。大人になってみると、君という人間がどんなにつまらなくて退屈で無能で自己中心的でわがままで……」
「やめて……やめてよ……そんなこと言わないで……」
私は泣きながらレオンに懇願した。
レオンは冷たく言った。
「言うよ。これが本当の僕の気持ちだから。君に対して愛情も尊敬も感謝もない。ただの嫌悪と軽蔑だけだ」
「そんな……ひどい……」
私は崩れ落ちそうになった。
レオンは容赦なく言った。
「だから、君との婚約を破棄する。そして聖女と結婚する。彼女は君とは違って美しくて賢くて優しくて清らかで、僕にぴったりの女性なんだ。彼女と一緒になれば、この国も幸せになる」
「国も幸せに……?それが何か関係あるの?私達は愛し合って結婚するんじゃなかったの?」
私は必死に反論した。
レオンは笑った。
「愛し合って結婚する?そんな甘いことを言ってる場合じゃないよ。僕は王太子だから、国のことを考えなければならないんだ。君と結婚しても国に何の利益もないし、むしろ迷惑だろう。でも聖女と結婚すれば、国民の信頼も得られるし、神の加護も受けられるし、最高のパートナーだよ」
「最高のパートナー……?それが本当に大切なこと?私達が一緒に幸せに暮らすことよりも?」
私は涙を流しながら訊いた。
レオンは断言した。
「そうだ。それが本当に大切なことだ。君が一緒に幸せに暮らすことなどどうでもいい。僕は聖女と一緒に幸せに暮らすつもりだから」
「レオン……どうしてこんなに変わってしまったの……」
私は悲しみに震えた。
レオンは冷笑した。
「変わった?いや、僕は変わってないよ。君が勘違いしてただけだ。僕はずっとこのままだったんだよ」
「そんな……」
私は絶望した。
レオンは最後に言った。
「さあ、早く婚約指輪を返してくれ。これから聖女に渡すんだから」
「聖女に……?」
私は目を見開いた。
レオンが私に渡した婚約指輪は、代々王家に伝わる宝石で作られたものだった。
それを聖女に渡すということは……
「そうだ。僕と聖女は今日中に婚約するんだ。そして明日、結婚式を挙げる」
「今日中に……明日……?」
私は呆然とした。
レオンはニヤリと笑った。
「驚いたか?でもこれが現実なんだよ。君との婚約破棄も、聖女との婚約も、結婚式も、全て父上の許可を得て決めたことなんだ。君がどう思おうと関係ないよ」
「父上の許可……?王様が……?」
私は信じられなかった。
王様は私達の婚約を喜んでくれていたし、私にも優しく接してくれていた。
彼がこんなことを許すはずがなかった。
レオンは冷たく言った。
「父上も聖女のことを気に入ってるんだよ。彼女が国にとって必要な存在だと分かってるからね。君なんかよりずっとずっと大切なんだよ」
「そんな……」
私は涙が止まらなかった。
レオンは私の手を掴んで、無理やり婚約指輪を外した。
「痛い……やめて……」
私は抵抗したが、レオンの力には敵わなかった。
レオンは婚約指輪を手に取って、満足そうに見た。
「これで終わりだ。さようなら、エリザベス・ファルコン。もう二度と会うことはないだろう」
「レオン……」
私は悲痛な声で呼んだが、レオンは振り返らずに部屋を出て行った。
私はその後ろ姿を見送った。
婚約破棄された悪役令嬢の末路……
それはどうなるのだろうか?
私は恐怖と絶望に打ちひしがれた。
私は婚約破棄された後、王宮から追放された。
レオンは私に何の慰謝料も与えず、私の財産や持ち物も全て没収した。
私は自分の領地である辺境の地へと向かうことになった。
辺境というのは、王都から遠く離れた荒涼とした土地で、魔物や盗賊が跋扈している危険な場所だった。
そこに住む領民や家臣たちは、私を快く迎えてくれるだろうか?
