2 / 5
第2話 OPEN
しおりを挟む
八津と百舌鳥は、二人して居酒屋から出ていった。外はすっかり暗くなっていたが、繁華街の明るさは健在だった。その代わり時が止まった街並みは、いずれも作り物のように感じられた。生気のこもったマネキンがそこら辺に並んでいるようなものだ。
『8番出入口』
地下鉄に繋がる階段があった。百舌鳥の後に続いて八津は階段を下りていった。改札に通じる通路には誰もいない。
「この通路が、無限空間から有限空間への侵食部分と見られます。八津さんには異変を見つけていただきたいと思います」
「異変? 見たところおかしな点はないようだが……」
「ぱっと見ではわからないと思います。ただ、少し歩いていただければ、すぐに異変に気づかれるかと」
八津は百舌鳥と並んで通路を歩いた。角を曲がった先に改札が見えてくるはずだが、なぜかまた通路が現れる。
『8番出入口』
元の通路だった。
「……ループしてる。確かに異変だ。つまりこれが無限空間?」
「はい。ただし侵食部分は、無限空間の内容が有限空間へ常に流入している部分ですので、不安定な状態にあります。よって、異変は一つではありません」
「複数ある異変を見つけて、それでどうしたらいい」
「わたしに報告してください。報告の手段は、この端末で行ってください」
スマートフォンのような端末を手渡される。
「これは? 初めて見るんだが」
「有限空間で使えるよう開発された機器です。使い方は、それを必要とした時にわかります」
「そう、か。百舌鳥さんはどちらへ?」
「他にも侵食部分がないかどうか調べにいきます」
「できれば傍にいてほしいんだが」
「異変を見つけるのは八津さんお一人でもできますし、それに、わたしでは見つけられません」
「どうして」
「元は有限空間であるこの場所の情報について、より多くのことを八津さんはご存じです。わたしはこの世界の住人ではありませんから、異変があっても感知できない場合があります」
残念だが仕方がない。八津は少しがっくりして百舌鳥と別れた。
(さて、と……異変はどこだ)
八津は端末を手に通路を歩き始めた。異変は複数あるようだが、8つあるのではないかと思っていた。確信はないものの、やたらと8に関係していることが多い印象がある。
(8……8……そうだ、今日は8月8日、店を出る時に見た時刻は8時8分だった。やっぱり異変も8つじゃないかな)
通路の壁には広告ポスターが並んでいる。数えてみると、ちょうど8つあった。次に天井の照明の数を数えてみる。これも8つ。足元の点字ブロックの、丸い突起の数が8つ。
(……あれ?)
八津は屈んで点字ブロックを確認した。詳しくは知らないし、じっと眺めたこともなかったが、何か違和感がある。
(突起の数は、もっとたくさんあったような気がする。調べてみるか)
自分のスマートフォンを出してみるが、電源が入らない。使えないようだ。
(百舌鳥さんにもらった端末を使ってみるか)
その端末にはどこにもボタンのようなものはなく、真っ暗な画面しか付いていない。
「八津さん」
「うわ」
いきなり百舌鳥の顔が現れた。美人はアップでも耐えられる。
「異変を見つけましたね」
「あ、ああ。点字ブロックがいつもと違うようだ」
「警告ブロックの点状突起の数は、5×5の25が下限とされているようです。8つでは明らかに少ないですね」
「よくご存じですね」
「実は、八津さんが異変を感じると、その端末を通じてわたしに知らせるようにできているのです。通知され次第、わたしはこの世界の情報にピンポイントでアクセスし、調べることが可能なのです」
よくできている。八津は続けて異変を探した。
(……おいおい。立入禁止の扉が8つもあるぞ)
そんなに立ち入れない場所が多くてはたまらない。これも異変だ。しかし、百舌鳥に報告しようにも端末がまったく反応しない。
(妙だな。ついさっき使ったばかりなのに)
そう思っていると、目の前の立入禁止の扉が、突然、ガチャリと少しだけ開いた。
『8番出入口』
地下鉄に繋がる階段があった。百舌鳥の後に続いて八津は階段を下りていった。改札に通じる通路には誰もいない。
