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第151話 未来(4)

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四天王最強の存在と謳われた、
魔剣を持つ黒騎士を倒したが、
直後にシンが予想外の行動に出てしまう。
魔剣を奪い、黒騎士の心臓を突き刺した。
そして生命エネルギーを吸収したことで、
その姿は、大人へ変わる。


「黒騎士の傍にずっといたのも、
 この魔剣を手に入れるためだ」


シンの姿は、日本人のような容姿をしていたが、瞳は赤く輝き表情も美しくなっている。
シンの予想外の行動に、俺達は唖然と立ち尽くすことしか出来ない。


「何故だ!何故仲間を……」


「仲間?違うね……」


歪んだ表情へ変わり、シンは言葉を発する。
その真意を聞いた時、目の前の男は想像以上に危険な人物だと気付く。


「餌だよ……
 俺が力を付けるためのな」


不敵に笑うシンは、勇者を見つめながら言葉を発する。


「契約者の力が完全に戻り、
 残念だが勇者の魂も浄化されてしまった」


500年前に契約者の力を失い、
勇者の心臓を魔王軍は狙っていたが、
クリスが勇者の聖剣技を獲得したことで、
契約者の力を取り戻した。


そして、ふとシンを見ていると、
少しずつ目の輝きが収まり元の黒目に戻っていく。


「やはり、まだ喰い足りないようだな……
 俺はこれから魔族を喰らい、魔族に至る」


「そんなことをして何を!」


シンは魔剣を使い、魔族の心臓をエネルギーとして、身体に取り込むことで、魔族へ変化するのを狙っている。
そしてシンの目指す到達地点は、他の魔族と同じだった。


「俺が魔王になるんだよ……
 そのために回復魔法使いを必ず手にする」


シンの目的の一つは魔王に到達することで、
そのための通過点として黒騎士を利用したのだ。


「最悪は、お前を殺せば、
 その女は契約者の力を失う……」


シンは今まで見せたことのない歪んだ笑みでマリアを見ている。


「そうしたら俺がその女を喰ってやる!」


じっくりと見つめる瞳が、まるで獲物を狙う瞳のように感じられて、俺は即座にその間に入りマリアを守る。


「まあ今回は許してやろう……
 勇者が黒騎士を倒す算段だったが、
 お前達のおかげで上手くいったからな」


「シン!魔王になって何をするんだ?
 何を企んでいる?」


シンは、不敵な笑みを浮かべつつ、
俺に一言告げた。


「今、ここで全てを教えるわけないだろ
 お前達は知った時恐怖するだろうさ……」


詳しくは話さずにシンには野望があることだけが分かり、それは本人が話す通り恐ろしい内容だと推測する。


「また会おうじゃないか!
 せいぜい守るんだな、大切な仲間を」


そう言い残し、シンは脆くなっていた外壁に魔剣の一撃を放ち破壊した。
その穴から空へ駆け抜けていく。


「しまった!」


賢者は、シンをこの場で仕留めたいと考えたが、空中遺跡から逃げられてしまった。
恐らく賢者の結界の範囲を超えた瞬間に転移魔法で逃げるのだろう。


「くそ!とんでもない奴が生まれてしまった」


転移魔法と魔剣の組み合わせは、想像以上に驚異的だ。
今後のことも考えなければならないが、
ひとまずカノンを救出できた事は収穫だった。

「お前も、マリア同様浄化されたからな……
 これで晴れて自由になった訳だ」


カノンは長年狙われ続けてきたが、
聖剣の契約者の力に再度目覚めたことで、
既に心臓は浄化されている。


「お前達には、世話になったが、
 これで元通りという訳にはいかない
 女神を憎むのは変わらないからな」


カノンは今更全てを変えられないと言っているが、それでも俺達を見つめる視線に変化があったように思う。



「本当にアイツが認めた存在なのか、
 見極めてやる……
 それまでは殺しはしない」



カノンは、世界を崩壊させることが目的だったが、ひとまずはその破壊活動はしないと約束をした。
それも俺達が行動した結果なのだろう。


すると俺達が放った攻撃に耐えられなくなったのか、地震にも近い揺れが起きた。


「まずい!崩れるぞ」


賢者が発した言葉通り、徐々に揺れが激しくなると共に遺跡は崩れてく。
俺達は大急ぎで飛行船へと駆けて行った……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




俺達は飛行船に辿り着き、即座に空へ飛び立った。
途中で仲間達と合流してから、
そのままルミナスまで送り届けてもらう。


勇者については、シンを目の前にした瞬間、
更に力を付けなければならないと悟り、
旅に出てしまった。
世界を破壊しようと考えなくなったが、
まだ完全に仲間には戻れない。
勇者は、そう言っていた……



「クリス、お前のおかげで何とか、
 世界を守ることができたよ……」


「賢者……」



飛行船の上で賢者は、優しさに満ちた笑顔を見せながら、俺に声をかける。
世界を守りきって、マリアとユーリと幸せに暮らせると思うと、頑張って良かったと実感が湧いてきた……


「帰ったら、陛下に報告するけど、
 結婚を早めてもらうよう頼んでみては?
 シンの脅威もあるしな」


「そうですね!
 頼んでみようと思います……」


マリアとユーリは、俺が行動するのが、
よほど嬉しかったのか、
気付けば俺の両腕を掴んで離さない。


陛下といざ話すとなると緊張が押し寄せてくる。
それでも、帰ったら早く二人と一緒になることを認めてもらうよう、頑張ろうと心に誓ったのだった……
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