私は不安に思った。
しかし、私には他に行く場所もなかった。
私は自分の運命を受け入れるしかなかった。
「お嬢様、もうすぐメルドルフ領です」
馬車の中で眠っていた私を起こしたのは、私に付き従ってくれた唯一の家臣だった。
彼の名前はイザーク・ハインツといって、私の護衛騎士兼執事だった。
彼はレオンと同じ金色の髪と碧色の瞳を持つ美青年だったが、レオンと違って真面目で忠実で勇敢で優しかった。
彼は私に対しても敬意と友情を持って接してくれていた。
私は彼に感謝していた。
「イザーク……ありがとう。あなたがいてくれて本当に良かった」
私は彼に微笑んだ。
イザークは恥ずかしそうに言った。
「お嬢様、そんなことを言わないでください。私はお嬢様に仕えることが誇りです。どんな困難があろうとも、お嬢様のそばにいます」
「イザーク……」
私は彼の言葉に感動した。
イザークは窓から外を見て言った。
「お嬢様、あれがメルドルフ領の城です」
私も窓から外を見た。
そこには荒涼とした土地に建つ、古くて小さな城が見えた。
それが私の新しい住まいだった。
「これからここで暮らすんだね……」
私は少し寂しく思った。
イザークは励ましたように言った。
「お嬢様、大丈夫です。領民や家臣たちは皆、お嬢様を歓迎してくれると思います。そして私もお嬢様を守ります」
「ありがとう、イザーク。あなたがいるだけで心強いわ」
私は彼に笑顔で答えた。
馬車は城門に到着した。
そこには領民や家臣たちが大勢集まっていた。
彼らは私の姿を見ると、歓声を上げた。
「お嬢様、お帰りなさい!」
「お嬢様、お待ちしておりました!」
「お嬢様、これからよろしくお願いします!」
私は彼らの声に驚いた。
彼らは私を快く迎えてくれているようだった。
私はイザークに訊いた。
「イザーク、これはどういうこと?」
イザークは嬉しそうに言った。
「お嬢様、これは領民や家臣たちが、お嬢様の帰還を祝ってくれているんです。彼らは皆、お嬢様のことを尊敬していますし、愛しています」
「尊敬して……愛して……?」
私は不思議に思った。
私はこの領地に来たことがなかったし、彼らとも面識がなかった。
なぜ彼らは私に対してそんな感情を持っているのだろうか?
イザークは説明した。
「お嬢様、実はこのメルドルフ領は、かつて貴族の間で忌み嫌われていました。魔物や盗賊が跋扈する危険な土地だからです。しかし、お嬢様のご先祖様であるメルドルフ公爵閣下がこの領地を治めることになりました。公爵閣下は魔物や盗賊と戦って領地を守り、領民や家臣たちに恩恵を与えました。それ以来、メルドルフ家の人々は皆、領民や家臣たちから敬愛されています。お嬢様もその一人です」
「私も……?」
私は驚いた。
イザークは続けた。
「はい。お嬢様はメルドルフ家の末裔であり、この領地の主です。そして、お嬢様は王太子殿下と婚約されていました。それはこの領地にとっても大きな栄誉でしたし、希望でした。しかし、王太子殿下がお嬢様に婚約破棄を言い渡したことを知った時、皆が怒りと悲しみに包まれました。王太子殿下の非道さと無礼さに対してです」
「そうだったの……?」
私は涙ぐんだ。
イザークは笑顔で言った。
「でも、その後にお嬢様がこの領地に戻られることを知った時、皆が喜びに沸きました。お嬢様が無事であること、そしてお嬢様が自分たちの主であることに感謝しました。彼らは皆、お嬢様を迎える準備をしましたし、お嬢様と一緒に暮らすことを楽しみにしています」
「そうなの……?」
私は感動した。
イザークは真剣な表情で言った。
「お嬢様、どうか安心してください。このメルドルフ領では皆、お嬢様の味方です。そして私もお嬢様の味方です。どんな困難があろうとも、私達は共に乗り越えます。そして必ず幸せになります」
「イザーク……ありがとう……本当にありがとう……」
私は彼に感謝の言葉を述べた。
イザークは微笑んだ。
「どういたしまして。これからよろしくお願いします」
馬車は城内に入った。
そこでは領民や家臣たちが歓迎の声を上げていた。
私も彼らに手を振って応えた。
私は心から笑顔で思った。
レオンなんか要らないわ……
私はこの辺境で幸せに暮らすつもりだから……
(完)
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お読み頂きありがとうございました。
私は公爵令嬢エリザベス・ファルコンという名前で、この国の第一王子レオン・アルトリアと婚約している。
私たちは幼馴染みであり、互いに想い合っているつもりだった。
しかし最近レオンは私に冷たくなった。
私が話しかけても無視したり、会おうとしても断られたりすることが多くなった。
それでも私はレオンを信じて待っていた。
レオンは国の未来の王だから忙しいんだろうと思って。
でも今日、その信頼が裏切られることになった。
