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ヒストリー2 〜オーロフの夢 俺は絶対剣士になるんだ!〜
しおりを挟む《オーロフ視点》
九王国 アシリング家
アシリング邸宅内、グランド。
ひとりの少年が、剣を両手に持ち一心不乱に素振りをしている。
そこに男が通りかかった。
?『また、剣の修行をしているのかオーロフ?』
オーロフ『あ、ヘイス兄ぃ!帰って来てたのですか!』
ヘイス『ああ、今日は新兵の調練だけだったからな、早く帰ってこれたよ。
また少し休憩したら、出かけなければならないが。それにしても・・』
汗まみれになり、剣を握っているオーロフを見て
ヘイスはため息をついた。
ヘイス『やはり兵士になる夢は諦めてないのか?』
オーロフ『もちろんです!俺は、ヘイス兄ぃ、フォード兄ぃのような、立派な兵士になってアシリング家を守りたいんです!ヘイス兄ぃに、毎日辞めろと言われようが俺の決心は変わりません!』
ヘイス『そんなドヤ顔で言われてもなぁ。』
ヘイスは、自分の鞄から布を取り出してオーロフの顔の汗を拭いた。
ヘイス『オーロフ、少し話そうか。』
オーロフ『あ、、はい!』
オーロフの顔は、とても嬉しそうだ。
2人は近くの長椅子に、腰掛けた。
ヘイス『オーロフ、この先にある隔〔へだ〕てられた壁があるのは知っているな?』
オーロフ『はい!アベルの壁ですね。』
ヘイス『そのアベルの壁は、50年程前に築かれたという。しかし、街の老人に聞いたら70年前とも言うし、他の者に聞けば100年前とも言う。』
オーロフ『俺が聞いたのは、50年前です。』
ヘイス『それは、アシリング家での教育だろう。』
オーロフ『教育・・ですか?』
ヘイス『ああ。〝アベルの壁〟は、未〔いま〕だに
謎に包まれているんだ。誰も解読〔かいどく〕
できない〝文字〟や〝矢印〟も南の壁に集中して
刻まれている。』
オーロフ『〝文字〟や〝矢印〟・・南の方角に
何かあるのでしょうか?』
ヘイス『それはわからないな。それ以外の手がかりは何もないんだ。だが、確実に〝意味〟がある事は確かだな。〝九王国〟の起源の謎も隠されているかもしれん。』
ヘイスは遠くに目をやった。
ヘイス『今九つに分かれている王族は元々ひとつの王族だった。ある時、内部分裂が起きて、クロムウェルという人物がクーデターを起こしてふたつに分裂した。そこから、長い時をかけてふたつが、みっつに、みっつが、よっつにという具合にそれぞれが独立して、九王国が誕生したんだ。』
オーロフが、口を開けたまま驚いた表情をしている。
オーロフ『・・初めて聞きました。』
ヘイス『オーロフは、まだ子供だからなぁ。もう少し大人になれば、ギーベル先生も教えてくれるだろう。』
オーロフ『俺は子供じゃありません!立派に剣だって振れます!』
ヘイス『まだ12歳だろ?子供だな。』
ヘイスは笑った。オーロフは顔を赤くしている。
ヘイス『オーロフ、お前はアシリング家を守る為に、兵士になりたいんだな?』
オーロフ『はい!』
ヘイス『確かに今、九王国は昔のような緊張状態にあるのは事実だ。先日もアシリング家の境界付近で
ヨーク家と、小規模なぶつかり合いがあった。』
1ヶ月程前に、ヨーク家の人間が、アシリング家、ヨーク家の境界付近で切り刻まれて殺されていたのだという。その死体に被されていた旗がアシリング家の旗だったらしいのだ。父のアシリング王はその事件については否定しているが、その時からお互いの境界線に、兵を配置している。
オーロフ『その、ぶつかり合いで死んだ者はいるのですか?』
ヘイス『いや、お互い死んだ者はいない。だがもしも、どちらかに死人が出てしまうような事があれば、全面戦争に発展する危険性は高いな。』
ヘイス(本格的な戦争は、できるだけ避けたい。
アシリング家と、ヨーク家、この、ふたつの王族が戦争を始めれば他の王族も巻き込まれる事になるだろう。)
ヘイス『九王国は、もともと一つの種族。つまりは、皆同じ血を分け合っているんだ。戦争をするという事は同じ種族同士で殺し合いをするという事だぞ?お前には、そんな事をさせたくない。』
オーロフがうつむいた。
ヘイス『わかってくれ、オーロフ。兵士になって、これから先汚れるのは俺とフォードだけでいいんだ。』
オーロフはまだ、うつむいている。
オーロフ『・・戦争になったら、ヘイス兄ぃも、フォード兄ぃも戦いに行ってしまいます。死ぬかもしれません・・』
ヘイス『兵士だから仕方ない。俺もフォードも隊長だからなぁ笑』
ヘイスが笑った。
オーロフ『死んだらダメです。ふたりは大切な兄ぃです。死ぬのは辛いです。』
ヘイス『おいおい、死ぬと決めつけないでくれ笑まだ、戦争も始まってないぞ。』
オーロフは剣を握りブルブル震えている。うつむいていた顔を上げた目には光るものがあった。
オーロフ『俺は、兄ぃ達を守る!今は無理だけど、
兄ぃ達を守る立派な兵士になります!
兄ぃ達を絶対守る!だから兵士の夢は捨てません!
努力して努力して、努力して、必死に努力して、
〝絶対剣士〟になって最強の兵士になる!』
そこには、小さな巨人がいた。剣を握り、震えながらも必死で立っている小さな巨人。その姿を見たヘイスは一度、小さなため息をついた後、オーロフの頭を撫でた。
ヘイス『まったく、お前は本当に12歳か?しっかりし過ぎだろ。でも、本当に守ってもらえるかもしれないな。オーロフ・A・アシリングに。』
ヘイスは微笑んで言った。
オーロフも涙を拭いて微笑んだ。
ヘイス『さぁ、そろそろ家に帰るとするか。オーロフはどーする?』
オーロフ『俺は、もう少しだけ剣の稽古をします。』
ヘイス『わかった。だがあまり無理はするなよ。
体調管理も、立派な兵士の務めだ。』
オーロフ『はい!』
背中を向けながら手を振りグランドの外の邸宅へと歩き出したヘイス。
オーロフ『ヘイス兄ぃ!』
振り向くヘイス。
オーロフ『今日は色々な話しをしてくれてありがとうございました!俺は、ヘイス兄ぃが大好きです!』
ヘイス(ほんと、俺はいい弟を持った。)
また背中を向けながら手を振りヘイスは邸宅内へと入っていった。
つづく。
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