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浮かび上がる真実
曇天の下で
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「...ご、ごめん......泣いちゃって」
「い、いえ...」
結局沈黙の間、何もしてあげることが出来なかった
こういうところで出来る男は違うんだろうなぁ、と痛感せざるを得ない。
「アタシは...あ、あの子と友達になりたかったけど...奈々はそう思ってないんだろうなぁ...」
苦笑して言うがとても悲しそうに見えた。
それだけではない、
自殺というとても重苦しい判断をする人間と直に接していながら
心情を感知出来なかったことに罪の意識を感じているのだ。
「そ、そんなことないですよっ」
咄嗟にフォローしようと声が出てしまった
パッと振り返った彼女の顔にはまだ涙が見える。
気の利いた言葉なんて不器用な生き方としてきた自分には思い付かない......
でも...
事実を言うことなら出来る。
「俺に彼女が笑いかけてくれたこともあったんですから!」
胸の内に閉まっておこうと思っていた思い出を
もうオープンしてしまった。
「彼女にも笑顔があるということは、えっと...彼女にも感情があるってことです!」
上手いこと言おうとしてこんがらがり始めてしまった
「だからそのぉ...彼女にも気持ちがあるということは...」
人前で偉そうに何か言うだけで恥ずかしいのに、先輩の前でなんという醜態...!
「つ、つまり先輩の思いは届いてると思いますッ!」
最後は大声で締めれば良いと思っている男だと思われるぅ...!
「...ふっ」
ああ、笑われている...
尚更先輩の顔が見れないよ......
「んふふ...」
あれ...?
ちょっと笑うの長くない?
見てみると、目に涙は残っているが愉快そうに笑ってくれている。
「ご、ごめん。一生懸命慰めようとしてくれたんだよね」
どうやら上手いこと行ったらしくて良かった...
心の底からの安堵だ。
「ありがとう...ふぅ、うん。泣いてちゃ駄目だよね...」
そう言うと席を立った。
おかえりかな、とも思ったが救急箱に慣れた手つきで医療品を詰め始めた。
早速今日ひと悶着あったというのか
「別にアタシも良く出来た人間じゃないの、実は弟のことを思い出しちゃったんだ」
弟...
何かあったのだろうが、一人っ子の自分には想像がとんとつかない。
「アタシと3歳差だったんだけどね...その弟はもう7歳の時に死んじゃったの」
え...
そんな声が漏れそうだった。
あまりにも若すぎる死に、現実味が帯びなかった
「ガンだったかなぁ...病名は...思い出したくなくて忘れちゃった」
また泣き声にはならないか心配であったが
弟さんのことは慣れているようだった。
「だからずっと元気に接してきてた人間が急にいなくなる感覚っていうのが蘇ったんだよね...」
家族を失う悲しみを彼女は10歳で知ってしまっているのか...
「本当にびっくりしたよ、全然言葉も話せない頃から知ってて
やっと5歳になってそこそこ会話が出来るようになった。
それで6歳の頃なんて小生意気だったくらいなのに...」
彼女の手が止まる
「もうその翌年にはずっと入院、元気に駆け回ったり話せなくなったりしてからは
あっという間に...雄馬は死んだの...」
弟の名を呼んで彼女はまた空を見た。
「あの時も確かこんな空だった」
睨んでいるようにも見える表情を
俺はもう長く直視出来なかった。
溜息が聞こえた
「...まあ、ガンともなると姉であるアタシも他人事じゃない。
だから...そのリスクを怖がって泣いてるだけかもしれない...」
そんなことは...
ない、という気力は萎んだ。
家族と自分を思う気持ちだけは、他人の俺が口を挟めることではない...そのはずだ
「白々しい姿見せちゃったね...」
そう残して彼女は箱を持って立ち去ろうとする。
口を挟むべきではない
そう思いつつも
「待ってください」
やっぱり声もかけずに放っては置けなかった
「先輩を...自分は心から優しい人だと思ってます」
もう、思うことを言おう。
慰めとかじゃなくて...あの時のように
「それに涙の理由なんてどうでも良いじゃないですか、気に病まないで下さい」
ぶっきらぼうな言い方になってしまった
でも、構わない。
これが天邪鬼なりの激励だ。
先輩は固まってしまった
が、
すぐに笑ってくれた。
「アタシの名前は倉田優紀。また会ったら話そう」
そう彼女は手を振って去っていった。
少しは力になれただろうか...
