わたしはいない

白川 朔

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このままずっと

26.

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 ゆっくりとブレーキを踏み、速度を落として家の前に車をつける。
「お疲れ様でした。」
僕の声に反応を見せない白井さんは、何かを考え込んでいるようだった。
「春樹、今日この後時間あるか。」
腕を組んだまま、バックミラー越しに目を合わせてくる。時間はあるが、家にめぐりちゃんを待たせているのでやんわりと断る。白井さんが飲むと話が長くなるのは目に見えている。最近は特に苛立ちが目立っているので一緒に行けばめぐりちゃんの文句を聞くことになりそうだ。
「めぐりの話だ。長く付き合わせたりしない。」
への字に曲がった、重い口を動かす。
「うちに寄ってくれ。」
それだけ言うと車のドアを自分で開け、さっさと家の中に入ってしまった。断ることも出来ず、仕方なく車を車庫に止めることにした。
 白井さんの家に入ったことは無かった、迎えに来たとしても玄関までしか通されることが無かった。この家の玄関の扉はこんなのも重かっただろうか。ずっしりと重みを感じる扉をゆっくりと引いた。
「お邪魔します。」
靴を脱ぎ家の中に上り込む。家の中は妙に片付いていて、綺麗なのに点いている明かりは少ない。
「こっちだ。」
声のする方へ向かうとそこは8畳ほどの畳が敷かれた客間だった。家の中には今、誰もいないんだろうか。すでに座っている白井さんは、何も置かれていない机の上を見つめている。その机を挟むようにして僕も座る。
「なあ、お前は本当にめぐりの居場所を知らないのか。」
座れば、間を持たせずに聞いてきた。
「知りませんよ。」
何か気付かれただろうか、余計なことは言わないように発言には細心の注意を払っていたはずだ。
「でも、お前はめぐりのことを気にしている様子もないだろう。」
「僕が心配して仕事が手につかなかったら白井さんは仕事にならないじゃないですか」
出来るだけめぐりちゃんの話を口にしないようにしていたことが裏目に出てしまった。
「ほんとは知ってるんじゃないのか。」
鋭い目つきでこちらを見つめてくる。喉が乾いても、お茶は出されていない。蛇に睨まれた蛙とはこう言う気分だろうか。嫌な汗が首筋を流れた。
「脅しても、何も出ませんよ。」
やっとのことで出てきた言葉も、しらを切るしかできず、言葉が詰まってしまう。
「まあ構わん、警察が動いてるからそう時間はかからないさ。」
冷汗が出てきてしまった。暖かさの消えたこの家の中では、かいた汗が全部冷えてしまって、寒く感じた。
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