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5章 慈愛の章

慈愛の使徒

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 『偽フレイヤ、ヘリオポリスを去る!昨日、ヘリオポリスをさわがせていた魔法使いのボス、フレイヤの正体は混沌の帝国カオスエンパイアの幹部が化けたニセモノである事が判明した。やつは連盟が魔法族の支配をもくろんでいると宣言せんげんし、魔法使いたちを扇動せんどうしようとしたとの事。連盟代表のメシア女史じょしは『共存法は、魔法族を人間と対等の存在として認める法であり、魔法族を従属じゅうぞくさせる法ではない』と釈明しゃくめいしている』エルニスたちはレジスタンスアジトで、今日の新聞『ヘリオスミラー』の一面記事を読んでいました。

「これは、昨日の事だね」
「『共存法は、魔法族を人間と対等の存在として認める法である』なんて書いてあるけど、実際はそうじゃないのに・・・!」
「でも、姉さんの偽物だとわかって、ぬれぎぬが晴れたから、まあいいじゃないですか」キャンベルがこう言うと、フレイヤは今日の行動計画を話し始めます。

「さて、今日はメアリ大統領の救出作戦を開始します。皆さんの調査のおかげで、メアリ大統領は、現在、ホワイト団の本部アジトになっている北のブルジョワ家のお屋敷にとらわれていることが分かりました。そこには、他にも多くの魔法族がとらわれていることもわかっていて、本日、屋敷前でホワイト団員はヘリオシティ市民が見ている所で、魔法族を公開処刑しょけいすることも分かっています。そこで、エルニスとキャンベルは裏口から侵入し、囚われている魔法使いたちを救出する、残りのみんなは、屋敷前に集まり、みんなが処刑されるのをジャマするのです!さあ、行動開始です!」レジスタンスの者たちは、全て町の北にあるブルジョワ家のお屋敷を目指しました。

 ヘリオシティの北の方に、白い石を組み上げて造られた、青い屋根のブルジョワ家の屋敷があります。かつて、ヘリオポリス周辺の南一帯を支配していた一族のお屋敷です。その正面玄関の前の壇上だんじょうには、白装束と白い覆面をつけたホワイト団員たちが、青い異国の服をまとう、聡明な顔立ちの中年女性と、ローブをまとった何人もの魔法使いたちの周りに立っていました。女性と魔法使いたちは皆、柱に縛(しば)り付けられています。その壇上を見上げているのは、多くのヘリオポリス市民たちです。真ん中にいる、ホワイト団のリーダーらしき男が、右手を上げると、ざわついていた群衆ぐんしゅうが静かになります。

「皆の諸君!ついに待ちに待った時が来た!思えば我らがヘリオポリスは魔王軍、イルミナティ、そして、カオス帝国の魔法使いたちにより痛めつけられてきた!こんな事が立て続けに起こり、我々は確信かくしんした!やはり、魔法族と人間が共存するのは難しいと!しかし、そんな魔法族にこび売ってきたメアリ元大統領の暗黒時代も終わる!これより、メアリ元大統領と反逆魔法族の処刑をとり行う!そして、そのあかつきには、私がヘリオポリスの新リーダーとなり、魔法族を狩りだすほこり高き聖戦せいせん、『魔女狩り』を推奨すいしょうしましょう!魔法族のいない秩序ちつじょある人間社会を取り戻すまで!さあ、ヘリオポリス市民たちよ、我々ホワイト団の元に集え!」リーダーがこうしめくくると、群衆の中で大歓声かんせいが上がります。

「では、これより、反逆者たちの公開処刑を開始する!」大きな刀を持ったホワイト団員たちが、メアリ大統領や魔法使いたちに刀をふり上げたその時でした。
 突然とつぜん、壇上の周りで次々に爆発が起こり、群衆やホワイト団員たちは混乱しました。

「な、何事だ!?」突如、フレイヤやレジスタンスの者たちが大挙たいきょして現れ、周りにいた者たちは大混乱しました。刀を持ったホワイト団員たちはレジスタンスに向かって行きましたが、レジスタンスも、警棒けいぼうや剣を振りかざして応戦おうせんし、フレイヤも炎の魔法やムチでホワイト団員たちを翻弄ほんろうします。そうやって行くうちに、ホワイト団員たちは、恐れをなして逃げ出したり、やられていくばかりで、ついには、リーダー一人になってしまいました。取り囲まれたリーダーは、ナイフを取り出し、メアリ大統領を人質にしようとしますが、捕まっていた人質たちは全員、なわを切られていて、自由になり、エルニスやキャンベル、捕まっていた他の魔法使いたちと一緒に、リーダーを取り囲み、リーダーは、力なくへたり込みます。

