辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄

伯爵が来る……

私はアルベルト伯爵と結婚することにした。

それは愛や敬意や忠誠の結果ではなかった。

それは絶望と無関心と逃避の結果だった。

私は自分の人生に見切りをつけた。

私は自分の人生に興味がなくなった。

私は自分の人生に逃げ出した。

私はアルベルト伯爵からの手紙に返事をしなかった。

代わりに、私は彼が来る日まで準備を整えることにした。

数日後、彼が来る日がやってきた。

彼が来る前に、父親が私の部屋に入ってきた。父親の顔色は悪かった。父親の声音も低かった。

「レイナ、今日アルベルト伯爵が来るそうだな」

「ええ」

「本当に彼と結婚するつもりか？」

「ええ」

「どうしてだ？」

「……」

「レイナ、お前が王太子殿下から婚約を破棄されてから、お前は何も話さなくなった。お前は何も感じなくなった。お前は何も望まなくなった。お前は何も生きる気がなくなった」

「……」

「レイナ、お前は私の一人娘だ。私はお前に幸せになってほしい。私はお前に笑顔になってほしい。私はお前に夢を持ってほしい」

「……」

「レイナ、アルベルト伯爵と結婚しても、お前は幸せになれると思うか？」

「……」

「レイナ、答えてくれ」

私は父親の言葉に答えられなかった。

私は自分が幸せになれると思っていなかった。

私は自分が笑顔になれると思っていなかった。

私は自分が夢を持てると思っていなかった。

私はただ、自分が生きていることを忘れたかった。

父親は私の沈黙に悲しみと怒りと失望を感じたようだった。

父親は私の肩を掴んで揺さぶった。

「レイナ、目を覚ませ！お前はまだ若いんだ！お前はまだこれから人生があるんだ！お前はまだ愛する人や愛される人が見つかるかもしれないんだ！」

「……」

「レイナ、アルベルト伯爵と結婚したら、お前は二度と戻ってこられないぞ！彼の領地は地獄だぞ！彼の人柄は鬼だぞ！彼の愛情は偽物だぞ！」

「……」

「レイナ、考え直してくれ！アルベルト伯爵と結婚するのをやめてくれ！私と一緒に王都に残ってくれ！私がお前を守ってやる！私がお前を幸せにしてやる！」

「……」

「レイナ、頼む……」

私は父親の言葉に答えられなかった。

私は自分が戻ってこられると思っていなかった。

私は自分が地獄から逃げられると思っていなかった。

私は自分が地獄から逃げられると思っていなかった。

私は自分が鬼から逃げられると思っていなかった。

私は自分が偽物から逃げられると思っていなかった。

私はただ、自分が生きていることを忘れたかった。

父親は私の沈黙に絶望したようだった。

父親は私の肩を離して、深く息をついた。

「わかった。お前の気持ちはもう変わらないんだな」

「……」

「それならば、私ももう何も言えない。お前の決めたことだ。お前の人生だ」

「……」

「レイナ、これでお別れだ。アルベルト伯爵が来るまでに、お前の荷物をまとめておけ。私はお前を見送りに行く」

「……」

「レイナ、さようなら。お前に幸せがあることを祈っている」

父親はそう言って、私の部屋を出て行った。

私は父親の言葉に答えられなかった。

私は自分が幸せになれると祈っていなかった。

私は自分がさようならと言えると思っていなかった。

私はただ、自分が生きていることを忘れたかった。





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