雨音と共に訪れた出会い~雨の日の奇跡

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彼と会った日

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雨音が窓ガラスに響く。

美咲はひとりで本屋に入った。今日は授業が早く終わったから、帰り道に寄ってみることにした。好きな作家の新刊が出ているかもしれないし、それに雨の日は人も少なくて落ち着く。

「こんにちは」

店員さんが元気よく挨拶してくれる。美咲も笑顔で返事をした。

本屋という場所は、美咲にとって特別な意味がある。

小さい頃から読書好きだった美咲は、よく母親と一緒に本屋に行っていた。母親も文学や歴史など幅広いジャンルの本を読んでいて、美咲に色々な本を紹介してくれた。

「この本面白いよ。主人公がすごく強くてカッコイイんだ」

「この本感動するよ。最後まで読んだら泣いちゃうかも」

「この本勉強になるよ。世界中の色々な国や文化が知れるんだ」

母親の言葉通り、美咲はそれぞれの本から楽しさや感動や知識を得ていった。

しかし、その幸せな時間は長く続かなかった。

美咲が中学生の時、母親は交通事故で亡くなってしまう。

父親は仕事ばかりで家庭を顧みず、美咲ともろくに話さなかった。

孤独と悲しみに苛まれた美咲は、唯一残された母親の形見である本だけが心の支えだった。

高校生になってからも友達付き合いは少なく、放課後や休日もほとんど家で読書して過ごした。

そして今、大学生として一人暮らしを始めてからも変わらず読書好きだった。

恋愛経験も無かったし興味も無かった。

自分では満足しているつもりだったけど、

でも、

時々、

深夜テレビで流れる恋愛ドラマや映画、

街中ですれ違うカップルや家族連れ、

そんなものを見るたびに、

自分には何かが足りないのではないかと思うことがあった。

そんな美咲の日常は、ある雨の日に変わった。

その日も美咲は本屋に立ち寄っていた。

新刊コーナーで気になる本を見つけて手に取ろうとしたとき、

同じ本を手に取ろうとした男性と目が合った。

彼は美咲より少し年上くらいで、黒髪に黒縁メガネ、スーツ姿だった。

彼は美咲に気づくと、驚いたように目を見開いてから、すぐに笑顔になった。

「あ、すみません。先にどうぞ」

彼は丁寧に言って、本を差し出した。

美咲は戸惑いながらも、彼の言葉に従って本を受け取った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

彼は微笑んでから自己紹介をした。

「僕は〇〇と言います。この本屋さん、よく来るんですよ」

美咲は彼の名前を聞き逃してしまった。耳が悪いわけではないのだが、雨音や店内のBGMや他の客の声でかき消されてしまったのだ。

でも今更聞き返すのも失礼だろうか?

美咲は迷っている間に、

「あなたもこの作家さん好きですか?」

彼が話しかけてきた。彼は手元の本を指さして言った。

「え?あ、そうです。この作家さんの小説は全部読んでます」

美咲は素直に答えた。確かにこの作家さんは好きだった。恋愛小説だけど甘すぎず切なすぎず、リアルで心温まる話ばかりだった。

「僕もです。この作家さんの小説は感情移入しやすくて好きです」

彼も同じことを言ってくれた。それから二人でその作家さんやその他のおすすめ小説など話しだした。

話してみると彼は意外と話しやすくて面白くて親しみやすかった。

美咲は久しぶりに心から楽しい時間を過ごしていた。

彼も同じように感じているのだろうか?

美咲は彼の顔を見てみた。彼は目を輝かせて話していた。その表情に美咲はドキッとした。

彼はとても素敵な人だった。知的で優しくて面白くて、美咲の好きな本や音楽や映画に詳しかった。

こんな人と出会えるなんて、奇跡だと思った。

でも、これが最初で最後の出会いになってしまうのだろうか?

美咲はそんなことを考えると、少し寂しくなった。

「あの、すみません」

そんな時、彼が言った。

「僕、ちょっと用事があって…」ー

彼は時計を見てから言った。

「もうこんな時間ですね。すみません、急いで行かなくちゃ」

彼は本をレジに持って行って支払ってから、

「今日はありがとうございました。楽しかったです」

と言って美咲に頭を下げた。

「私も楽しかったです、こちらこそありがとうございました」

美咲も礼を言った。でも心の中では、

これで終わり?

と思っていた。

彼は本屋から出ようとしたが、

その前に立ち止まって振り返った。
そして、

「あの…」

と言ってから、

「また会えますか?」

と聞いてきた。

彼の言葉に美咲は驚いた。

彼もまた会いたいと思ってくれているのだろうか?

美咲は心臓が高鳴るのを感じた。

でも、彼と連絡先を交換するのは大丈夫なのだろうか?

美咲は少し不安になった。

彼は本当に信用できる人なのだろうか?

彼に悪い気持ちはないのだろうか?

