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7章 王道の章

ナイトロード自由戦線

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 テイル、カイン、キャンベル、フレイヤの四人は、陸の砦があるナイトロードの城下町に入っていました。聞けば、本城にはバリアがかかっていて、その封印を解くには、陸の砦の柱をこわす必要があるそうです。そこはまばらに人間の姿は見受けられますが、リザードマン、ゴブリン、ダークエルフなど、異種族の者たちの方がずっと多かったのです。

「ここがナイトロードの首都か・・・」カインは辺りを見回します。
「それにしては、ずいぶん荒れ果てているわね・・・スピネルのマインズにあるスラム街よりひどいかも・・・」テイルの目には、ゴミが散らばり、ひび割れた建物や色とりどりのペンキで描かれたラクガキだらけの壁などが目につきました。

「よく見たら、町にいるのはならず者ばかりね・・・」フレイヤは道端みちばた無造作むぞうさ腰掛こしかけている人間や異種族を見て言います。そんな中、一メートルにも満たない、ぼろの服を着たゴブリンの子供が、長い黒髪のダークエルフの女のスカートのポケットにある茶色の財布さいふをかすめ取り、一目散に逃げ出すと、ダークエルフは素早く弓を取り、子供ゴブリンの右足を容赦ようしゃなくき、子供ゴブリンが転んで泣いているのもおかまいなしに黙って財布を取り返し、そのまま去って行きます。

「なんだか、以前のナイトロードと少しも変っていませんね・・・」キャンベルは泣き叫ぶ子供ゴブリンをあわれみ、足に刺さっている矢を抜き、回復魔法でケガを治してやり、キャンベルが持っていた保存肉を分けてあげ、子供ゴブリンは頭を軽く下げて帰ると、フレイヤが言います。

「かつてのナイトロードは、ぬすんだ方が金持ちになり、力の強い者が生き残り、他者を蹴落けおとした者がえらくなる、そんなぜんあくが逆転した『全一力ぜんいつちから主義しゅぎ』、力こそが全ての無法国家だったの」

 そんなナイトロードの町中を進んで行くと、ひときわ歓声が上がっている大きなスタジアムの様な建物にたどり着きました。
「ここが陸の砦、ナイトロードの闘技場とうぎじょうよ」フレイヤが言うと、四人は中に入ってみました。

 闘技場は、巨大な円形の建物で、すり鉢状ばちじょうの観客席は、大勢の人間や異種族の者たちが埋め尽くし、中央の戦いの場では、人間の剣士とダークエルフの剣士が、はげしく剣と剣をぶつけ合う金属音を何度も鳴らしていました。そこで、ダークエルフが防御の体勢をくずしたところで、人間の剣士は腰に隠していた銃を抜き、ダークエルフの右肩をち抜き、ヤツが剣を振るえなくなり、丸腰まるごしになったところを、人間の剣士は一気にてたのです。その瞬間しゅんかん、観客席からは、ブーイングと大歓声だいかんせいが同時に上がります。

「何なの?あの戦いは!?思いっきり卑怯ひきょうじゃない!」テイルがさけぶと、フレイヤは静かに言います。
「これがナイトロードの戦いよ。この国では、戦士でない者の境遇きょうぐう極端きょくたんに悪く、敗者はいしゃには明日がない、最悪の場合、食料にされてしまう・・・文字通り弱肉強食じゃくにくきょうしょくの世界で、弱者じゃくしゃに使い道はないというのが、かつてのナイトロードの考えだった。そこで戦士たちが教えられることはただ一つ、負けることの恐怖きょうふのみ、だからみんな、どんな手を使ってでもとうとするの、私もナイトロード軍にいたころは、誰にも負けまいと魔法の修行しゅぎょうに明けれ、誰かに心をゆるすことも、心休まる時もなかったの・・・」

「・・・そんな環境かんきょうにいたら、だれだって心はすさんで行くし、どんどん疲弊ひへいしていくわね・・・」
「・・・あの悪魔王カオスにとって、ここは理想の場所だったってわけですね・・・」
「・・・そんな所を自分から抜け出したメガロは、本当にすごいね・・・!彼も、ナイトロード軍にいたそうだし・・・」
 
 四人がそんな会話をしていると、突然、町中にけたたましいサイレンがひびき渡りました。
「放送塔は我々ナイトロード自由戦線が占拠せんきょした!帝国の言いなりになる生活はもうたくさんじゃ!今こそ立ち上がり、真の自由と正義を勝ち取るのだ!」

「・・・これはリリスさんの声ですね・・・!作戦は成功したようです!」その瞬間、観客席と戦いの場からどよめきが起こり、やがて叫びに代わります。
「そうだ!やろう!」
「こんな地獄じごくみたいな毎日はもうたくさんだ!」
「おう!混沌の帝国カオスエンパイアを追い出せ!」観客席の者たちは一斉いっせいに闘技場を出て行き、テイルたちはそのすきに闘技場のおくへと進んで行きます。

 テイルたちが中央の戦いの広場にり立ち、奥の方へと進もうとすると、そこからよろいに身を包んだ、短髪たんぱつのエルフの男性が赤いマントをひるがえして現れました。
「やはり来たか、全く、けたナイトロードにカツを入れるべく我らは集結したと言うのに!ちょっとゆさぶりをかけられただけでこのザマか!」

「本当はみんな、帝国にうんざりしていたんでしょうね、父さんもいつになったら、間違いに気づくの?」テイルはレイドを指さして言いました。
「間違いだと!?弱くていやしい人間に歩み寄ったり、戦いを忘れ平和ボケする方が間違っている!」

「じゃあ父さんはいつまでも人間をにくみ、死ぬまで戦い続けるわけ?それじゃ、カオスのえさになるのも時間の問題ね!理性をて、憎しみで生きる者のたましいは、カオスにとって極上ごくじょうのフルコース!メガロが言っていたわ!」

「メガロ・・・ああ、シルトの事か・・・栄光えいこうあるナイトロードに、身のほどをわきまえず牙を向けた弱いやつ・・・!」これに、テイルは言いました。

「いいえ、メガロはあなたよりずっと立派よ!もし、彼がこの場にいたらこう言うでしょうね、『ナイトロードに角を振りかざす覚悟かくごのない弱いやつ』ってね!」

「何だと・・・!?ならば、この場でお前たちに俺の強さを示すのみ!人間どもをほろぼせるなら、俺はよろこんでカオスに魂をささげよう!」レイドは剣を抜き、テイルに向かって行きました。しかし、テイルはあわてることなく、スッとしゃがんで足払いをかけて、レイドの眼前で拳を止めました。

「くっ・・・!」
「怒りと憎しみで目がくもっているわ・・・!勝負あったわね!」レイドの周りをカイン、キャンベル、フレイヤも取りかこみます。
「・・・くそっ!殺せ!」レイドは腹をくくったかのように、その場であぐらをかきますが、テイルはフンと鼻を鳴らします。

「・・・バカね、ここで殺したら私たちの手がけがれるだけだもの、そうね、武人のあなたにふさわしいバツをあたえましょう!」テイルはそばに落ちていたレイドの剣を取ると、切っ先を地につけ、そのまま拳を剣の横っ面に叩きつけ、真っ二つにりました。

「なっ・・・!お・・・俺の・・・愛用の剣が・・・武人の魂が・・・!くそっ・・・くそおおおっ!」
武器を失ったレイドはそのまま力なく、顔を地にうずめるしかなかったのです。テイルたちはその様子をただだまって見届けるしかなく、闘技場の奥へと進み、四角錐の形をした結界の柱をこわしました。
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