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6章 正義の章

北への旅立ち

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 リュッケンシルトでの幻想界世界会議ファンタジアサミットが終わった後、スピネルでは、混沌の帝国カオスエンパイアとの決戦に備え、食料や武器などの物資の補給にはげんでいました。
 レンガ造りの家々が目立つスピネル王都の真ん中にある緑豊かな公園の中に、青い屋根の小さな家があり、そこでエルニス、キャンベル、すぐる、リリス、ボブ、シェリーの6人は朝食を終え、スピネルジャーナルの一面記事を読んでいました。

『トランバニア国、シルトに襲撃しゅうげきされる!昨日、海賊団かいぞくだんシルトがスピネルの隣国りんごく)トランバニアを襲撃した。これにより、一千万ゴールドにもおよぶ金品が盗まれ、孤児院になっている城から子供たち十数名が誘拐ゆうかいされた』
「また海賊団シルトが悪さをしたみたいだね・・・」エルニスの言うシルトとは、空飛ぶ船を使い、世界をまたにかける海賊団で、金持ちや権力者から金品をうばったり、また、権力者によっていじめられている者たちを救っている義賊ぎぞく集団です。

「トランバニアって、今、世界中のお金持ちや貴族たちが集まっている国だろ?幻想界平和連盟のおかげで、とても豊(ゆた)かになっているって聞いているけど?」
「そうか、それはすごいですわ」ボブとシェリーが言うと、キャンベルがこう言います。

「・・・本当にそうでしょうか・・・?わたしはそうは思えないんですけど・・・」
「どうして?キャンベルちゃん」すぐるがたずねます。
「スピネルジャーナルの記者、ハヌマーンさんが所属しょぞくしている『記者チーム』が作った『パラダイスレポート』によると、そのトランバニアは『タックスヘイブン』つまり税金ぜいきん逃れの場所になっていて、全世界のとみの半分を独占どくせんしていると書かれていました。それで、貧しい人々にそのしわせがきているみたいです。シルトが暴れている理由はそこにあるかもしれません・・・」

「そんな・・・!でも、税金逃れは現実界リアリティでも問題になっているんだよ。それが原因で貧困ひんこん格差かくさなどが広がって、テロリズムが起こっている原因の一つになっているんだ・・・!」すぐるがこう言うと、リリスが叫びます。

「だが、暴力によって金品を巻き上げたり、罪のないわらしたちをさらうなど、もってのほかじゃ!」
「そうだね・・・さて、今日の依頼を見てみよう」エルニスが便利屋の依頼書を見てみると、エルニスとキャンベルには、たくさんの依頼が来ており、ボブとシェリーも残って、すぐるとリリスは王城に来てほしいと出ていたので、すぐるとリリスは北の王城へと足を運びました。

 すぐるとリリスが城に入り、玉座の間に着くと、そこには自警団のキーパー協会に所属する、緑のブレザーと黒いスカートを着用して、長い黒髪くろかみをポニーテールにしたエルフの少女テイルと、その恋人で、白いローブとバケツの様な青い帽子を着用した銀髪ショートヘアーにした白魔導士しろまどうしの少年カインがいたのです。
「あれ?テイルさんとカインさんも呼ばれていたんだ・・・」

「あら、すぐるにリリスじゃない」四人がそろったところで、赤いコートを着込み、白いひげをたくわえた王様が話し始めました。
「うむ、皆の者、来てくれて本当にありがたい、さて、わしはお主たちに助けてもらいたい。ここより北にある国トランバニアでは、あのシルトが暴れまわっているのは知っておろう」

「はい」
「メガロのやつ・・・子供たちをさらうなんて・・・許せないわね・・・!」すぐるとテイルがこう言うと、王様は話を続けます。
「そこでだ、お主たちには、トランバニアからさらわれた子供たちを救い出してほしい。調べてみたところ、あの海賊団シルトは、北の国『ラップランド』を根城にしていることが分かったのじゃ」
「わかりました。すぐにそちらに向かいます」
「それと・・・シルトの首領メガロは、こんなメモをほどこしていった・・・」王様がすぐるに一枚のメモ紙を渡すと、すぐるはすぐにそれを広げ、4人で見てみました。

『ラップランドのとなりにあるミューダス国にかくしたシルトの財宝ざいほうを探し出せ、そうすれば、全ての真実が明らかになる』と、書かれていました。
「こんな時に、宝さがしをしろと言うわけ・・・!?ふざけているわ・・・!」テイルが体を怒りにふるえさせていると、カインが言いました。
「でも、他に手がかりがないから、そこに行くしかないか・・・」すぐるも言います。

「シルトの財宝・・・一体何なんだろう・・・?メダル・・・?それとも神器かな・・・?」
「なんでもよい!いよいよシルトとの決着をつける時が来たのじゃ!今すぐ北の方へ行こうぞ!」こうして、すぐる、リリス、テイル、カインの四人が北の国々を目指してスピネル城を後にしたのでした。

 すぐるたちはまず、ミューダス国に行くために、スピネルの北にある国、ゴーシャ国を目指して、晴れ渡る空のもと、草原の道を進んで行きました。すると目の前に、赤いドレスをまとい、長い赤毛をお下げにしている、大きなハサミをかかえたつり目の少女が、そまつな服を着た筋骨きんこつたくましい男と共に現れました。

「あれ?誰だろう?」すぐるが言うと、テイルが言いました。
「彼女はスカーレットって言ってね、もと怪物ハンターで、今は私たちと同じキーパーよ。そして、あの男は、彼女のパートナーのジェイソンよ」

「へえ、そうなんだ」すぐるがそう言うと、スカーレットとジェイソンのバディは、テイルたちに気づき、足を止めて話しかけてきます。
「あれ?テイルとカインかい?何だか見慣みなれないヤツもいるけど・・・」
「ぼくはすぐるです。こっちはパートナーのリリス、これからゴーシャに向かう所です」

「そうかい、アタシらはトランバニアの方に行くところさ・・・」
「そうなんですか・・・それじゃ・・・」すぐるたちはスカーレットやジェイソンと別れようとすると、スカーレットが去りぎわにこう言いました。
「くれぐれも幻想界平和連盟には気をつけな!」

「えっ!?あの連盟に気をつけろって・・・!?」
「幻想界平和連盟は、平和のための世界的な組織よ!?代表のメシア女史じょしもよい方なのに・・・!」カインとテイルがこう言うと、すぐるが言います。
「・・・メガロやフレイヤさんと同じことを言っていたな・・・!」
「一体、何が真実なのじゃ!?わからぬことが多すぎるわ!」すぐるたちは気を取り直して、北のゴーシャへの旅を再開しました。
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