美咲はそんなことを考えると、返事に詰まってしまった。

「あの…」

美咲が言葉を探していると、

「すみません、無理なことを言って」

彼が謝り始めた。

「僕、ちょっと失礼しました。ごめんなさい」

彼はそう言ってから、

「では、失礼します」

と言って本屋から出て行ってしまった。

美咲はその後姿を見送った。

そして、

「待って…」

と小さく呟いた。

でももう遅かった。彼は雨の中に消えてしまった。

美咲は自分の手元にある本を見つめた。

それは彼が買ってくれた本だった。レシートには彼の名前が書かれていた。〇〇さん、という名前だった。

美咲はその名前を心に刻んだ。そして、

「また会えますように」

と願った。

数日後。

美咲は仕事の帰りに、また本屋に寄った。

彼と出会ったあの日から、美咲は彼のことを忘れられなかった。

彼が買ってくれた本も何度も読み返した。その本には彼の名前と電話番号が書かれていた。

でも、美咲はその番号に電話する勇気がなかった。

もし、彼が忙しかったり、興味がなかったりしたらどうしよう?

美咲はそんなことを考えると、躊躇してしまった。

だから、美咲は本屋に行ってみることにした。もしかしたら、彼もまた来ているかもしれないと思ったからだ。

でも、本屋に着いても、彼の姿は見当たらなかった。

美咲は残念そうに店内を見回した。そして、

「あの…」

と声を掛けられた。

美咲は振り返ってみると、

そこには彼が立っていた。

美咲は彼を見て、思わず目を見開いた。

彼もまた美咲を見て、驚いたように笑った。

「こんばんは。また会えましたね」

彼はそう言って、美咲に近づいてきた。

「あの…」

美咲は何と言おうかと迷った。

彼に電話しなかったことを謝るべきだろうか?

でも、それは変だろうか?

美咲はそんなことを考えていると、

「僕、あの日からずっとあなたのことを考えていました」

彼が真剣な表情で言った。

「あなたにもう一度会いたくて、何度もこの本屋に来ました。でも、あなたが来る気配がなくて…」

彼はそこで言葉を切った。

そして、

「僕の電話番号、見ましたか?」

と尋ねた。

美咲は彼の電話番号を見たことを認めた。

「はい…見ました」

美咲は小さな声で答えた。

「でも、電話するのが怖くて…」

美咲はそう言って、恥ずかしそうに顔を伏せた。

彼は美咲の顔をそっと持ち上げて、目を見つめた。

「怖くないですよ。僕はあなたに興味があります。あなたともっと話したいです。あなたと仲良くなりたいです」

彼はそう言って、優しく微笑んだ。

「だから、僕に電話してください。今すぐでもいいですよ」

彼はそう言って、自分の携帯電話を取り出した。

そして、

「僕の番号、登録しましたか?」

と尋ねた。

美咲は彼の番号を登録していなかったことを告げた。

「いえ…登録していませんでした」

美咲は正直に答えた。

「ごめんなさい、私、あまり電話が得意じゃなくて…」

美咲はそう言って、申し訳なさそうに頭を下げた。

彼は美咲の頭をやさしく撫でて、慰めるように言った。

「大丈夫ですよ。僕も電話は苦手です。でも、あなたと話したいから、電話する勇気を出したんです」

彼はそう言って、自分の携帯電話を美咲に差し出した。

そして、

「じゃあ、今から登録しましょうか?」

と提案した。

美咲は彼の携帯電話を受け取った。

「えっ、でも…」

美咲は戸惑って言った。

「何でもないです。僕の名前は、佐藤智也です。あなたの名前は、美咲さんでしたよね?」

彼はそう言って、自分の名前と美咲の名前を入力した。

そして、

「これで登録完了です。あなたに電話してもいいですか?」

と聞いた。

美咲は彼の瞳に見つめられて、ドキドキした。

「はい…いいですよ」

美咲はそう言って、彼の携帯電話を返した。

彼は美咲に笑顔を見せて、携帯電話を耳に当てた。

「もしもし、美咲さん?」

彼の声が美咲の耳に響いた。

「もしもし、智也さん?」

美咲も声を返した。

二人は互いの声に聞き入りながら、目を合わせた。

そのまましばらく会話を楽しんだ。

「ねえ、美咲さん。僕と一緒にデートしてくれませんか?」

彼はそう言って、突然告白した。

「えっ…デートですか?」

美咲は驚いて言った。

「そうです。あなたと一緒に過ごしたいです。あなたのことが好きです」

彼はそう言って、真剣な表情で美咲を見つめた。

美咲は彼の気持ちに感動した。

「私も…智也さんのことが好きです」

美咲はそう言って、恥ずかしそうに微笑んだ。

彼は喜んで、

「本当ですか?じゃあ、今度の土曜日に映画でも観ませんか?」

と誘った。

「はい。喜んで行きます」

美咲はそう言って、承諾した。

二人は約束を交わして、

「ではまた電話しますね。楽しみにしています」

と別れを告げた。






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