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第143話 風の精霊

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魔導飛行船は、船をベースにした甲板があり、後方には飛行エンジンや魔導発射口を積んでいる。
外部に漏らせない重要なパーツをミスト政府が管理して、飛行士に免許制で販売しているのだ。


そして俺達はジークの飛行船を見るために酒場の裏口を通過してきた。
ガレージのシャッターが開き、飛行船が露わになる。
しかし、ジークの機体は今にも壊れそうな雰囲気を醸し出していた。


「あの……クリス、女神が震えてるよ」


女神も墜落しそうな機体を見て動揺を隠せない。
見た瞬間に賢者もため息を吐いていたので、
交渉は中止になるかと思われた。


「おや?これは……」


機体を触りながら賢者がある事実に気付き、
ジークに問いかける。


「これは……中身だけ改造されている?」


「早速気付くとは恐れ入った!
 この機体はパーツを交換して強化している!」


外見には一切の費用をかけず、飛行勝負で勝った相手からパーツを奪い取り、ジークは愛機の強化をし続けたのだ。


「これは面白い!
 確かにこれならスピードを上げても耐えられる」


見かけが全てではないと言うが、
素人目には全く分からない。
酒場で絡んできたロニーの話を思い出すと、
この飛行船を使って空での戦いが出来るということになる。


「依頼内容は空中遺跡への送迎、
 更に獲得したアイテム、財宝の運搬だ」


「任せろ!
 依頼料は一般的な協会方式で良いか?」


「あぁ、それで良いよ」


協会方式とは、ぼったくりが横行しないように飛行船協会が間に入り、適正に分配をするやり方である。


「俺もお前らが精霊石を手に入れるのに賭けたいからな」


「ふふふ、信じてくれるなら、
 良い思いをさせてやるさ!」


どうやら俺たちが獲得する財宝が多ければ多いほどジークの利益が増えていくようだ。
そして、本契約を結び、無事に空のパートナーを見つけることに成功した。


「明日の朝に私達のメンバーを連れてくるよ!」


「おお!任せてくれよ!
 安心、安全の旅を約束するぜ!」


ドンと胸を叩き、ジークは自信満々に言い放ったが、
お世話になる飛行船の見た目と相反していて、少しだけ笑ってしまった。


そして待ち合わせ時刻を決めて、
明日、この場所に集合することになった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




カートさん達が手配してくれた宿屋に調査隊全員が集合した。
物資の補給という名目で買い物に行った母上とベルは、
食料の他にも珍しい魔法アイテムを買い込んでいた。


「よし、みんな集まったね!
 ここからはシャルロットも合流したから、
 情報を共有しようじゃないか」


「そうなんですけど、
 殿下!その隣にいるお嬢ちゃんは誰ですか?」


カートさんが、シャルロットの隣にいる緑髪の少女について問いかけた。
まるで人形のように肌が白く可愛らしい。


「実は数日前までミストの中枢に潜入調査していたの」


「シャルロット殿下が潜入調査ですか?」


カートだけではなく、居合わせる全員が驚愕している。
しかしシャルロットは、その疑問に冷静に答えた。


「私にしか出来ない依頼だったからね……
 その任務の中で助けた風の精霊シルフィよ」


初めて見る精霊を目に焼き付けようと、
皆が身を乗り出して近づくため、
シルフィは怖がってしまい、
シャルロットの後ろに隠れてしまった。


「可愛い~」


リリスがシルフィの元に近付き、
挨拶代わりに抱きしめる。
その無邪気な笑顔を見て、
リリスから全く害意がないと分かり、
シルフィは快く受け入れた。


「私、リリス!よろしくね~」


「シルフィです!宜しくお願いします!」


なんだか尊い光景だなと思っていると、
シャルロットも優しく微笑んで、
まるで自分の妹のように接している。
そんな姿を見て俺もマリアも驚いていた。
きっと助けた時に色々あったのかもしれない。


「ミストの中にテロリストがいて、
 シルフィを餌に風の精霊王を誘き寄せるつもりよ!」


「そうか……実力が衰えていなければ、
 ミストを壊滅するのは容易いということか」


賢者の言う危機に対して、
早くも解決策に辿り着いた者がいる。
それはクレアだ。


「その精霊王にシルフィを会わせれば良い!
 と言う事でしょうか?」


「クレア!その通りだよ!
 だが、肝心の精霊王の場所が分からないのだ」


「あの……お母さんの場所、知ってるよ」


賢者の疑問にシルフィが小さな声で答えた。
まさにその座標は俺達が向かおうとしている、
空中遺跡の場所と同じだった。


「偶然にも場所が一致した!
 シルフィを精霊王の元に連れて行くぞ!」


目的地は、ようやく空中遺跡になる。
テロリスト達の陰謀を食い止めるために、
精霊王までシルフィを送り届けることになった。
しかし、空の旅はそう簡単ではない。
待ち受けている者達の包囲網を潜り抜けて、
俺達は遺跡に向かって空を駆け抜けていく。
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