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第62話 時空を超えて

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家族へ別れを告げた夜から清々しい朝を迎える。
そして今日は、この世界で過ごす最後の日。
俺は一日を思う存分楽しむと決めている。
まずはイリーナさんを訪ねて、通い詰めるカートさんを揶揄った。
カートさんはとても焦っていたけれど、
そんな顔を見るのも楽しい。
そして母上、ユーリと一緒に昼食を食べる。
二人と笑いながら食べる食事は幸せな光景だった。
そんな時間がずっと続けば良いのにと思ってしまう。
その最後の瞬間を噛み締めるように大切に味わった……


しかし楽しい時間はあっという間に過ぎるのだ。
今はユグドラシルの大樹を前に全員が集まっている。
ついに旅の終わりを迎えたのだ……


「クリス、これからお前を未来へ送る。
 ちょうど黒騎士に出会ってすぐだ」


「あの、元々未来に存在する俺は、
 どうなるのでしょうか?」


未来の賢者とフィリアを救うには、
二人が生きている時間に飛ばなければならない。
そうなると、そこに俺自身も存在している。


「術式を変えてある……
 未来のクリスと存在が融合する。
 まあ、上書きに近いな」


なんだか少し怖いと思ってしまう。
だが最初からこのために過去に遡ってきたのだ。
今更立ち止まることは出来ない……


「なぁ、クリス……
 お前とは10年後に会えるんだよな?」


母上の問いに頷いたが、
10年後も会いたいと願うのは、俺も同じだ。
絶対に生きてまた同じ時を過ごしたい。


「それならお前に見合う、
 誇らしい息子に育てないとな……」


今もレガードの家にいる、
二歳のクリスのことを言った。


「母上……」


そしてユーリの方を見ると、
その瞳を潤ませながら言葉を紡ぐ。


「クリス……
 待ってるから……ずっと……」


「ユーリ……また会おう……
 絶対に……」
 

きっと神様が二人を救うために、
過去に遡るチャンスをくれたのだと思う。
この世界に来れて……
そして皆に出会えて、俺は幸せだった……


「さぁ、そろそろ時間だ……」


賢者は、魔法の筒を飲み干す。
更に黄金に輝く魔力を身体に纏って、
大樹の枝を媒介に大魔法を発動した。

足元に魔法陣が現れて、
時空魔法の光が、俺の身体を包み込む。
少しずつ俺の存在が消え始めると、
母上とユーリが叫んた。


「クリス!
 お前との日々、絶対に忘れないからな!」


「母上!」


母親に感謝しても仕切れない。
自分を産んでくれただけでなく、
こんなにも愛してくれる。
それだけで俺は……


「私は……クリスが……
 クリスのことが……大好き!」


ユーリも、ありったけの想いを贈ってくれた。
その気持ちを貰えて、涙が出るくらいに嬉しい。


「ユーリ……ありがとう……」


大切な家族の想いを胸に、俺は時空を超える。
決して後ろは振り向かない。



前だけを向いて、未来へ……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







そして、時は流れる……








場所は、因縁の地であるエルフの里。
そして今も壮絶な戦いが繰り広げられている。





「はぁ……はぁ」





賢者は、肩で息をしている。
黒騎士相手に近接戦闘を繰り広げたが、
想像以上に体力を消耗していた。



そしてセトは、業物の剣を握りしめて、
魔界最強の剣技を繰り出そうとしている。



「殴り合いの中……
 剣の装備は卑怯じゃないかい?」



「戯れにも飽きた……
 一思いに殺してやる」



黒騎士セトが剣で攻撃しようとした瞬間……



クリスの結界から、激しい時空の歪みが現れる。
その衝撃音が里に響き渡り戦闘を中断させた。


「な、何だと……」


黒騎士は、突然の時空魔法の波動に驚愕する。
目の前の賢者は何もしていないが、
この波動と魔力は、確かに賢者のものだ。



その瞬間、賢者はニヤリと笑みを浮かべる。


「ふふ、ようやく来たね……
 待ちくたびれたよ」


時空魔法の結界は外側からは何も受け付けないが、
内側からは攻撃により破壊できる。
そして結界に亀裂が走った。


「クリス君?」


フィリアも驚きを隠せない。
クリスを閉じ込めるために、賢者が結界を張った。
しかしそれをいとも簡単に破壊しようとしている。


そして結界はガラスのように割れ、
その中から現れた人物が、全速力で駆け抜ける。
あっという間に黒騎士の目前に迫り蹴飛ばした。
更に水魔法バブルバレットを放ち、
黒騎士に反撃の隙を与えない。


「遅かったぞ……クリス」


「おまたせ、賢者!」


賢者は、この瞬間を待ちに待っていた。
クリスが時空を超えて現れた事に喜びを隠せない。


「本当にクリス君なの?」


フィリアの問いに無言で頷く。


「賢者の元へ……
 後は、俺がやる」


フィリアは、別人のようなクリスを見て、
夢のようだと信じられないでいた。
規格外の四天王を目の前にして、
怯えるどころか自信に満ち溢れている。



「先程とは比べ物にならない魔力、
 しかもロゼよりも上の格闘術……
 面白い」



そしてクリスは姿を変えて覇王を発動する。
覇王の輝きは、時空を超えても衰えない。
むしろクリスの意志に応えるように更に強まった。


「黒騎士、覚悟しろよ!」


全身に全ての身体強化をかけて、
黒騎士に接近する。


「は、覇王だと?
 貴様、何者だ!」


黒騎士は、初代国王との間に因縁があった。
覇王との戦いに誰よりも執着している。
それだけに目の前の存在に興味が尽きない。


「クリス・レガード……
 時空を超えて……
 黒騎士セト、お前を倒す者だ!」


過去へ遡り沢山の仲間と出会い、
クリスは、共に困難を乗り越えて成長した。
己の全てを懸けて黒騎士セトへ挑んでいく……
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