「この通路が、無限空間から有限空間への侵食部分と見られます。八津さんには異変を見つけていただきたいと思います」
「異変? 見たところおかしな点はないようだが……」
「ぱっと見ではわからないと思います。ただ、少し歩いていただければ、すぐに異変に気づかれるかと」
八津は百舌鳥と並んで通路を歩いた。角を曲がった先に改札が見えてくるはずだが、なぜかまた通路が現れる。
『8番出入口』
元の通路だった。
「……ループしてる。確かに異変だ。つまりこれが無限空間?」
「はい。ただし侵食部分は、無限空間の内容が有限空間へ常に流入している部分ですので、不安定な状態にあります。よって、異変は一つではありません」
「複数ある異変を見つけて、それでどうしたらいい」
「わたしに報告してください。報告の手段は、この端末で行ってください」
スマートフォンのような端末を手渡される。
「これは? 初めて見るんだが」
「有限空間で使えるよう開発された機器です。使い方は、それを必要とした時にわかります」
「そう、か。百舌鳥さんはどちらへ?」
「他にも侵食部分がないかどうか調べにいきます」
「できれば傍にいてほしいんだが」
「異変を見つけるのは八津さんお一人でもできますし、それに、わたしでは見つけられません」
「どうして」
「元は有限空間であるこの場所の情報について、より多くのことを八津さんはご存じです。わたしはこの世界の住人ではありませんから、異変があっても感知できない場合があります」
残念だが仕方がない。八津は少しがっくりして百舌鳥と別れた。
(さて、と……異変はどこだ)
八津は端末を手に通路を歩き始めた。異変は複数あるようだが、8つあるのではないかと思っていた。確信はないものの、やたらと8に関係していることが多い印象がある。
(8……8……そうだ、今日は8月8日、店を出る時に見た時刻は8時8分だった。やっぱり異変も8つじゃないかな)
通路の壁には広告ポスターが並んでいる。数えてみると、ちょうど8つあった。次に天井の照明の数を数えてみる。これも8つ。足元の点字ブロックの、丸い突起の数が8つ。
(……あれ?)
八津は屈んで点字ブロックを確認した。詳しくは知らないし、じっと眺めたこともなかったが、何か違和感がある。
(突起の数は、もっとたくさんあったような気がする。調べてみるか)
自分のスマートフォンを出してみるが、電源が入らない。使えないようだ。
(百舌鳥さんにもらった端末を使ってみるか)
その端末にはどこにもボタンのようなものはなく、真っ暗な画面しか付いていない。
「八津さん」
「うわ」
いきなり百舌鳥の顔が現れた。美人はアップでも耐えられる。
「異変を見つけましたね」
「あ、ああ。点字ブロックがいつもと違うようだ」
「警告ブロックの点状突起の数は、5×5の25が下限とされているようです。8つでは明らかに少ないですね」
「よくご存じですね」
「実は、八津さんが異変を感じると、その端末を通じてわたしに知らせるようにできているのです。通知され次第、わたしはこの世界の情報にピンポイントでアクセスし、調べることが可能なのです」
よくできている。八津は続けて異変を探した。
(……おいおい。立入禁止の扉が8つもあるぞ)
そんなに立ち入れない場所が多くてはたまらない。これも異変だ。しかし、百舌鳥に報告しようにも端末がまったく反応しない。
(妙だな。ついさっき使ったばかりなのに)
そう思っていると、目の前の立入禁止の扉が、突然、ガチャリと少しだけ開いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
死んだ一人の少女と死んだ一人の少年は幸せを知る。
タユタ
SF
これは私が中学生の頃、初めて書いた小説なので日本語もおかしければ内容もよく分からない所が多く至らない点ばかりですが、どうぞ読んでみてください。あなたの考えに少しでもアイデアを足せますように。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる