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序章(チュートリアル)
劣化お兄様
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「自分は無価値である」と世界は残酷に同じ問いを突き付けてくる。
本当に堂々巡りだと思う。
何ものでもない自分。堅く難い『覚悟』を体現する姉。最強である兄。
生来の気質なのか。後天的なものかは判別はできないけれど、私はすぐに二人に縋ろうとしてしまう。
たまたま妹に生まれたから。だから何らの対価を支払うことなく私は守られてきた。
この旅路で、私は何を得て、何を失うのだろう。
私の決意――後天的に磨いた能力は失った。奪われたものの大きさを考えれば、要求されるものは「一番大切なモノ」なのだろう。
無論、一番大切な者は、家族ではあるけれど、姉兄はこんなところで追いそれと損なわれるような存在ではない。だから、きっと私が差し出せる中で最も大切なモノ。
ああっ、こんな自己分析をやめてしまいたい。異世界にやってきてから熟睡をしていない。
疲れた身体に、半覚醒状態の頭。強くなったつもりだった。一人で一通りのことはできるなんて考えていた。
学園では、生徒会長を務めているから勘違いしていた。剰え、家を出た兄に近づけた気にさえなっていた。
「劣化お兄様」
もう何年も会話していない。たまに家に帰ってきても私には目もくれない。
他の異界守の目を気にしての行動だってことくらいわかっている。
それでも昔みたいに一緒に……。
『――生徒会長ってブラコンなのか?』
『……十五君、何を根拠にそんなことを』
『だって、「お兄様」って単語を良く耳にするし』
『兄は、私の目標なのです。最強の異界守。十五君だって知っているでしょう』
『俺なんて一般人に毛がはえた程度だし、そんな天上人のことなんて知らないすわ』
『生徒会長としてではなく、異界守の先輩としてアドバイスしますが、兄の強さを目標とするべきです』
『俺はリーダーの強さを見習いたいですが。あの清濁併せ吞む感じは、非常にミステリアスだし、何より色香がある。リーダーって彼氏とかいるんすかねぇ」
『……話はそれていますが、姉の強さを見習うのも良き一手だと思います』
『――背中を追う必要なんてないんじゃないんすかねぇ』
『……それはどういう意味ですか』
『だから、生徒会長は十分すげぇてことですよ』
あの時、私はどんな顔をしていたのだろう。言葉に詰まって上手く返答できなかった。
たぶん嬉しかったんだと思う。そんなことを言ってくれたのは彼だけだったから……。
『――――十五君、戻って!』
彼が何かを抱えていることは知っていたのに、見てみぬふりをしていた。
パーソナルな部分に触れるのは、良くないことだと考えていたから。
それは言い訳だ。番外十五は好ましい存在であると思いたかったから。
勝手に昔の兄を重ねて……都合がいい幻想を投影していた。
彼の苦悩も葛藤も無視をして――
「十五君!」
伸ばした手が宙を掴んだ。見慣れない天井。窓の外から濃厚な緑の匂いが伝わってくる。
ここは異世界――敵地だ。一人がこれだけ辛いなんて思わなかった。
私は、やはり脆弱だ。
「……お兄ちゃん、助けてよ」
吐き出した言葉は、弱々しく、どこまでも傲慢だった。
本当に堂々巡りだと思う。
何ものでもない自分。堅く難い『覚悟』を体現する姉。最強である兄。
生来の気質なのか。後天的なものかは判別はできないけれど、私はすぐに二人に縋ろうとしてしまう。
たまたま妹に生まれたから。だから何らの対価を支払うことなく私は守られてきた。
この旅路で、私は何を得て、何を失うのだろう。
私の決意――後天的に磨いた能力は失った。奪われたものの大きさを考えれば、要求されるものは「一番大切なモノ」なのだろう。
無論、一番大切な者は、家族ではあるけれど、姉兄はこんなところで追いそれと損なわれるような存在ではない。だから、きっと私が差し出せる中で最も大切なモノ。
ああっ、こんな自己分析をやめてしまいたい。異世界にやってきてから熟睡をしていない。
疲れた身体に、半覚醒状態の頭。強くなったつもりだった。一人で一通りのことはできるなんて考えていた。
学園では、生徒会長を務めているから勘違いしていた。剰え、家を出た兄に近づけた気にさえなっていた。
「劣化お兄様」
もう何年も会話していない。たまに家に帰ってきても私には目もくれない。
他の異界守の目を気にしての行動だってことくらいわかっている。
それでも昔みたいに一緒に……。
『――生徒会長ってブラコンなのか?』
『……十五君、何を根拠にそんなことを』
『だって、「お兄様」って単語を良く耳にするし』
『兄は、私の目標なのです。最強の異界守。十五君だって知っているでしょう』
『俺なんて一般人に毛がはえた程度だし、そんな天上人のことなんて知らないすわ』
『生徒会長としてではなく、異界守の先輩としてアドバイスしますが、兄の強さを目標とするべきです』
『俺はリーダーの強さを見習いたいですが。あの清濁併せ吞む感じは、非常にミステリアスだし、何より色香がある。リーダーって彼氏とかいるんすかねぇ」
『……話はそれていますが、姉の強さを見習うのも良き一手だと思います』
『――背中を追う必要なんてないんじゃないんすかねぇ』
『……それはどういう意味ですか』
『だから、生徒会長は十分すげぇてことですよ』
あの時、私はどんな顔をしていたのだろう。言葉に詰まって上手く返答できなかった。
たぶん嬉しかったんだと思う。そんなことを言ってくれたのは彼だけだったから……。
『――――十五君、戻って!』
彼が何かを抱えていることは知っていたのに、見てみぬふりをしていた。
パーソナルな部分に触れるのは、良くないことだと考えていたから。
それは言い訳だ。番外十五は好ましい存在であると思いたかったから。
勝手に昔の兄を重ねて……都合がいい幻想を投影していた。
彼の苦悩も葛藤も無視をして――
「十五君!」
伸ばした手が宙を掴んだ。見慣れない天井。窓の外から濃厚な緑の匂いが伝わってくる。
ここは異世界――敵地だ。一人がこれだけ辛いなんて思わなかった。
私は、やはり脆弱だ。
「……お兄ちゃん、助けてよ」
吐き出した言葉は、弱々しく、どこまでも傲慢だった。
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