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3章 自由の章

ホワイト団の襲撃

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 すぐるとボブが依頼で恐怖の森に出かけた時、
エルニスとキャンベルは人の姿になって学校、リリスとシェリーは店番をしています。

 今日は、ジャスパー学園の体育祭の日で、ジャスパー学園の校庭は、全校生徒とその保護者でごった返しています。
中等部のリレーの時、エルニスとキャンベルが所属するDグループは、ほかの3グループに遅れを取っていましたが、

最後にアンカーのエルニスにバトンが手渡されると、エルニスは一気に駆け出します。その瞬間しゅんかん
会場は熱気に包まれたのです。なぜならエルニスはBグループやCグループの選手を次々に追い抜いて行ったのですから。
その様子はまさにごぼう抜きと言う具合で、ゴール直前でAグループの選手を追い抜き、ゴールラインを超えると、
会場から歓声かんせいが上がりました。

「やったね!エルニス!」
「お前をアンカーにして正解だったぞ!」エルニスは中等部の男子生徒たちからもみくちゃにされました。
「そうさ!ぼくは『韋駄天いだてん』のエルニスだからね!」
エルニスはほこらしげに言うと、そばにいた女子生徒がこう言ったのです。

「な~にが韋駄天よ!『赤点』の間違いでしょ?テストで30点以上取ったことないくせに」
それを聞いたエルニスはがくっと肩を落とします。
「おいおい、そりゃないよ・・・」
「まぁ、体育は学年どころか学園でトップだけどね・・・!」

この後、エルニスは100メートル走でもトップでゴールし、騎馬戦でも騎手きしゅをつとめたりと
大活躍だいかつやくだったのです。

 そのころ、便利屋ではリリスとシェリーがテーブルを囲んで談話していました。
「ねぇ、リリスさん、わたくしたちが二人っきりになるのってこれが初めてじゃありません?」
「うむ、そういえばそうじゃな・・・妾も年の近い女子と話すのは久しいのぅ」
「うふふ、わたくし実は前からあなたの事が気になっていましたの」それを聞いたリリスは首をかしげます。

「妾の事が気になっておったじゃと?」
「ええ、だってリリスさんは誰にでも物おじせずに自分の意見を言えますし、腕っぷしも強いですし、
まるで、女王のような堂々たるふるまいもかっこいいですわ。
わたくしには真似まねできませんもの」それを聞いたリリスは口角があがります。

「それを言うなら、シェリーはおしとやかでエレガントじゃし、魔力も強いし、
妾もそんなお主にあこがれておるのだぞ」これを聞いたシェリーは顔を赤らめます。
「まぁっ、リリスさんったら・・・!」二人が談笑していると、
突然、出入り口のドアをけたたましくノックする音がし、リリスが開けると、
スピネル王城の兵士が慌てふためいた様子で入ってきたのです。

「大変だ!南海岸の砦がホワイト団に乗っ取られてしまったのだ!応援を頼みたい!」
これを聞いたリリスはすぐに席を立ちます。
「なんじゃと!?わかった、今すぐ向かおう!」リリスが一気に駆け出すと、シェリーも後を追います。
「待ってください!リリスさん!」

 二人が南海岸の砦に着くと、リリスは一直線に灯火室へと向かい、
シェリーもやっとの思いで追いつきました。灯火室では、白装束を着た三人組が、
赤いローブを着た灯台守の魔導士を人質にしていました。

「貴様ら!今すぐ人質を放し、ここから出ていくのじゃ!」リリスが仁王におう立ちで
ホワイト団の者たちを指さして叫びます。
「なんだ?魔族か!?それはできん!我々の理想のためだ!」

「理想!?なんですのそれは!?」シェリーも言います。
「我々は人間の人間による人間のための組織ホワイト団!理想はこの世界の浄化!
つまり、この世界から異種族や魔法使いたちを追い出すまでは決して引き下がらない!
まずはこの国の浄化が目的だ!」それを聞いたリリスは拳を握り、ファイティングポーズを取ります。

「なんじゃと!?そんなことはさせぬ!」
威勢いせいはいいな!やってしまえ!」
リーダー格のホワイト団員はほかの二人の団員をけしかけてきます。
しかし、リリスは警棒を振りかざしてくる団員一人に足払いをかけて、
バランスを崩したところにワンツーとパンチを決めて下し、
もう一人の警棒もリリスは左腕で警棒を防ぎ、右手の拳で敵の顔面にパンチを入れ、
ひるんだすきに、回し蹴りを叩き込んで下します。

「さぁ、後はお前だけじゃ!」リリスがリーダー格の団員に向かっていくと、
ホワイト団員はシェリーを盾にして来たのです。
「シェリー!?」シェリーは首筋に短刀が突き付けられ、
両腕には黒い手錠がかけられていたのです。

「おっと!これ以上暴れると、こいつの命もないぞ!
こいつにも灯台守と同じく封魔の手錠をかけてやった!
これをつけられた者は魔力が一切使えなくなる!形勢逆転だな!」
しかし、リリスは動じません。

「そんな姑息こそくな手が妾に通じると思うたか!?シェリー、目を閉じるのじゃ!」
リリスがそう叫ぶと、シェリーが目をつむった瞬間、
リリスの紫の瞳から赤い光が発せられ、
それを見たホワイト団員は体がマヒして、短刀を落とします。

「ま・・・魔族の・・・魔眼か・・・」ホワイト団員がその場でうずくまると、
リリスは持ち前の腕力でシェリーと灯台守の手錠を壊します。
「リリスさん!」シェリーは泣きながらリリスに抱き着きます。
「ありがとうございましたわ!」
「シェリーも無事で何よりじゃ!」リリスもシェリーを抱き返します。

 後からスピネルの兵士たちがやってきて、ホワイト団員三人は御用となりました。
「いや~、本当にありがとう、悪魔族にもあなたのような者もいたのですね」
灯台守はリリスにお礼を言いました。
「なに、大したことではない!」これに、
となりにいたシェリーは首を横に振って言います。
「いいえ!リリスお姉さまの立ち振るいは、
誰にでもできることではありませんわ!」これにリリスはハッとします。

「・・・お主、妾の事をお姉さまと呼んだの?」
「ええ、今度からあなたの事をそう呼ばせていただきますわ。
姉妹のいないわたくしにとって、あなたは姉と呼べる存在ですもの!」
シェリーは目を輝かせて言うと、リリスは照れ臭さとうれしさで
顔を赤くしながらこう言います。
「・・・そうか、ありがとうの!」
リリスとシェリーは固く握手を交わしました。
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