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第43話 決心

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麓の村の食事処に俺達は到着する。
リサーチしてきたユーリの情報に従って、
店を選んでいる。
なんと言ってもタダ飯ほど美味いものはない。
ユーリのテンションは、いつも以上に高い。


4人でテーブルに座っていると、
ウェイトレスが注文を確認する。


「お前ら、遠慮せずにたくさん食えよ!」


カートさんは、男の甲斐性を見せるが、
この局面でその発言をして良いのかと、
俺も母上も冷や汗を流している。


「遠慮せずにたくさん食えよ」


このフレーズにユーリは目を輝かせるが、
初めて出会った人に奢ってもらうため、
一応母上に確認をしている。


「あ、あねご…
 が、我慢しなくても良いの?」


「カートが良いと言ってるんだ…
 が、我慢しなくて……いいぞ…」


母上は、魔女狩りの件もあったため、
カートよりもユーリの笑顔を取った。


俺は一応初対面なわけで、
自然体でいくことにしている。
そのため今日の方針としては、ユーリは野放しだ。



「わーい!
 カートさん、大好き!」



ここにきてユーリは心の一撃を与えてしまう。
男は可愛い女の子からの好意は素直に嬉しい。
だが、直球で大好きなんて言われる機会は人生でも数えるほどだ。
カートの頭にはユーリからの言葉が離れない。


「カートさん、大好き」


魔法でもかけられたかのようにカートの頭には、ユーリのフレーズで一杯になる。
そして自然と鼻の下を伸ばしてしまう。


「うおおお!
 店員さん、これもこれも追加!!」


「きゃははは」


こんなに腹を抱えて笑うユーリを見てこれで良いのかもと思ってしまう。
ふと母上を見ると、母上も頷いている…
やっぱりこれで良いのだ。


「おい、クリスも沢山食えよ!」


「た、食べてますよ~」


「そうだもぐもぐ、くりすも…くえ!」


「食べながら話すな、ユーリ」


ユーリは口いっぱいに頬張っている。
まるでリスのようだ…


「誰も取らないぞ」


俺は笑いながらユーリに話しかける…
ひとまずユーリは食べる事に集中するようだ。


そして気を取り直したカートさんが、
母上に話しかける。


「ところでお前達はどこに向かうんだ?」


「ひとまずはエルフの里だ」


するとカートさんの表情が曇る。
エルフの里に何かあるのだろうか。


「実はな、王都からの指示で、
 エルフの里を探るように言われてる」


「何かあるのか?」


「ああ、最近変な果実が流通しててな……」


エルフの里で流通する謎の果実。
それを調査するためにカートは派遣されたのだ。


「その果実はどんな効果があるんだ?」


「めちゃくちゃ美味いらしい!
 それが気持ち良いというか、
 脱力感も多少あるって話だ?」


脱力感のある果実…
しかし、鎖国している状態なのに、
外来種の果実を入れるのかと疑問に思う。


「エルフって鎖国してるんですよね?
 よく果実を入れようと思いましたね」


「え?エルフは鎖国してないぞ?
 普通に一般人でも中に入れるしな」


「え?」


何を言ってるんだ…
それでは危険じゃないか…


「あの……エルフは力が弱く侵入されると、
 攫われませんか?」


「クリス、何言ってるんだ?
 エルフは屈強な戦士達ばかりだ。
 クレアには敵わないだろうが、
 腕利きばかりだぞ…」



「はい?」



俺は、この時代の事実に驚きを隠せない。
現代ではエルフに有能なスキルは現れなくなっている…
一体この時代で何が起きていたのか。


「エルフって、物凄く強いんですね」


「当たり前だろう…
 長寿種族だからな…
 練度も違う」


それ程までに強い種族が10年も経てば落ちぶれるのか。
何か陰謀があるのか?
持ち込まれている果実が原因なのだろうか。


俺はエルフの里で蠢く陰謀が気になり、
母上、カートさんと話している内に、
すっかりユーリを忘れてしまっていた。


気づけばテーブルの上は空の皿で溢れていたのだ。
ちなみに何段も積み重ねられている。


「お、お前…
 これは何だ?」


カートさんは異常な皿の量に唖然として、
少しずつ顔が青くなる。


「美味しかった~
 カートさん、たくさんありがとう」


ユーリは、今までで見たことのない程の満面の笑みを向ける。
カートさんもそんな純粋な笑顔を向けられて、
何も言い返せなくなった。


「おぉ…」


見てられなくなった母上は、この場を出ようと試みる。


「カート、そろそろ失礼する…
 今日はご馳走様…
 明日から同行、宜しくな」


そして、そそくさと俺達を連れて店を出てしまった。


「お、おい、クレア!」


一瞬の出来事だった。
気づけば店内にはカートしか居ない。


「お客さん、お会計…」


店主の出す伝票を受け取り、
その金額を見て更にカートは青ざめる。
賞与を諦めて会計を終えたのだった…




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




すっかりと夜も更けた。
俺はカートさんにお礼を言えず、店を出てしまい後悔していた、


「うーん、まだ起きてそうだし、
 行ってみようかな」


カートさんの泊まる部屋に行ってみることにした。
俺が泊まる部屋からは少し離れている。
外を見渡してみると、路地のベンチに座って酒を飲むカートさんを見つけた…


「カートさん、お酒ですか?」


「あぁ、クリスか…
 ちょっと眠れなくてな」


「俺もです」


俺はカートさんが好きだ。
しかし、それには大きな理由がある。
母上を亡くした時カートさんが現場にいた。
守れなかった責任を感じ、それ以来親身に接してくれたのだ。
当初はカートさんが母親代わりになると言い出した時もあり、正直どうなることかと思ったが、そんなカートさんが大好きなのだ…


「クリス、お前悩みでもあるのか?」


「え?」


「いや、何故なのか、
 お前見てると悩んでるかどうか、
 分かる気がするんだよ」



カートさん……



「……………
 もし、カートさんは…
 大切な人が死ぬと分かっていたら、
 どうしますか?」



「それは病気か?」



「いえ、違います」



カートさんは呑んでいた酒を一旦止めて、
笑みを浮かべながら口を開く。




「俺なら…
 足掻き続けるだろうな」




「え?」




「お前が俺に聞くって事は、
 助けられる可能性があるのだろう?」




そういえば、前にカートさんが、
俺に教えてくれた言葉だ…
俺自身が凄く好きだったのに忘れてた。




「なら、最後の最後まで足掻き続けろ」




その一番好きな言葉を聞くことができて、
改めて迷いを捨てる覚悟が出来た。



「そうするしか、未来を掴めないなら、
 全力でやるしか無いんだよ」



カートさん…
やっぱり貴方に出会えて本当に良かった…
俺は貴方が大好きで仕方がない。



「ありがとう…
 カートおじさん」



「お、おい
 やめろ!俺はまだ20代だ!」



「ふふふ、あはははは」



俺は気づいたら涙を流しながら笑っていた。
過去に遡ってもカートさんは変わらず、
俺の好きなカートさんだったのだ。
そしてまた自分に大切な事を教えてくれた…



間違いなく、母上とユーリに何かが起きる…
でも、未来は誰にも分からない。
必ず死ぬとは決まっていない。


この日俺は一大決心した…



母上とユーリを救ってみせる。
そして未来を変えてやる!



叶えられるまで、
俺は、最後の最後まで足掻き続ける…
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