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第182話 強襲(2)

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剣聖セシルの暗黒魔法によって、
精霊の長老オリジンは消滅してしまった。
魔界の槍の威力は凄まじく、
勇者カノンは咄嗟に急所を避けたが、
それでも深傷を負っていた。


「やはり素晴らしい……
 精霊王を倒すと、これほどの力が……」


オリジンの経験値を獲得して、
セシルのスキルレベルが上昇している。
それだけでなく新たに地属性魔法を習得して、
身体強化を暗黒、地属性と重ね合わせた。


「まさか魔王に至っていないのに
 これ程……だと?」


目の前のセシルが放つ魔力を体感して、
カノンは過去の魔王との戦いを思い出す。
以前に体感したのと似た魔力を感じていた。


「やはり……
 私こそ選ばれた存在……」


セシルの周りに二種類の魔力が重なり、
摩擦するように空気が弾け飛ぶ。
その摩擦音を聞くと、まるで世界がセシルの魔力に悲鳴を上げているように感じられた。


そして、ゲートが開き魔族が続々と侵入する。
魔界の魔物やそれに跨る魔族達が現れた。
その様子を見たセシルは、笑みを浮かべていたが、冷静な表情へ変わる。


「勇者を始末して心臓が欲しかったけれど、
 ヤツが来る前に姿を消した方が良い」


次々に現れる魔族の中に、セシルの言う人物はまだ現れていない。
何か思惑があるような素振りを見せながら、
セシルは傷だらけの勇者を前にして、
その場を立ち去ろうと背中を向ける。


「き、貴様……」


「命拾いしたわね……
 勇者……」


カノンはその場に立ち尽くすことしか出来ず、
セシルが何を企むのか全く分からないでいた。


「せっかく力を手に入れたし、
 今は実力を隠したいの……
 ヤツを殺し、力を手に入れるまでは……」


邪悪な笑みを浮かべながら、
セシルは精霊の森へ姿を消す。
そしてカノン一人がミゲルの町に残った。



そして続々と魔族達が現れる中、
以前に対峙した一人の戦士が現れる……



「お前は……」



「久しぶりだな……勇者」



それは転生者であり、転移魔法使いのシンだ。
以前によりも更に魔族の容姿に近く、
瞳も赤く変化している。



「お前が新たな魔界の支配者なのか?」



「そうだ……
 たった今制圧してきたところだ」



カノンの言葉に対して、
シンは不敵な笑みを浮かべながら返事をした。
その話が嘘ではなく真実だと、シンの魔力が物語っている。



「ここで魔王になれるのなら話は早いが、
 そう上手くもいかないようだな」


「……」



圧倒的な魔力を放ち、シンは全く隙を見せない。
カノンは攻撃しようにも出来ないでいた。



「だが……
 この魔剣でお前の力を吸収するのも悪くない」



シンが言葉を発すると、
強力な身体強化を施し戦闘体制に入る。

咄嗟にカノンは聖剣技を繰り出そうとするが、
背後に転移されてしまい、
その身体に魔の手が伸びる。



「俺の糧になれ」



まさに一瞬の出来事だった。
カノンの首を掴み、魔剣で心臓を刺そうと構える。

その時、カノンは悔しさに顔を歪めつつも魔道具を使用した。


「情けないが仕方ない……
 まだ死ぬわけにはいかないからな」


その言葉を発した瞬間、カノンの身体は光に変化して上空へ飛び上がる。
そしてルミナスの方向へ移動した。


「ワープ出来る魔導具か……」


勇者にのみ使うのを許された魔導具によって戦闘を離脱した。
シンは光の方向を見つめていると、
魔族達が魔界から移動を完了する。


「これで戦力も揃ったな……」


ゲートからオーク、魔族、ワイバーンの部隊が集まっていた。
そして総勢1万にも及ぶ部隊をシンの転移魔法が包み込む。


「さぁ……
 これからルミナスを堕とすぞ」


その声と共にミゲルから魔族達は忽然と姿を消した……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




ルミナス城の地下、聖剣の神殿で儀式が行われた。
クリスが初代の元に旅立ったのを見て、
マリアは試練の成功を祈り聖剣を見つめていた……


「マリア……」


愛する者と離れ離れになる辛さに耐えて、
ユーリはマリアの手を握りしめる。
お互いに契約を結んでいるわけではないが、
二人はそれぞれの心を理解し合うことが出来ていた。


「ユーリ、ありがとう……」


ユーリは満面の笑みを向けて、
マリアに言葉を贈る。


「クリスが帰ってきたら、
 またレガードの屋敷で一緒に暮らそうよ!
 それと落ち着いたら新婚旅行も行きたいね」


「し、しんこん!!?」


テティスやミストといった街に出て、
マリアの価値観は大きく変化している。
きっと新婚旅行で国外に旅立つと、
また更に世界が広がるのではないかと、
心を躍らせていた。


「そう……だよね……
 何だか楽しみになってきたよ……」


クレアは手を取り合う二人を見て、
何とか願いを叶えてあげたいと思う。
そしてそんな二人を優しく抱きしめた。


「あの……殿下がそう言ってますので、
 陛下……
 どうかマリア殿下の願いを……」


「…………分かった。
 マリアの好きにしなさい……」


一緒に同行していた陛下に、マリア同居の確認をすると、渋々と言った表情で陛下は許可をする。
クリスとの婚約は認めていても、
娘と離れるのは辛い様子だった。


「お父様……ありがとう」


マリアは輝き溢れる笑顔を父親に向ける。
そんな綺麗な笑顔を見ると、子供の頃の表情を思い出してしまい、父親は瞳が潤んでしまった。


「お父様……泣かないでくださいよ」


「う、うるさい……
 目に砂埃が入っただけだ……」


シャルロットも微笑みながら、
父親に声をかける。
この時だけは王族であることを忘れて、
家族の会話を楽しんでいた……


そして、賢者はルミナスに張り巡らせた結界に敵が侵入したのを察知する。
それが何を意味するのかを考えると、
仲間達が心配になり胸を痛めるのであった……
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みんなの感想(13件)

A・l・m
2022.11.20 A・l・m

ん? 書籍化か何か?
ごっそり消えてる?

ゆう
2022.11.20 ゆう

感想ありがとうございます!
現在改稿版で再度ホットランキングに挑戦しております。
※そのためこちらでは最新話以外は非公開にしております。

そして改稿版が再度ホットランキングに載れたのも、
ここまでも応援してくださった、
読者の皆様のおかげですm(_ _)m

まだ書籍化は諦めておりませんので、
今後とも宜しくお願い致します。

解除
フレイ
2022.09.21 フレイ

ふざけるなよ!こんな嫁さん二人ほしい!

ゆう
2022.09.22 ゆう

感想ありがとうございます(T ^ T)
そして作品をお読み頂き感謝ですm(_ _)m
3人の幸せな未来を書けるよう頑張りますので、今後とも宜しくお願い致します!

解除
ゆっきー
2022.09.20 ゆっきー

おいおいお父さんが見放さないタイプの物語初めて見たぞ!今までは読んだやつは無能スキルかもって思ったらすぐ追放だったのにこれもありやな全員が応援

ゆう
2022.09.20 ゆう

感想ありがとうございます(T ^ T)
執筆のモチベーションめちゃくちゃ上がりました!
今後も頑張りますので宜しくお願いしますm(_ _)m

解除

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