上 下
98 / 182

第98話 水の都

しおりを挟む
列車が都市に入ると近代的な景色に変わる。
建物はレンガで積み上げられており古風で伝統的な建築様式を感じた。
街の中にも水が広がっており船が走り回る。
まさにこれが水の都と呼ばれる所以なのだろう。


「凄い…」


クリス達は魔列車を降りるとその景色に再度心を奪われた。
水の色はエメラルドグリーンで宝石のように美しい。
そして綺麗な水面の上をテティスの住人は船で移動をしている。
見たことがない生活をする人々に惹かれてしまう。


「文化の違いかもしれないけど、
 価値観が変わるわよね」


見たことのない景色を見ると、
今までの固定観念が消え去ると言う。


「船は魔力で動いているようですね…」


するとクリス達の前に船が到着する。
魔力で動く無人の魔導船。
簡易的な船だが中央に配置される装置に魔力を送り動かす仕組みになっている。

そしてシャルロットが魔力を入れると、
船の周りに魔力が溢れ淡い光が包む。


「お、お姉ちゃん、動き出した!」


マリアが目をキラキラと輝かせながら喜ぶ。
子供のように喜ぶマリアがあまりに可愛くてクリスは見惚れてしまう。


「クリス?」


「あ、ごめん
 可愛すぎて見惚れてて…」


クリスの不意打ちにマリアは顔を赤くしてしまう。
真っ赤になったマリアを見るとクリスも恥ずかしくなってしまい、みるみるうちに顔を赤くする。
想いを伝え合い結ばれてはいるが、
奥手の二人にはまだ賢者の力が必要だ。


「お兄様…
 目の前でイチャつかないでください…
 アリス、発狂しそうです…」


「わ、分かったよ~」


そして魔導船はレンガ調の橋の下を進む。
周りの景色を見ながらゆっくりと進む時間に、クリス達は心が躍ると共に癒されていく。


「さて、教会本部が見えてきたわよ」


「し、城?」


クリス達は女神教の教会本部に辿り着いた。
その外観は教会本部というよりも城に近い。
煌びやかな装飾が施されており宗教団体の建物ではなく、むしろ王族の建物に感じてしまう。


「本部がこれだけデカいとなると、
 強力な団体に違いないわね」


シャルロットに同意せざるを得ない。
目の前に広がる施設を建設するには相応の財力が無ければ実現出来ない。
ルミナス城の敷地よりも広く施設も大きい。
クリス達はその様子に圧倒されていた。


「あの、クリス…」


ふと、少し不安を感じたマリアは、
クリスの手を握り始めた。


「ちょっと怖い?」


マリアは無言で頷き、クリスの隣を歩く。
これは守ってあげなければならない、
クリスは心の中で覚悟を決めてマリアの手を握りしめた。


「お兄様、アリスも…」


羨ましそうな顔で見つめるアリス。
そんな様子を見て断るのも可哀想と感じてしまい今日のところは許可する事にした。


「ほら、アリス」


もう片方の空いた手を差し出した。
するとアリスは、まさか手を繋げると思っていなかったようで鼻息を荒くして飛び込んできた。


「アンタ達…
 仲良いのは良いことだけど、
 奥進んだら離してよね…」


シャルロットはジト目でクリスを見ている。
そしてクリス達は魔導船を降りて、
女神教本部に足を踏み入れるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


賢者を口論で言い負かせる者は少ない。
王からも難なく魔列車の使用を許可させた。
勿論エルフ救出という名目で旅立つ事になっている。
それも賢者にとっては朝飯前だった。


「クレア、俺はどうしても必要なのか?」


魔列車は発車しており全員は客席に座っているが、カートはまだ家に帰ろうと粘る。


「いい加減しつこいぞ、カート」


クレアはジト目でカートを見ている。
これで何回目のやり取りか分からない。
それだけに愛する嫁、娘と離れるのは辛いのだ。


「嫌だもん…
 俺、行きたくないんだもん」


賢者は今のカートを見て唖然とする。
まるで別人かと思う程変わっていたのだ。
今度イリーナが一体何をしたのか問い詰めようと考えていた。


「お前、ボーナスをゲイルが考えていると、
 言っただろう?」


「ほ、本当なんだよな?
 ボーナスが無いと絶対行かないぞ!」


カートは胸にしまってあるペンダントを取り出して、最愛の嫁と娘の写真を見ている。


「ママ…」


一瞬カートが何を言い出したのか分からなかったが、クレアは追求するよりもそっと聞かなかったことにした。


そしてクレア達の乗る魔列車もまた水中トンネルへと入っていく。


「綺麗…」


ユーリはその景色に見惚れているが、
賢者は目を輝かせたユーリを見て口を開く。


「大成功だな…
 姿を変えて正解だったよ」


賢者は研究者に幻惑魔法を活用した魔道具を作らせてユーリの姿を変えることに成功した。


「まあ、全てを別人に変える必要はないさ
 ハーフエルフを隠せば良いだけからな」


水の都にエルフが住んでいたのを思い出したためエルフの容姿に近づける作戦にした。
今のユーリは耳が尖っており目鼻も可愛らしさが消え更に美しさが際立っている。


「へ、変じゃ無いかな?」


「何言ってるんだ?
 私が男なら押し倒すだろうな」


クレアは笑いながら今のユーリを揶揄っている。
普段のユーリも美しいが今のユーリは同性から見ても羨ましさを感じてしまう。


「あ、あねご~」


予想外のクレアの口撃にユーリは焦っていた。


そして魔列車は水中トンネルを抜けていく。
近代的な景色に変わり乗客の心を奪う。
目に見える景色をクリスも見ていると思うと、早く会いたいとユーリは胸を躍らせているのであった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...