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争乱1 インシジャーム砂漠
百三十話 魔砂漠の決戦-4
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「生身じゃどうにもならないさ。さっさとバリークに帰った方がいいぜ、お姫様」
「神代栄太、故意に壊したのではないだろうな?」
「そうだとも、足手纏いは早々に切り捨てる、それが俺のやり方だ」
「アウ?」
「ギィー?」
ガブとアワイが?マークを浮かべているような仕草をしている。やっぱり、演技の才能はないみたいだ。
「そうでございますね。そこの傲慢な姫は、自分の力を過信している節があるのでございます。そういうった小物程、迷惑な物はないのでございます」
ヒラール姫は俯いて唇を噛み締めている。畳みかけようと、口を開きかけるアワイに手で「待機だ」と指示を出す。荒療治が上手くいくかどうかは神のみぞ知るだ。
「……確かに、私は無力だ。兄王様には遠く及ばない。私の選択でバリークが滅ぶことを考えると震えてしまう。怖くて怖くて、仕方ない。未熟な私が全てを捧げたところで事態が好転することがないこともわかっている……それでも私は王族なんだ。バリークを守る義務がある!」
自分に言い聞かせているように見えてしまうのは、俺が歪んでいるせいか。王族としての矜持と一個人としての感情とがせめぎ合っている。
王族として国の存続考えるなら、この場にいる兵士に死を命じるべきだ。王族として臣民の命を第一に考えるならば、撤退し、大規模避難に尽力するべきだ。
一個人として、命に優先順位をつけるならば、この場にいる兵士は見捨てるべきだ。ソールの対でありたいと願うならば、命を懸けるべきだ。
選択肢なんていくらでもある。その時の心理状態、外的要因、分岐する未来を取捨選択しなければならない。やり直しなんてできないのだ。きっと、どの道を選んでも後悔することになる。
本当にそうか。二律背反、相反する自分の一方を切り捨てる。自分の半分を殺す。そうすれば、後悔などしないのではないか。
ヒラール姫は、どっちつかずの選択肢を選んで誤魔化そうとしている。死に至る痛みよりも激痛のほうが幾分かましだと生存本能が働いているのかもしれない。
目下、その選択は、全てを失い、何一つ残らない未来につながる道だ。
「選べよ、ソールか国か? 中途半端な気持ちでは何も残らない。まさか、生半可気持ちでここに立っているわけではないよな」
不穏な空気を感じ取ったのか、月の牙は戦闘態勢に移行。満身創痍な兵士達も、残った気力を俺への敵意に変換し始めたみたいだ。
「お前らさ、何か勘違いしているんじゃないか。俺は別にお前らに対して何等の情も抱いていない。すぐにでも地獄に突き落とすことだってできるんだ」
ガブが、俺の脇で熱を発する。火を吐く準備はできているらしい。そこには、善も悪もない。ただ俺の意思を実現するために。
アワイは、冷酷な微笑を浮かべながらも、ちゃんと意図を汲みとってくれる。そこには、慈愛しかない。ただ、最良の結果を勝ち得るために。
ヒジリは、「アルジ、ダメ、ダメ、ダメ」と呟きながら、翼を広げて、俺の目前に立ちふさがった。そこには、補正の概念がある。ただ、俺を逸脱させないために。
「……私は――」
正直、ここまでする必要はないんだ。ヒラール姫がどんな選択をしても俺の行動はきっとブレない。だけど、俺の望む結末に辿りつくには、ヒラール姫の協力が不可欠だ。
俺は、知らなければいけない。ヒラール姫が抱える情愛の深さを。俺は知らなければならない、ソールを想う強い気持ちを。
それこそが全てを勝ち得るための布石。建前なんてどうでもいい。
「建前なんてどうでもいい。本当の気持ちを教えてほしい」
最低でも両方を選んでほしいものだ。それは、アニメや漫画に感化され過ぎている思考回路かもしれないけれど。
「神代栄太、故意に壊したのではないだろうな?」
「そうだとも、足手纏いは早々に切り捨てる、それが俺のやり方だ」
「アウ?」
「ギィー?」
ガブとアワイが?マークを浮かべているような仕草をしている。やっぱり、演技の才能はないみたいだ。
「そうでございますね。そこの傲慢な姫は、自分の力を過信している節があるのでございます。そういうった小物程、迷惑な物はないのでございます」
ヒラール姫は俯いて唇を噛み締めている。畳みかけようと、口を開きかけるアワイに手で「待機だ」と指示を出す。荒療治が上手くいくかどうかは神のみぞ知るだ。
「……確かに、私は無力だ。兄王様には遠く及ばない。私の選択でバリークが滅ぶことを考えると震えてしまう。怖くて怖くて、仕方ない。未熟な私が全てを捧げたところで事態が好転することがないこともわかっている……それでも私は王族なんだ。バリークを守る義務がある!」
自分に言い聞かせているように見えてしまうのは、俺が歪んでいるせいか。王族としての矜持と一個人としての感情とがせめぎ合っている。
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一個人として、命に優先順位をつけるならば、この場にいる兵士は見捨てるべきだ。ソールの対でありたいと願うならば、命を懸けるべきだ。
選択肢なんていくらでもある。その時の心理状態、外的要因、分岐する未来を取捨選択しなければならない。やり直しなんてできないのだ。きっと、どの道を選んでも後悔することになる。
本当にそうか。二律背反、相反する自分の一方を切り捨てる。自分の半分を殺す。そうすれば、後悔などしないのではないか。
ヒラール姫は、どっちつかずの選択肢を選んで誤魔化そうとしている。死に至る痛みよりも激痛のほうが幾分かましだと生存本能が働いているのかもしれない。
目下、その選択は、全てを失い、何一つ残らない未来につながる道だ。
「選べよ、ソールか国か? 中途半端な気持ちでは何も残らない。まさか、生半可気持ちでここに立っているわけではないよな」
不穏な空気を感じ取ったのか、月の牙は戦闘態勢に移行。満身創痍な兵士達も、残った気力を俺への敵意に変換し始めたみたいだ。
「お前らさ、何か勘違いしているんじゃないか。俺は別にお前らに対して何等の情も抱いていない。すぐにでも地獄に突き落とすことだってできるんだ」
ガブが、俺の脇で熱を発する。火を吐く準備はできているらしい。そこには、善も悪もない。ただ俺の意思を実現するために。
アワイは、冷酷な微笑を浮かべながらも、ちゃんと意図を汲みとってくれる。そこには、慈愛しかない。ただ、最良の結果を勝ち得るために。
ヒジリは、「アルジ、ダメ、ダメ、ダメ」と呟きながら、翼を広げて、俺の目前に立ちふさがった。そこには、補正の概念がある。ただ、俺を逸脱させないために。
「……私は――」
正直、ここまでする必要はないんだ。ヒラール姫がどんな選択をしても俺の行動はきっとブレない。だけど、俺の望む結末に辿りつくには、ヒラール姫の協力が不可欠だ。
俺は、知らなければいけない。ヒラール姫が抱える情愛の深さを。俺は知らなければならない、ソールを想う強い気持ちを。
それこそが全てを勝ち得るための布石。建前なんてどうでもいい。
「建前なんてどうでもいい。本当の気持ちを教えてほしい」
最低でも両方を選んでほしいものだ。それは、アニメや漫画に感化され過ぎている思考回路かもしれないけれど。
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