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争乱1 インシジャーム砂漠

四十二話 太陽と月の邂逅-8

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「おい、兄ちゃん、こっちにこい!」
 おやっさんが叫んでいる。凛が連続攻撃を続けている。とても、間に入れそうにはない。
「チッ」 
 後ろ髪を引かれる思いで、おやっんの元へ駆け寄る。

「おやっさん、何でもいい敵の意表を突ける武器をくれ」
 敵を凌駕できる武器じゃなくていい。凛を無視して、アナラビが俺を標的に定めてくれれば、丈夫な身体を最大限駆使して泥仕合に興じてやる。
「ここには一般人向けの武器しか置いていない。特殊な武器なんて買う奴なんてそうそういないからな」
「普通の武器で構わない。アナラビの気をそらせればそれでいい」
「たしかに、このまま行けばあの嬢ちゃんは惨敗する」
「やっぱり、おやっさんから見ても凛は劣勢か。凛はそもそも近接戦闘には特化していなからな」
 ある時期までの記憶しか蘇ってこないので、俺は幼少期の凛のことしか思いだせないけど。


「いや、嬢ちゃんの動きは凄まじい。アナラビが今の状態であるならば勝利することも難しくないだろう」
 常時型防御膜は展開しているし、半自動補助についても使い手があの状態では真価を発揮しないだろう。それ以外に特出した機能があるのか……。俺って本当にポンコツだな。
「アナラビは力を溜めている。発光が止んだ次の瞬間、閃光の一撃が放たれる。おそらく嬢ちゃんは避けられない」
 アナラビの光が直視できるほど弱くなっている。最後の一撃までそう時間はない。

「兄ちゃん、嬢ちゃんを助けたいか?」
「当たり前だろう。凛は俺の大事な妹なんだから」
「なら、ある程度の犠牲は覚悟しているな?」
「ああ」
「少し待っていろ」
 おやっさんが店内に入って、すぐ戻ってきた。鉄製の小箱を抱えている。
 そして、鍵を外して、蓋をあけた。

「それは?」
「精霊器だ。並みの精霊術師が使うような汎用型ではない、各属性に特化した上級者向けの一品。しかも、火属性に特化している世界に十本とない逸品だ」
 箱の中身は剣の柄だ。黒地に赤色の宝石が埋め込まれている。
「そんな代物を俺が使えるのか?」
「無理だな。そもそもこれを真の意味で使いこなせた精霊術師は存在しない」
「使えないんじゃ、意味がない」
 もうすぐ凛が死んでしまうかもしれない。そう考えたら居ても立っても居られない。
 
「人の話は最後まで聞け。使う方法ならある。火蜥蜴を使えばいい」
 火蜥蜴? そう言えばガブはどこに行ったんだ。姿が見えないけど。
「……ギィ~」
 弱弱しい鳴き声が上方から聞こえる。

 ロープでぐるぐる巻きにされたガブが軒先から吊るされている。
 
 
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