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あなたといっしょに
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山口が私の胸ぐらを掴んだ。普段なら、取り乱すことなんかないだろうに、今日はやけに苛立っている。娘が行方不明になっている上で仕事を普段通りしていることに腹を立てているようだ。だが、めぐりが事件に巻き込まれたなら、私へ何かの要求があるだろうと思う。手紙もめぐりが書いたもので間違いないのだから、泊まっている相手には口止めして泊まり続けているに違いない。春樹も大して取り乱していないところを見ると、現状事件性は低いとも感じる。それでも山口は、冷たい目で私のことを見ている。
私が何か悪いことをしたのか。娘のことを心配して警察に届け出までしているんだ。めぐりはどれほど多くの人に迷惑をかけているか分かっているのだろうか。和恵も意地を張ることはあったが、自分の立場をわきまえていた。私は山口が聞くことに淡々と答えていった。このまますぐに見つかるだろう。警察が動くなら私は待っていればいい。
署からの帰り道、私は春樹の運転する車に乗っていた。外は暑いが、車の中はクーラーの冷たい風に満たされていた。
「白井さん、あれで良かったんですか。」
あれとは、山口との事だろうか、それとも捜索願についてだろうか。どちらにせよこれで良かったと思う。めぐりには悪いが家出はもう終わりだ。
「ああ。」
「そうですか。」
それだけ言って車は角を曲がり、住宅街へ入って行く。めぐりは反抗期なんだ。今まではかなり自由にさせていたから、帰って来ればもう少し厳しくした方がいいだろう。これまでも何度か家の誰にも言わずに外泊することがあったが目を瞑ってきた。中学生はそんなものだと春樹も言っていたからだ。
「白井さんは家出だと思いますか。」
「めぐりはどうせ考えなしにフラフラしているだけだろ。」
「家にいるのが嫌だったんですかね。」
こんなにも、この住宅街は入り組んでいただろうか。随分と長い間蛇行した道を進んでいる。
「春樹は私が間違っていると思うのか。」
「いいえ」
運転している春樹の顔は見えないため、はっきりとした感情は読み取れないが、そうは思っていないということだけは分かる。
もう、春樹も私も話そうとはしなかった。触り心地の悪い空気が流れ込んできた。春樹はいつもめぐりに甘い。直接会うことはないが、私がめぐりに対して文句を言えば、大抵はめぐりの肩を持つ。もともと、私のことは嫌いなのだ。春樹は和恵のことをとても慕っていたから、和恵と結婚し、そのまま見殺しにしたと思っているのだろう。車の窓が開いていることに気づき、閉めるとまたすぐに車内は冷たい空気が満たした。
私が何か悪いことをしたのか。娘のことを心配して警察に届け出までしているんだ。めぐりはどれほど多くの人に迷惑をかけているか分かっているのだろうか。和恵も意地を張ることはあったが、自分の立場をわきまえていた。私は山口が聞くことに淡々と答えていった。このまますぐに見つかるだろう。警察が動くなら私は待っていればいい。
署からの帰り道、私は春樹の運転する車に乗っていた。外は暑いが、車の中はクーラーの冷たい風に満たされていた。
「白井さん、あれで良かったんですか。」
あれとは、山口との事だろうか、それとも捜索願についてだろうか。どちらにせよこれで良かったと思う。めぐりには悪いが家出はもう終わりだ。
「ああ。」
「そうですか。」
それだけ言って車は角を曲がり、住宅街へ入って行く。めぐりは反抗期なんだ。今まではかなり自由にさせていたから、帰って来ればもう少し厳しくした方がいいだろう。これまでも何度か家の誰にも言わずに外泊することがあったが目を瞑ってきた。中学生はそんなものだと春樹も言っていたからだ。
「白井さんは家出だと思いますか。」
「めぐりはどうせ考えなしにフラフラしているだけだろ。」
「家にいるのが嫌だったんですかね。」
こんなにも、この住宅街は入り組んでいただろうか。随分と長い間蛇行した道を進んでいる。
「春樹は私が間違っていると思うのか。」
「いいえ」
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もう、春樹も私も話そうとはしなかった。触り心地の悪い空気が流れ込んできた。春樹はいつもめぐりに甘い。直接会うことはないが、私がめぐりに対して文句を言えば、大抵はめぐりの肩を持つ。もともと、私のことは嫌いなのだ。春樹は和恵のことをとても慕っていたから、和恵と結婚し、そのまま見殺しにしたと思っているのだろう。車の窓が開いていることに気づき、閉めるとまたすぐに車内は冷たい空気が満たした。
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