また会う時が楽しみだ
するとまた保健室のドアが開く音がした
今度会う約束かも、と嬉々として先輩かと顔を上げたら
「何やってんの?」
先生だった
「また遅刻になるよ?」
「あっ!!」
急いで保健室を転びそうになりながら出て行った
締まらない形での退室になった。
「い、いえ...」
結局沈黙の間、何もしてあげることが出来なかった
こういうところで出来る男は違うんだろうなぁ、と痛感せざるを得ない。
「アタシは...あ、あの子と友達になりたかったけど...奈々はそう思ってないんだろうなぁ...」
苦笑して言うがとても悲しそうに見えた。
それだけではない、
自殺というとても重苦しい判断をする人間と直に接していながら
心情を感知出来なかったことに罪の意識を感じているのだ。
「そ、そんなことないですよっ」
咄嗟にフォローしようと声が出てしまった
パッと振り返った彼女の顔にはまだ涙が見える。
気の利いた言葉なんて不器用な生き方としてきた自分には思い付かない......
でも...
事実を言うことなら出来る。
「俺に彼女が笑いかけてくれたこともあったんですから!」
胸の内に閉まっておこうと思っていた思い出を
もうオープンしてしまった。
「彼女にも笑顔があるということは、えっと...彼女にも感情があるってことです!」
上手いこと言おうとしてこんがらがり始めてしまった
「だからそのぉ...彼女にも気持ちがあるということは...」
人前で偉そうに何か言うだけで恥ずかしいのに、先輩の前でなんという醜態...!
「つ、つまり先輩の思いは届いてると思いますッ!」
最後は大声で締めれば良いと思っている男だと思われるぅ...!
「...ふっ」
ああ、笑われている...
尚更先輩の顔が見れないよ......
「んふふ...」
あれ...?
ちょっと笑うの長くない?
見てみると、目に涙は残っているが愉快そうに笑ってくれている。
「ご、ごめん。一生懸命慰めようとしてくれたんだよね」
どうやら上手いこと行ったらしくて良かった...
心の底からの安堵だ。
「ありがとう...ふぅ、うん。泣いてちゃ駄目だよね...」
そう言うと席を立った。
おかえりかな、とも思ったが救急箱に慣れた手つきで医療品を詰め始めた。
早速今日ひと悶着あったというのか
「別にアタシも良く出来た人間じゃないの、実は弟のことを思い出しちゃったんだ」
弟...
何かあったのだろうが、一人っ子の自分には想像がとんとつかない。
「アタシと3歳差だったんだけどね...その弟はもう7歳の時に死んじゃったの」
え...
そんな声が漏れそうだった。
あまりにも若すぎる死に、現実味が帯びなかった
「ガンだったかなぁ...病名は...思い出したくなくて忘れちゃった」
また泣き声にはならないか心配であったが
弟さんのことは慣れているようだった。
「だからずっと元気に接してきてた人間が急にいなくなる感覚っていうのが蘇ったんだよね...」
家族を失う悲しみを彼女は10歳で知ってしまっているのか...
「本当にびっくりしたよ、全然言葉も話せない頃から知ってて
やっと5歳になってそこそこ会話が出来るようになった。
それで6歳の頃なんて小生意気だったくらいなのに...」
彼女の手が止まる
「もうその翌年にはずっと入院、元気に駆け回ったり話せなくなったりしてからは
あっという間に...雄馬は死んだの...」
弟の名を呼んで彼女はまた空を見た。
「あの時も確かこんな空だった」
睨んでいるようにも見える表情を
俺はもう長く直視出来なかった。
溜息が聞こえた
「...まあ、ガンともなると姉であるアタシも他人事じゃない。
だから...そのリスクを怖がって泣いてるだけかもしれない...」
そんなことは...
ない、という気力は萎んだ。
家族と自分を思う気持ちだけは、他人の俺が口を挟めることではない...そのはずだ
「白々しい姿見せちゃったね...」
そう残して彼女は箱を持って立ち去ろうとする。
口を挟むべきではない
そう思いつつも
「待ってください」
やっぱり声もかけずに放っては置けなかった
「先輩を...自分は心から優しい人だと思ってます」
もう、思うことを言おう。
慰めとかじゃなくて...あの時のように
「それに涙の理由なんてどうでも良いじゃないですか、気に病まないで下さい」
ぶっきらぼうな言い方になってしまった
でも、構わない。
これが天邪鬼なりの激励だ。
先輩は固まってしまった
が、
すぐに笑ってくれた。
「アタシの名前は倉田優紀。また会ったら話そう」
そう彼女は手を振って去っていった。
少しは力になれただろうか...
また会う時が楽しみだ
するとまた保健室のドアが開く音がした
今度会う約束かも、と嬉々として先輩かと顔を上げたら
「何やってんの?」
先生だった
「また遅刻になるよ?」
「あっ!!」
急いで保健室を転びそうになりながら出て行った
締まらない形での退室になった。
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