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5章 慈愛の章

王城奪還

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 翌朝、スピネル王都では大騒ぎになっていました。突如とつじょ、大きな緑色のドラゴンが現れ、町中で暴れはじめたのです。これに、帝国のゴブリンが弓矢を放ったり、オークが棍棒こんぼう)るったり、リザードマンが曲がった刀と言った武器を振るいますが、ドラゴンの鉄よりもかたい緑色のうろこの前では、てんで効いておらず、ドラゴンは尻尾やカギ爪が付いた腕を振るったり、赤く燃える炎を吐きだしたりして、カオス帝国の者たちを次々と、け散らしてしまいます。後から現れた三人組のゴブリンやスピネルの兵たちも加わり、今、スピネル王都は大混乱していました。

 ウェルダーやゴブリン三兄弟たちが王都で暴れまわっているすきに、エルニス、キャンベル、すぐる、リリスの4人は、砦の北の方にある鉱山町マインズの方に行き、ひそかにり進めてあったトンネルを通り、手薄てうすになった王城の地下を目指して進んでいました。そして、土壁から石を組み上げた地下室の壁に変わると、エルニスたちは城の地下牢に出て、そこには逃げ遅れた兵士やメイドや執事しつじたちが囚われています。エルニスは電気を帯びたツメで牢の扉を破壊し、キャンベルと共に、トンネルから囚人たちをにがしていき、すぐるとリリスは、城の玉座ぎょくざの間を目指して行きます。

 玉座の間に通じる階段の前に、高貴な青い服とズボンをまとった金髪のショートヘアーの男性が立っていて、すぐるとリリスは驚きました。
「あなたはクラウス王子!なぜここに!?」
「すまぬ、そこを通してくれぬか!?」すると、クラウス王子はこう言います。

「それはできない。我々の邪魔をするなら、この場でり捨てるのみだ!」クラウス王子は剣を抜き、すぐるたちにおそい掛かってくると、すぐるも聖木せいぼくの杖で受け止めます。

「今、我々って言った!?じゃあ、もしかして・・・!」
「そうさ、ぼくはもう帝国の一員だ!ぼくはレイドと戦い、敗北はいぼくした。それでレイドはこう言った、我々に従えば、ぼくをこの国の王にしてやると・・・!」
「そんな・・・!それでみんなを裏切るなんて・・・!」すぐるがこう言うと、クラウス王子はこう言い放ちます。

 「ぼくはレイドに負けて、死を覚悟かくごした・・・!しかし、ヤツはぼくに生きるチャンスをくれた。逆らえば、その先にあるのは死だ!その時、ぼくは痛感つうかんした。自由とは『力』のある勝者のみに許された特権であると!『力』のない弱者は、強者にしたがうしかないと!『力』こそ、この世界の唯一にして絶対の法であると!それに父上が、ぼくより『力』のおとるアイリスを次期国王に選んだ事も気に入らなかった!王に必要なのは『力』だ!それが分からないのなら、この手で始末するだけだ!」クラウス王子が向かってくると、リリスがおどり出て、炎の魔力で右腕を強化し、クラウス王子の剣を受け止めました。

「・・・このたわけが!そんなの、本当の自由ではない!お前は本当にそれでよいのか!」リリスはクラウス王子の横っ腹にミドルキックを叩きこむと、クラウスはられた場所を手で押さえます。
「なるほどな、それならヤツに負けたのもうなづけるわ!なぜなら、お主が弱いからじゃ!」リリスがこう言い放つと、クラウス王子はいきりたちます。

「な、何だと!?」クラウスは怒りに任せて剣をやたら振り回しますが、どれもリリスにはかすりもしません。
「なぜだ・・・?なぜ当たらない・・・!?」
「お前のような半人前の刃など、妾には通じぬ!毒や魔眼まがんを使うまでもない!」そして、リリスがこぶしをクラウス王子の顔面の前で寸止すんどめすると、クラウス王子は力なく剣を落とし、その場にへたり込みます。

「すぐる、ここは妾に任せて、お主は玉座の間へ!」
「ありがとう、リリス!」
 
 すぐるが階段をけ上がり、玉座の前にたどり着くと、玉座によろいに身を固めた短髪のエルフの戦士、レイドが座っていました。
「ほう、ここまで来るとはな、あのクラウスも、少しはできると思ったが、やはり、敗者に使い道はなかったというわけか・・・!ここに来たという事は、この城を取り戻しに来たというわけか・・・!」

 レイドが剣を抜くと、すぐるも額に汗を浮かべ、じっと相手を見ながら杖をかまえます。そして、間もなく剣と杖がぶつかり合う音がひびき合います。すぐるはまず、覇者はしゃのメダルの効果で肉体を強化することで、レイドと互角ごかくの打ち合いを始めます。しかし、それではなかなか勝負がつかず、すぐるはあせります。

(レイドの動きには、まるですきがない・・・!こんなヤツに勝つには、動きを封じるしか・・・!でも・・・どうやって・・・!?)そして、肉体強化の効果が切れて、すぐるは後ろにふっとばされてしまいます。そして、レイドがすぐるに剣を向けました。
「勝負あったな・・・!」すぐるはポケットから落ちた赤色の宝石みたいな『隠者いんじゃのメダル』を手に取ると、杖をレイドに向けました。すると、杖の先からオレンジ色のフラッシュが放たれ、レイドの眼をくらませます。

「うっ・・・!」レイドは剣を落とし、その場にへたり込みます。
「何だ・・・体が痺(しび)れて・・・!?」
「これは・・・リリスの魔眼の効果・・・?チャンスだ!」すぐるは『賢者のメダル』の効果で光と熱の爆発を起こし、レイドを思いっきり吹っ飛ばしました。

「くっ・・・!姑息こそくなマネを・・・!」レイドはゆっくりと立ち上がると、玉座の間に、リリスの他、スピネルの兵や幻想界平和連盟ファンタジアへいわれんめいの聖騎士たちが現れたのです。
「そこまでだ!我々連盟がある限り、お前たち帝国の好きにはさせん!外のお前の部下たちは全て倒したぞ!」これにスピネルの兵が言います。
形勢けいせいが不利になった時に、連盟が現れて助かったぞ!」数の差で勝ち目なしとレイドは窓から逃げ出し、ようやくスピネル城を取り戻すことが出来たのです。

 翌日、すぐるとリリスとエルニスとキャンベルは玉座の前に呼ばれ、王様と話をしています。
「すぐる、リリス、エルニス、そしてキャンベル、お前たちと連盟のおかげでわしは世界会議サミットに参加でき、この国を取り戻すことができた。お主たちには報酬ほうしゅうとして、合計四万ゴールドを払おう。さて、クラウス王子の処分をどうするか・・・」同じく玉座の前にいるクラウス王子は、ぎゅっと目を閉じ、うなだれています。

「クラウスよ、これでよくわかったじゃろう。なぜ、わしがアイリスを次期国王に選んだのか、お主は力だけを信じたが、アイリスは知恵と勇気と正義で皆をみちびき、力を合わせて帝国を破ることができたのだから」
「・・・はい・・・」
「そこで、クラウス王子には、この町の学校に通い、国民たちと一緒に多くを学んでもらう!」
「・・・わかりました」クラウス王子は静かに玉座の間を後にしました。
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