「エリザベス。君と話がある」
レオンが突然私の部屋に現れてそう言った。
「レオン!久しぶりね!どうしたの?」
私は驚きながらも笑顔で迎えようとした。
しかしレオンの表情は冷ややかだった。
「君と話さなければならないことがあるんだ」
「何か問題でも?」
「問題……そう言えばそうかもしれない」
レオンは深呼吸してから言った。
「君との婚約を破棄する」
「えっ……?」
私は信じられないという声を上げた。
「どうして?私たちは愛し合っているんじゃないの?」
「愛し合っている?そんなことはない。君との婚約は政略結婚に過ぎなかったんだ」
「政略結婚……?でも私たちは幼馴染みで、一緒に遊んだり勉強したりしたじゃない。あの頃は本当に好きだったんでしょう?」
「あの頃はまだ子供だった。大人になってから気づいたんだ。君とは相性が悪いし、価値観も違うし、何より愛している人が別にいることに」
「愛している人が別に……誰よ!?」
私は怒りと悲しみで涙が溢れそうになった。
レオンは冷静に答えた。
「聖女だよ。彼女こそが僕の真実の伴侶なんだ」
「聖女……あの国を救ったと言われている聖女……?」
私は思わず呟いた。
聖女というのは、数ヶ月前に突然現れて、この国を襲っていた魔物や瘴気を浄化した存在だ。
彼女は神から授かった力で奇跡を起こし、国民から敬愛されている。
王宮でも彼女を招待してパーティーを開くほどだった。
私も一度会っただけだが、彼女は美しくて優しくて清らかで、まさに聖女そのものだった。
レオンが彼女に惹かれるのも無理はなかったかもしれない。
でもそれでも私は納得できなかった。
「レオン……どうしてそんなこと言うの……私達これから結婚するんだよ……幸せに暮らすつもりだったのに……」
私は涙声で訴えた。
レオンは無表情で言った。
「それは君の勝手な思い込みだ。僕は君と結婚する気はなかったし、幸せに暮らすつもりもなかった。君との婚約は父上の命令だったから仕方なく受け入れただけだ」
「そんな……嘘よ……」
私は信じられないという顔をした。
レオンは冷酷に言った。
「嘘じゃない。本当のことだ。君に対して愛情など一切感じていない。むしろ邪魔でしかなかった。聖女が現れてくれて本当に良かったよ。彼女が僕の運命の人だって分かったから」
「運命の人……?」
私は呆然とした。
レオンは自信満々に言った。
「そうだ。聖女と僕は運命的に出会って、一目惚れしたんだ。彼女も僕のことを好きだって言ってくれたよ。彼女こそが僕を理解してくれる唯一の存在なんだ」
「でもレオン……私達も一目惚れしたじゃない……あの日、初めて会った時に……」
私は必死に思い出した。
私達が初めて会った日、それは私が五歳、レオンが六歳の時だった。
父親が公爵である私は王宮へ招待され、王太子であるレオンと対面した。
その時、レオンは金色の髪と碧色の瞳を持つ美しい少年だった。
私はその姿に見惚れてしまった。
レオンも私を見て、目を輝かせた。
「君はエリザベス・ファルコンだね。僕はレオン・アルトリア。よろしくね」
「はい……よろしくお願いします……」
私は恥ずかしそうに答えた。
それから私達は一緒に遊んだり勉強したりするようになった。
レオンは優しくて頭が良くて勇敢で、私の理想の王子様だった。
私はレオンにどんどん惹かれていった。
そして十歳の時、レオンから婚約の申し込みを受けた。
「エリザベス、僕と結婚してくれないか?」
「えっ……本当ですか?」
「本当だよ。君が好きだから」
「私もレオンが好きです……」
私達は幸せそうに抱き合った。
それから二年間、私達は婚約者として仲良く暮らしていた。
しかし、聖女が現れてからすべてが変わってしまったのだ。
「あの日……?ああ、あれか。確かに君に一目惚れしたことは事実だけど、それも子供の気まぐれだったんだよ。大人になってみると、君という人間がどんなにつまらなくて退屈で無能で自己中心的でわがままで……」
「やめて……やめてよ……そんなこと言わないで……」
私は泣きながらレオンに懇願した。
レオンは冷たく言った。
「言うよ。これが本当の僕の気持ちだから。君に対して愛情も尊敬も感謝もない。ただの嫌悪と軽蔑だけだ」
「そんな……ひどい……」
私は崩れ落ちそうになった。
レオンは容赦なく言った。
「だから、君との婚約を破棄する。そして聖女と結婚する。彼女は君とは違って美しくて賢くて優しくて清らかで、僕にぴったりの女性なんだ。彼女と一緒になれば、この国も幸せになる」
「国も幸せに……?それが何か関係あるの?私達は愛し合って結婚するんじゃなかったの?」
私は必死に反論した。
レオンは笑った。
「愛し合って結婚する?そんな甘いことを言ってる場合じゃないよ。僕は王太子だから、国のことを考えなければならないんだ。君と結婚しても国に何の利益もないし、むしろ迷惑だろう。でも聖女と結婚すれば、国民の信頼も得られるし、神の加護も受けられるし、最高のパートナーだよ」
