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争乱1 インシジャーム砂漠
百六十五話 旅立ち-2
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「私は、死んでもここを動かんぞ――」
玉座の周りに月の牙の面々が集結している。
「姫さんよ、見苦しいいぞ。さっさと行きやがれ」
「そうです、姫様。ツンデレ姫なんていまさら流行らないのです。真正のツンデレ、エナトスさんがいればことたりるのです」
「チビッ子、絶対俺のこと馬鹿にしているだろう!」
「いえいえ。ルピカは、ツントスさんの味方デス!」
金髪の青年が、幼女を本気で追いまわし始めた。微笑ましい光景だ。仮に、ヒジリが同じ扱いを受けたら全力で叩きのめすけど……。
ヒジリとアワイはここにはいない。若干の距離ができてしまった。心なしか二人の存在を遠く感じる。
己の選択。対等な関係でありたいと考えていたのに……。結局は、一方的にまさに暴君のような振る舞いに興じたわけだ。
反故にできる誓いは、何の意味も持たない。今だって俺が踏み外さないように、人であり続けられるように、尽力してくれる二人に欠片ほどの不満感を抱いている。
自己嫌悪に没入できるくらいには回復している。そうプラスに考えることにしよう。
「オレリア、ヒラール姫は何をしているんだ?」
「姫様は、バリークの復興に尽力すると言っているんです!」
「問題あるか?」
バリーク自体の被害は、そう大きくない。最後の砦として国民全員を非難させ、拠点防衛に人員を配置したヒラール姫の手腕を褒め称えるべきだろう。
しかし、砂漠に点在するオアシス――広域の拠点や部族の集落は壊滅的な被害を受けた。復興には時間がかかるだろう。それに最後の最後に横槍を入れてきた翼人種とかいう連中の動向も気になる。
あれだけの攻撃手段を持っているのだ、仮に戦になるようなことがあれば今のバリークに勝ち目はないだろう。
「栄・太・さ・ん、間違っても姫様を肯定しないで下さいね」
オレリアが語気を強めた。とりあえずヒラール姫と話してみるか。
オレリアと一緒に、月の牙の間を縫うように進む。敵意は感じないけれど、どうやら俺は畏れられているようだ。
「神代栄太、もう傷は癒えたのか?」
「まだ、全快にはほど遠いけどな」
特に心の傷はと言いかけて、口を噤んだ。誰かに吐露して楽になれば、それこそ自分を許せなくなる。
目を反らすな。先延ばしにするな。これが終わったら――
「まだ礼を言っていなかったな。貴君のおかげでバリークは救われた。心からの誠意を――」
格式ばった謝辞の言葉を聞き流しながら、あれこれ思案してみる。たしか、ヒラール姫は散々迷ったあげく、国ではなく想い人であるソールを選択したような気が……。
「また、姫に戻ったのか」
他意はない。ただ、思考の一片が口をついた。
「栄太さん!」
オレリアが慌てている。どうやら地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「そうだ。だからこそ。まだ、私を姫としたってくれるみなのためにも、残りの人生すべてをバリークに捧げると誓ったのだ」
一度は切り捨ててしまったもの。大願が成就した後で、もう一方を手を伸ばす機会が与えられるなら。願いの向側の願望よりも、取りこぼしてしまったモノに思いを馳せる。
贅沢な悩みではある。そもそもヒラール姫は、そんな選択の帰路には立ってはいなかったのだ。ソールを救うこと=バリークの滅亡なんて方程式は成立していなかった。
そんな世界系アニメみたいな展開であれば、こんな平穏は永劫存在しなかったはずだ。今頃、ソール傍らで滅んだ砂漠を眺めていたに違いない。そして、エンディングが流れて……。
