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争乱1 インシジャーム砂漠

百五十話 魔砂漠の決戦-21

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「ソール」といいかけた言葉をぐっと飲みこんだ。
 全てが終わったあとで、二人の関係性を羨ましいだなんて思う人間性が残っているだろうか。
 アワイやヒジリに謝らないといけないな。……なにより、ガブに謝らないといけない。

 ガブは、拒絶はしないだろう。でも、それは幸福なことだって押し付けることをしたくない。
 「一緒に、地獄に落ちてくれ」って、命令するみたいなものだと俺は思う。
 力が全てだって考える連中――上層部は、至上の誉だって言うのだろうけど。

「ソール、現状維持で頼む。これ以上、神に近づくと戻れなくなるかもしれない――」
 たとえ、前世の記憶群が力を渇望したとしても必至に抗ってほしい伝える。

「栄太は、勘違いしている。たしかに、代々の転生体が経験した記憶は、俺の多大なる負荷をかけてくる。でも、その全ては俺自身の記憶なんだ――」
 他者の記憶ではなく、自身の記憶。もちろん、今の自分とはかけ離れた趣味嗜好の転生体もいたとソールは笑って続ける。
 
 連続した記憶。俺はてっきり、転生体しいて言えば、太陽神がソールの人格を塗りつぶして自分のエゴを通そうとしているのだと考えていた。
「初代――太陽神の思考は理解しがたい面もある。ただ、人間だった時の記憶もしっかり残っている。それが、代々の転生体にも受け継がれているんだ――」
 だから、向かう方向は決して間違えないとソールは断言する。

「栄太の心配もわかるが、俺にはあれを、哀れな竜の最後を見届ける義務がある」
「哀れな竜?」
 聞き捨てならないセリフだ。だって、あれはバリークをインシジャーム砂漠を滅ぼそうとしている害悪だ。
 余所者の俺だってそう思うのだ。それなのに、ソールは……。

「――憎くないのか?」
 無意識にそんなに言葉を紡いでいた。
「その感情が全くないと言ったら嘘になる。今まで多くの仲間が、転生体である俺を守るために死んだ。どうしてか、俺は必ず最後まで生き残る。寿命を全うして死んだ時もあるくらいだ――」
 自嘲気味にソールが笑う。

「あいつらの犠牲を無駄にはできない。この俺が最後だと言うのならば、是が非でも失敗するわけにはいかない。それが、俺の在りようであり存在理由だ」
 太陽神は、元は人であった。誰かが使命をその心に刻み付けた。

 始まりの契約――呪いは、ソールに巨悪竜の討伐を強いる。だとすれば、元凶は太陽神ではなく……。
 おそらく第一世代に分類される神。名も知らぬ神に苛立ちを覚える。きっと、俺はそいつとは相容れない。そんな気がして仕方がない。

「わかったよ、ソール。だけど、完全に神になるのはダメだ。フェンリルがそこまでは持たない」
 フェンリルを引き合に出すのは卑怯な気もするが、致し方ない。
 完全に神に移行しなければ、戻れる可能性はある。あとは、ヒラール姫の働きに期待するしかあるまい。

「栄太こそ、無理はするなよ」
「ああっ」
 気の抜けた返事をしてしまった。騙し合いは続く。どんなに繕ってもソールの中身は変質してしまっている。
 ソールの中核を成す太陽神、さらにその向こう側に潜む無名神の意志。

 打ち砕くには、途方もない力が必要だ。

 目を閉じる。ガブに繋がるパスに意識を集中する。そして、ありったけの力を注ぎ込む。
 ドクンッとガブの鼓動の音が聞こえる。

 間髪入れずに、ガブから力が流れ込んでくる。身体が燃えそうに熱い。
 躊躇わずに力を送り返す。全力のキャッチボール。取りこぼせば次はないだろう。

 あと何度この灼熱の痛みに耐えきれば、俺は巨悪竜に勝てるのだろうか。そんな考えすら炎に焼かれていくようだ。 
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