上 下
158 / 202
争乱1 インシジャーム砂漠

百三十話 魔砂漠の決戦-4

しおりを挟む
「生身じゃどうにもならないさ。さっさとバリークに帰った方がいいぜ、お姫様」
「神代栄太、故意に壊したのではないだろうな?」
「そうだとも、足手纏いは早々に切り捨てる、それが俺のやり方だ」


「アウ?」
「ギィー?」
 ガブとアワイが?マークを浮かべているような仕草をしている。やっぱり、演技の才能はないみたいだ。


「そうでございますね。そこの傲慢な姫は、自分の力を過信している節があるのでございます。そういうった小物程、迷惑な物はないのでございます」
 ヒラール姫は俯いて唇を噛み締めている。畳みかけようと、口を開きかけるアワイに手で「待機だ」と指示を出す。荒療治が上手くいくかどうかは神のみぞ知るだ。

「……確かに、私は無力だ。兄王様には遠く及ばない。私の選択でバリークが滅ぶことを考えると震えてしまう。怖くて怖くて、仕方ない。未熟な私が全てを捧げたところで事態が好転することがないこともわかっている……それでも私は王族なんだ。バリークを守る義務がある!」
 自分に言い聞かせているように見えてしまうのは、俺が歪んでいるせいか。王族としての矜持と一個人としての感情とがせめぎ合っている。

 王族として国の存続考えるなら、この場にいる兵士に死を命じるべきだ。王族として臣民の命を第一に考えるならば、撤退し、大規模避難に尽力するべきだ。
 一個人として、命に優先順位をつけるならば、この場にいる兵士は見捨てるべきだ。ソールの対でありたいと願うならば、命を懸けるべきだ。

 選択肢なんていくらでもある。その時の心理状態、外的要因、分岐する未来を取捨選択しなければならない。やり直しなんてできないのだ。きっと、どの道を選んでも後悔することになる。
 本当にそうか。二律背反、相反する自分の一方を切り捨てる。自分の半分を殺す。そうすれば、後悔などしないのではないか。

 ヒラール姫は、どっちつかずの選択肢を選んで誤魔化そうとしている。死に至る痛みよりも激痛のほうが幾分かましだと生存本能が働いているのかもしれない。
 目下、その選択は、全てを失い、何一つ残らない未来につながる道だ。


「選べよ、ソールか国か? 中途半端な気持ちでは何も残らない。まさか、生半可気持ちでここに立っているわけではないよな」
 不穏な空気を感じ取ったのか、月の牙は戦闘態勢に移行。満身創痍な兵士達も、残った気力を俺への敵意に変換し始めたみたいだ。
 
「お前らさ、何か勘違いしているんじゃないか。俺は別にお前らに対して何等の情も抱いていない。すぐにでも地獄に突き落とすことだってできるんだ」
 


 ガブが、俺の脇で熱を発する。火を吐く準備はできているらしい。そこには、善も悪もない。ただ俺の意思を実現するために。
 
 アワイは、冷酷な微笑を浮かべながらも、ちゃんと意図を汲みとってくれる。そこには、慈愛しかない。ただ、最良の結果を勝ち得るために。

 ヒジリは、「アルジ、ダメ、ダメ、ダメ」と呟きながら、翼を広げて、俺の目前に立ちふさがった。そこには、補正の概念がある。ただ、俺を逸脱させないために。 


「……私は――」
 正直、ここまでする必要はないんだ。ヒラール姫がどんな選択をしても俺の行動はきっとブレない。だけど、俺の望む結末に辿りつくには、ヒラール姫の協力が不可欠だ。
 俺は、知らなければいけない。ヒラール姫が抱える情愛の深さを。俺は知らなければならない、ソールを想う強い気持ちを。

 それこそが全てを勝ち得るための布石。建前なんてどうでもいい。

「建前なんてどうでもいい。本当の気持ちを教えてほしい」
 最低でも両方を選んでほしいものだ。それは、アニメや漫画に感化され過ぎている思考回路かもしれないけれど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

神々の娯楽に巻き込まれて強制異世界転生ー1番長生きした人にご褒美有ります

ぐるぐる
ファンタジー
□お休みします□ すみません…風邪ひきました… 無理です… お休みさせてください… 異世界大好きおばあちゃん。 死んだらテンプレ神様の部屋で、神々の娯楽に付き合えと巻き込まれて、強制的に異世界転生させられちゃったお話です。 すぐに死ぬのはつまらないから、転生後の能力について希望を叶えてやろう、よく考えろ、と言われて願い事3つ考えたよ。 転生者は全部で10人。 異世界はまた作れるから好きにして良い、滅ぼしても良い、1番長生きした人にご褒美を考えてる、とにかく退屈している神々を楽しませてくれ。 神々の楽しいことってなんぞやと思いながら不本意にも異世界転生ゴー! ※採取品についての情報は好き勝手にアレンジしてます。  実在するものをちょっと変えてるだけです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

処理中です...