見まがうことなきバッドエンド。一つしか選べないって残酷な過ぎるよな。そうはならないように大勢が死に物狂いで手繰り寄せた尊い今だ。今になって一つしか選べないなんてルールが適用されるはずがない。
要はヒラール姫の心情次第。
玉座の周りに月の牙の面々が集結している。
「姫さんよ、見苦しいいぞ。さっさと行きやがれ」
「そうです、姫様。ツンデレ姫なんていまさら流行らないのです。真正のツンデレ、エナトスさんがいればことたりるのです」
「チビッ子、絶対俺のこと馬鹿にしているだろう!」
「いえいえ。ルピカは、ツントスさんの味方デス!」
金髪の青年が、幼女を本気で追いまわし始めた。微笑ましい光景だ。仮に、ヒジリが同じ扱いを受けたら全力で叩きのめすけど……。
ヒジリとアワイはここにはいない。若干の距離ができてしまった。心なしか二人の存在を遠く感じる。
己の選択。対等な関係でありたいと考えていたのに……。結局は、一方的にまさに暴君のような振る舞いに興じたわけだ。
反故にできる誓いは、何の意味も持たない。今だって俺が踏み外さないように、人であり続けられるように、尽力してくれる二人に欠片ほどの不満感を抱いている。
自己嫌悪に没入できるくらいには回復している。そうプラスに考えることにしよう。
「オレリア、ヒラール姫は何をしているんだ?」
「姫様は、バリークの復興に尽力すると言っているんです!」
「問題あるか?」
バリーク自体の被害は、そう大きくない。最後の砦として国民全員を非難させ、拠点防衛に人員を配置したヒラール姫の手腕を褒め称えるべきだろう。
しかし、砂漠に点在するオアシス――広域の拠点や部族の集落は壊滅的な被害を受けた。復興には時間がかかるだろう。それに最後の最後に横槍を入れてきた翼人種とかいう連中の動向も気になる。
あれだけの攻撃手段を持っているのだ、仮に戦になるようなことがあれば今のバリークに勝ち目はないだろう。
「栄・太・さ・ん、間違っても姫様を肯定しないで下さいね」
オレリアが語気を強めた。とりあえずヒラール姫と話してみるか。
オレリアと一緒に、月の牙の間を縫うように進む。敵意は感じないけれど、どうやら俺は畏れられているようだ。
「神代栄太、もう傷は癒えたのか?」
「まだ、全快にはほど遠いけどな」
特に心の傷はと言いかけて、口を噤んだ。誰かに吐露して楽になれば、それこそ自分を許せなくなる。
目を反らすな。先延ばしにするな。これが終わったら――
「まだ礼を言っていなかったな。貴君のおかげでバリークは救われた。心からの誠意を――」
格式ばった謝辞の言葉を聞き流しながら、あれこれ思案してみる。たしか、ヒラール姫は散々迷ったあげく、国ではなく想い人であるソールを選択したような気が……。
「また、姫に戻ったのか」
他意はない。ただ、思考の一片が口をついた。
「栄太さん!」
オレリアが慌てている。どうやら地雷を踏み抜いてしまったようだ。
「そうだ。だからこそ。まだ、私を姫としたってくれるみなのためにも、残りの人生すべてをバリークに捧げると誓ったのだ」
一度は切り捨ててしまったもの。大願が成就した後で、もう一方を手を伸ばす機会が与えられるなら。願いの向側の願望よりも、取りこぼしてしまったモノに思いを馳せる。
贅沢な悩みではある。そもそもヒラール姫は、そんな選択の帰路には立ってはいなかったのだ。ソールを救うこと=バリークの滅亡なんて方程式は成立していなかった。
そんな世界系アニメみたいな展開であれば、こんな平穏は永劫存在しなかったはずだ。今頃、ソール傍らで滅んだ砂漠を眺めていたに違いない。そして、エンディングが流れて……。
見まがうことなきバッドエンド。一つしか選べないって残酷な過ぎるよな。そうはならないように大勢が死に物狂いで手繰り寄せた尊い今だ。今になって一つしか選べないなんてルールが適用されるはずがない。
要はヒラール姫の心情次第。
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