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第154話 精霊

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賢者から精霊術師の噂を聞き、その人物の目的はシルフィの可能性が高いと気付いた。
そして今は、城の一室に来ており、
賢者と今後について話している。


「精霊魔法は特に威力が強いが、
 属性を融合すると更に強くなるんだ」


「精霊魔法同士の融合……」


複数の精霊を使役出来ていれば、
その分だけ精霊魔法を融合出来る。
精霊術師は、その使役する精霊と属性の数によって、強さが決まっていくのだ。


「シャルロットは、風魔法だけが精霊魔法。
 火魔法はオリジナルなんだ」


相手の精霊術師が複数の精霊を使役していると、強さはシャルロット以上という事になる。


「私の予測通りならシルフィが狙われる……
 絶対に守り切るぞ!」


俺は賢者の指示に力強く頷いて、
一旦は、この作戦会議は終わりかと思われた。


「し、失礼します!!!」


突如、王国騎士団の兵士が、俺達のいる部屋に入ってきた。
その表情は余裕がなさそうに感じられる。


「会議中、申し訳ありません!
 緊急事態ですので報告します!」


「な、なんだ!言ってみろ!」


騎士団の兵士は、顔が青ざめた様子で口を開いていく。


「リブル山に獣人の部隊5000人が集結中!
 このままだと一気に王都に攻めてきます」


「なに!早すぎる!!」


イグニスから多くの部隊を率いるのであれば、物資の補給含めて期間は必要だ。
想定外の移動速度に賢者は動揺している。


「敵将に獣王らしき人物がいると!」


「何だって!!」


俺は、つい声を荒げて反応してしまった。
この瞬間、一番会いたくない人物だからだ。
出来れば剣を交えずに、精霊術師を討伐してガルムを救いたいと願っていた……



「くそ!後手に回ってしまう!」



「賢者!!」



「今、城内と王都の警備レベルを、
 下げるわけにはいかない……
 クリス、済まないが私と一緒に行くぞ!」


その声に無言で頷くと、
俺と賢者は即座に出撃の準備を始めた。
そして賢者が方針を説明していく。


「よしここからは隠密行動で、
 ガルム救出に向かうぞ!
 幻惑魔法で獣人に変装して近付こう!」


こうなってしまう可能性は、覚悟していたがいざ現実になると辛いものがある。
変わってしまったガルムと対峙するのだ。


「よし、リブル山に急ぐぞ!」


そして急遽、俺と賢者はガルム救出のため、極秘任務に向かう。
リルムの悲しむ顔を思い出すと、
一刻も早くガルムを正気に戻そうと心に決めた……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「私のお母さん、凄いんだよ~~」


レガードの屋敷に新たな客が来ており、
流石のリーナも戸惑いを隠せない。
何故なら、その者は精霊王だからだ。
風の精霊王エアリアルは、娘の様子を見にくると、レガードの屋敷の居心地の良さに姿を表してしまった。


レガードの庭でシルフィは母の紹介をする。
娘の自慢に照れるエアリアルを、
シャルロットは微笑ましく見ていた。


「エアリーもここに住めば?」


シャルロットが冗談を言い出したが、リーナはその一言に振り回されている。
あれからシャルロットは、エアリアルとも仲が良くなりエアリーと呼ぶようになっていた。


「本当に皆さん優しい人ばかりで……」


「いつでも娘と一緒に遊びに来れば良いさ」


実質、家の主人であるクレアから許可が出て、この屋敷には王女だけでなく精霊王が定期的に遊びに来ることが決まった。


そして気付けば和気あいあいと戯れる中で、
この異質な状況に驚愕している人物がもう一人いる。


「あの……精霊と一緒にお茶できるなんて、
 思いもしなかったです……」


その人物は、ハイエルフのサラだ。
精霊を神格化するハイエルフにとって、
精霊王と同じ席でお茶をするのは、
恐れ多くも感動していた……


「まあ、ルミナスはエルフも多く住む。
 きっとサラも自由を謳歌できるよ」


「こんな日がくるなんて、
 思ってもいませんでした……」


隷属の首輪の取り外しに成功してから、
徐々に人格を取り戻し、ルミナスの生活を謳歌しようとしている。


そして各々が幸せを感じる最中、
マリアとユーリは、クリスの魔力から緊急事態を察知した。
二人とも異常を察知した瞬間、
アイコンタクトで意思の疎通をし合う。


「ユーリ!どうかしたのか?」


「あねご!何かが起きてクリスが移動した!
 女神も危険を知らせているよ!」


いよいよ敵が動き出し、
戦争が始まると理解したが、
その言葉を聞いたリルムは、
瞳から涙が溢れ出してしまう。


「皆様……楽しく暮らしているのに、
 私達のせいで……」


「心配するな……
 これでも私は国内最強の魔術師だ……
 お前の兄なんてすぐに助けてみせるさ」


クレアは、記憶の世界で一緒に戦った日々を思い出していた。
クレアの中でも、ガルム達との思い出は色褪せていない。


「クレア様……」


「私の家族は誰一人として死なせない!
 例えそれがエルフや獣人、精霊であってもな」


何気なく発した一言は、トラウマを抱える者達の心に響いてしまう。
マリアやユーリも、クレアのそんな一面が好きで堪らなかった。


「それにここには、
 私の他に国内屈指の実力者が沢山いる。
 何処よりも、ここが一番安全だ……」


「確かに、あねごだけでも凄いけど、
 見渡したら凄い戦力な気が……」


ユーリは、お茶会の面子が豪華だと気付き、
屋敷なら安心だと胸を撫で下ろした。


しかし、イグニスの惨状を知るリルムは、
不安を感じずにはいられない。
何しろ、ガルムを取り戻そうとした反対勢力は鎮圧され、イグニスの城下町は、悲惨な状況となっていたからだった……
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