「最高のパートナー……?それが本当に大切なこと?私達が一緒に幸せに暮らすことよりも?」
私は涙を流しながら訊いた。
レオンは断言した。
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「レオン……どうしてこんなに変わってしまったの……」
私は悲しみに震えた。
レオンは冷笑した。
「変わった?いや、僕は変わってないよ。君が勘違いしてただけだ。僕はずっとこのままだったんだよ」
「そんな……」
私は絶望した。
レオンは最後に言った。
「さあ、早く婚約指輪を返してくれ。これから聖女に渡すんだから」
「聖女に……?」
私は目を見開いた。
レオンが私に渡した婚約指輪は、代々王家に伝わる宝石で作られたものだった。
それを聖女に渡すということは……
「そうだ。僕と聖女は今日中に婚約するんだ。そして明日、結婚式を挙げる」
「今日中に……明日……?」
私は呆然とした。
レオンはニヤリと笑った。
「驚いたか?でもこれが現実なんだよ。君との婚約破棄も、聖女との婚約も、結婚式も、全て父上の許可を得て決めたことなんだ。君がどう思おうと関係ないよ」
「父上の許可……?王様が……?」
私は信じられなかった。
王様は私達の婚約を喜んでくれていたし、私にも優しく接してくれていた。
彼がこんなことを許すはずがなかった。
レオンは冷たく言った。
「父上も聖女のことを気に入ってるんだよ。彼女が国にとって必要な存在だと分かってるからね。君なんかよりずっとずっと大切なんだよ」
「そんな……」
私は涙が止まらなかった。
レオンは私の手を掴んで、無理やり婚約指輪を外した。
「痛い……やめて……」
私は抵抗したが、レオンの力には敵わなかった。
レオンは婚約指輪を手に取って、満足そうに見た。
「これで終わりだ。さようなら、エリザベス・ファルコン。もう二度と会うことはないだろう」
「レオン……」
私は悲痛な声で呼んだが、レオンは振り返らずに部屋を出て行った。
私はその後ろ姿を見送った。
婚約破棄された悪役令嬢の末路……
それはどうなるのだろうか?
私は恐怖と絶望に打ちひしがれた。
私は婚約破棄された後、王宮から追放された。
レオンは私に何の慰謝料も与えず、私の財産や持ち物も全て没収した。
私は自分の領地である辺境の地へと向かうことになった。
辺境というのは、王都から遠く離れた荒涼とした土地で、魔物や盗賊が跋扈している危険な場所だった。
そこに住む領民や家臣たちは、私を快く迎えてくれるだろうか?
私は不安に思った。
しかし、私には他に行く場所もなかった。
私は自分の運命を受け入れるしかなかった。
「お嬢様、もうすぐメルドルフ領です」
馬車の中で眠っていた私を起こしたのは、私に付き従ってくれた唯一の家臣だった。
彼の名前はイザーク・ハインツといって、私の護衛騎士兼執事だった。
彼はレオンと同じ金色の髪と碧色の瞳を持つ美青年だったが、レオンと違って真面目で忠実で勇敢で優しかった。
彼は私に対しても敬意と友情を持って接してくれていた。
私は彼に感謝していた。
「イザーク……ありがとう。あなたがいてくれて本当に良かった」
私は彼に微笑んだ。
イザークは恥ずかしそうに言った。
「お嬢様、そんなことを言わないでください。私はお嬢様に仕えることが誇りです。どんな困難があろうとも、お嬢様のそばにいます」
「イザーク……」
私は彼の言葉に感動した。
イザークは窓から外を見て言った。
「お嬢様、あれがメルドルフ領の城です」
私も窓から外を見た。
そこには荒涼とした土地に建つ、古くて小さな城が見えた。
それが私の新しい住まいだった。
「これからここで暮らすんだね……」
私は少し寂しく思った。
イザークは励ましたように言った。
「お嬢様、大丈夫です。領民や家臣たちは皆、お嬢様を歓迎してくれると思います。そして私もお嬢様を守ります」
「ありがとう、イザーク。あなたがいるだけで心強いわ」
私は彼に笑顔で答えた。
馬車は城門に到着した。
そこには領民や家臣たちが大勢集まっていた。
彼らは私の姿を見ると、歓声を上げた。
「お嬢様、お帰りなさい!」
「お嬢様、お待ちしておりました!」
「お嬢様、これからよろしくお願いします!」
私は彼らの声に驚いた。
彼らは私を快く迎えてくれているようだった。
私はイザークに訊いた。
「イザーク、これはどういうこと?」
イザークは嬉しそうに言った。
「お嬢様、これは領民や家臣たちが、お嬢様の帰還を祝ってくれているんです。彼らは皆、お嬢様のことを尊敬していますし、愛しています」
「尊敬して……愛して……?」
私は不思議に思った。
私はこの領地に来たことがなかったし、彼らとも面識がなかった。
なぜ彼らは私に対してそんな感情を持っているのだろうか?