「くそっ・・・!ここまでか・・・」メアリ大統領はリーダーの覆面をつかみ引き上げると、正体は黒いひげを生やしたショートヘアーの恰幅のいい男性でした。
「あなたは・・・アドルフ元大臣!なぜ、こんな事を・・・!」
「私は幼いころ、異種族や魔法族のやつらにいじめられ、怖い目にあった!それで、やつらに思い知らせてやろう!人間が無力でないことを知らしめてやろうとホワイト団を結成したのだ!このままにしておいたら、人間は破滅することになるぞ!」それを聞いたメアリ大統領はこう言います。

「そんなに異能者いのうしゃ(異種族と魔法使い)が嫌なら、誰も寄り付かない山奥なんかにでも行けばいいんです!そうやって世の中を恨んで幸せになれるとでも思ったんですか!?」こうして、ホワイト団リーダーであるアドルフ元大臣は捕えられたのです。

 その後、官邸ではアドルフ元大臣の処分について、長い話し合いが行われ、一室に閉じ込められていたアドルフ元大臣の元に、メアリ大統領がキャンベルを連れて言いました。
「アドルフ、長い話し合いの結果、あなたの処分が決まりました」アドルフ大臣は、全身から汗を出し、ふるえています。

「あなたにはこの官邸に務めている異能者と共に、清掃せいそう維持いじ管理かんりなどの下働きをしてもらいます!」予想外の決定を聞いたアドルフは唖然あぜんとします。
「これはここにいるキャンベルさんのアイディアです。他にも国外追放ついほう終身刑しゅうしんけいなどの意見もありましたが、それでは、また異能者に対する憎しみがすだけだと言い、皆と共に働くことで、共存のありがたさを知ってもらった方がいいという事で決定しました」それを聞いたアドルフは無言のまま涙を流し、静かに部屋を後にしました。キャンベルの手には、赤く、明るい光を放つ賢者のメダルがにぎられています。

 エルニスとキャンベルがメアリ大統領をエスコートして、リュッケンシルトに戻るべく、官邸の外に出ると、フレイヤが待っていました。
「キャンベル、エルニス、ありがとう。キャンベルのアイディアは本当に素晴らしいわ。ヘリオポリスは今、本当の意味で未来への第一歩を踏み出したわけね。南の賢者『朱雀』の名にふさわしい英断だわ」それを聞いたキャンベルは顔を赤らめて言います。

「そんな・・・大したことはしていませんよ・・・姉さんも一緒に行きましょう」これにはフレイヤは首を横に振ります。
「私はこれからもここで連盟や帝国の事について調査を続けるわ。これは私の直感だけど・・・あの『世界平和連盟』には、『うら』があるわ。気をつけて・・・!」

 ようやく、すぐるとリリスが教皇を、エルニスとキャンベルがメアリ大統領を連れてきたおかげで、『幻想界ファンタジア世界会議サミット』を始めることが出来ます。そして会議当日、各国のリーダーたちの話し合いで、あらゆることが話し合われました。その結果、やはり人と異能者が手を取り合わねば未来はない、帝国にはかなわないという結論にいたりました。それでゴーシャでは、帝国の本拠地ほんきょちになっているナイトロードに出向くための船の建造けんぞうを、スピネル国では食料や武器などの物資補給を、他の国々でも物資や同志をつのることにしたのです。そして、人間だけでなく、人と同じように知性と理性を持つ種族も『人類』とする世界的な法『人類法じんるいほう』の制定も必要との意見も出され、これはこれから先も考えて行こうという事で、第2回幻想界ファンタジア世界会議サミットまくを下ろしました。

 それで、各国のリーダーたちは、会議で決まった事を実行すべく、それぞれの国へと帰って行きます。エルニスたちもスピネル国に戻るべく、来た時と同じく、スピネル国王の乗る馬車をスピネル国まで護衛することとなりました。
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