イザークは説明した。
「お嬢様、実はこのメルドルフ領は、かつて貴族の間で忌み嫌われていました。魔物や盗賊が跋扈する危険な土地だからです。しかし、お嬢様のご先祖様であるメルドルフ公爵閣下がこの領地を治めることになりました。公爵閣下は魔物や盗賊と戦って領地を守り、領民や家臣たちに恩恵を与えました。それ以来、メルドルフ家の人々は皆、領民や家臣たちから敬愛されています。お嬢様もその一人です」
「私も……?」
私は驚いた。
イザークは続けた。
「はい。お嬢様はメルドルフ家の末裔であり、この領地の主です。そして、お嬢様は王太子殿下と婚約されていました。それはこの領地にとっても大きな栄誉でしたし、希望でした。しかし、王太子殿下がお嬢様に婚約破棄を言い渡したことを知った時、皆が怒りと悲しみに包まれました。王太子殿下の非道さと無礼さに対してです」
「そうだったの……?」
私は涙ぐんだ。
イザークは笑顔で言った。
「でも、その後にお嬢様がこの領地に戻られることを知った時、皆が喜びに沸きました。お嬢様が無事であること、そしてお嬢様が自分たちの主であることに感謝しました。彼らは皆、お嬢様を迎える準備をしましたし、お嬢様と一緒に暮らすことを楽しみにしています」
「そうなの……?」
私は感動した。
イザークは真剣な表情で言った。
「お嬢様、どうか安心してください。このメルドルフ領では皆、お嬢様の味方です。そして私もお嬢様の味方です。どんな困難があろうとも、私達は共に乗り越えます。そして必ず幸せになります」
「イザーク……ありがとう……本当にありがとう……」
私は彼に感謝の言葉を述べた。
イザークは微笑んだ。
「どういたしまして。これからよろしくお願いします」
馬車は城内に入った。
そこでは領民や家臣たちが歓迎の声を上げていた。
私も彼らに手を振って応えた。
私は心から笑顔で思った。
レオンなんか要らないわ……
私はこの辺境で幸せに暮らすつもりだから……
(完)
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聖女の能力で見た予知夢を盗まれましたが、それには大事な続きがあります~幽閉聖女と黒猫~
猫子
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「王家を欺き、聖女を騙る不届き者め! 貴様との婚約を破棄する!」
聖女リアはアズル王子より、偽者の聖女として婚約破棄を言い渡され、監獄塔へと幽閉されることになってしまう。リアは国難を退けるための予言を出していたのだが、その内容は王子に盗まれ、彼の新しい婚約者である偽聖女が出したものであるとされてしまったのだ。だが、その予言には続きがあり、まだ未完成の状態であった。梯子を外されて大慌てする王子一派を他所に、リアは王国を救うためにできることはないかと監獄塔の中で思案する。
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あれ?
長いプロローグで終わった感じ?
( ´ཫ` )グハァすみませんm(*_ _)m
あらすじの最後の方に、
彼女は自分の才能や趣味を生かして領民や家臣たちと共に楽しく暮らし始める。しかし、王太子や聖女が放った陰謀がエリザベスに迫ってきて……。
っとあります。完結になっていますが、才能や趣味を生かして…とか、王太子や聖女が放った陰謀が…などは何処にいったのですか?
元々は長編の予定で作ったあらすじだったためこうなってしまいました。すみませんm(*_ _)m