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正攻法ではない方法
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俺の思考は領主寄りなので、荘の代官や名主の目論見はわかる。
荘が広がればそれまであった施設の利便性も変わってくるので、より便利な場所に主要施設を移設したいと考えるのは当然のことだ。その上で、一等地は言わないまでも二等地くらいの場所に小規模なスラム街的な場所ができかけていれば、大きくなる前にぶっ壊してやろうと考えるのも当然のことだ。
理に適っている。圧倒的に理に適っている。
そこから追い立てられる者たちのことを考えなければ。
そして、今回追い立てられる者たちの多くは、この領から領民として認められていないものたちなのである。
……うん。どう考えても、為政者側に非がないんだよなあ。
元の世界にもこれに近い事例は数多あったが、人道や人権という思想が現実の執行に枷を嵌めていた。法的に問題がなくとも対象者の人権や人道的配慮というものが世論で求められていて、多くの人の目を気にした上での執行が求められた。個人的に是非を問うことはしないし、そういった思想が悪用されている面も多々あったが、一定の抑止力になっていたことだけは確かだろう。
そういった抑止力が、この世界にはない。だからこそ、ミンボーは勇気を振り絞って、この話を俺のところまで持ち込んだのだろう。
何とかしてやりたい、とは思う。だが、俺はただの領主の次男坊だ。俺自身にできることは何もないし、仮にこの話をそのまま親父のところへ持ち込んだところで、よい方向へ転ぶとも思えない。
領主を動かすなら、犬人の流民を助けることが領の利益になる方法を提示しなければいけない。そのようなことが、可能なのだろうか?
正攻法では無理だ。何か別の方法を見つけないと。
考えろ。俺は、悪の組織のボスを目指すのだろう? 正攻法でない、抜け道を探すんだ。
悪の組織……。表の仕事と裏の仕事……。
裏の仕事……イストリアとの繋がり……密輸……?
うん。俺の中で、一つの組織図が、ぼんやりとだが構築されてきた。
本件もそうだが、領政というのは、きれいごとだけでは回らないものだ。我らがパワーズ領もここらで一つくらい、裏の組織を抱えてもいいんじゃないだろうか?
それに、この方向は、俺の願望とも合致する。ぜひともプッシュしておきたい。脳内で元カヴェノが非常にイヤそうな顔をしているが、気にするものか。
「あの……どうした、です」
ミンボーがおずおずと尋ねてくる。いかんいかん、この素晴らしい思い付きに、つい笑みを浮かべてしまっていたらしい。
「いやなに、ちょっといい方法を思いついてね。上手くいくかわからないけど……もしかしたら、何とかなるかもしれない」
「本当か! ……です」
思わずといった感じでミンボーが立ち上がる。
「いやまだわかんないから。思いついただけだから。落ち着いて」
あと、いい加減その無理矢理な敬語は話しにくそうだからいいよ。ううむ。上手くいくかどうかわからないのに、希望を持たせてもなあ。
「まあちょっと思いついたことがあるから、進言はしてみる。でも、実際にどうなるかはわからない。僕にできるのはそこまでだ。それでもいい?」
ミンボーは慌ててコクコクと首を縦に振った。その仕草には年頃っぽい感じが垣間見える。できるだけ大人に見えるように振舞っているんだろうな。
ともかく、この話はいったん俺が預かることとして、彼女との突発的会談は終わった。
いやまさか、上着一枚がこれほどの大事になろうとは。次からは本当に気をつけよう。
だけどこの話、持ち込むとしたら父上よりは母上だなあ。母上へのプレゼン……俺にできるのか?
荘が広がればそれまであった施設の利便性も変わってくるので、より便利な場所に主要施設を移設したいと考えるのは当然のことだ。その上で、一等地は言わないまでも二等地くらいの場所に小規模なスラム街的な場所ができかけていれば、大きくなる前にぶっ壊してやろうと考えるのも当然のことだ。
理に適っている。圧倒的に理に適っている。
そこから追い立てられる者たちのことを考えなければ。
そして、今回追い立てられる者たちの多くは、この領から領民として認められていないものたちなのである。
……うん。どう考えても、為政者側に非がないんだよなあ。
元の世界にもこれに近い事例は数多あったが、人道や人権という思想が現実の執行に枷を嵌めていた。法的に問題がなくとも対象者の人権や人道的配慮というものが世論で求められていて、多くの人の目を気にした上での執行が求められた。個人的に是非を問うことはしないし、そういった思想が悪用されている面も多々あったが、一定の抑止力になっていたことだけは確かだろう。
そういった抑止力が、この世界にはない。だからこそ、ミンボーは勇気を振り絞って、この話を俺のところまで持ち込んだのだろう。
何とかしてやりたい、とは思う。だが、俺はただの領主の次男坊だ。俺自身にできることは何もないし、仮にこの話をそのまま親父のところへ持ち込んだところで、よい方向へ転ぶとも思えない。
領主を動かすなら、犬人の流民を助けることが領の利益になる方法を提示しなければいけない。そのようなことが、可能なのだろうか?
正攻法では無理だ。何か別の方法を見つけないと。
考えろ。俺は、悪の組織のボスを目指すのだろう? 正攻法でない、抜け道を探すんだ。
悪の組織……。表の仕事と裏の仕事……。
裏の仕事……イストリアとの繋がり……密輸……?
うん。俺の中で、一つの組織図が、ぼんやりとだが構築されてきた。
本件もそうだが、領政というのは、きれいごとだけでは回らないものだ。我らがパワーズ領もここらで一つくらい、裏の組織を抱えてもいいんじゃないだろうか?
それに、この方向は、俺の願望とも合致する。ぜひともプッシュしておきたい。脳内で元カヴェノが非常にイヤそうな顔をしているが、気にするものか。
「あの……どうした、です」
ミンボーがおずおずと尋ねてくる。いかんいかん、この素晴らしい思い付きに、つい笑みを浮かべてしまっていたらしい。
「いやなに、ちょっといい方法を思いついてね。上手くいくかわからないけど……もしかしたら、何とかなるかもしれない」
「本当か! ……です」
思わずといった感じでミンボーが立ち上がる。
「いやまだわかんないから。思いついただけだから。落ち着いて」
あと、いい加減その無理矢理な敬語は話しにくそうだからいいよ。ううむ。上手くいくかどうかわからないのに、希望を持たせてもなあ。
「まあちょっと思いついたことがあるから、進言はしてみる。でも、実際にどうなるかはわからない。僕にできるのはそこまでだ。それでもいい?」
ミンボーは慌ててコクコクと首を縦に振った。その仕草には年頃っぽい感じが垣間見える。できるだけ大人に見えるように振舞っているんだろうな。
ともかく、この話はいったん俺が預かることとして、彼女との突発的会談は終わった。
いやまさか、上着一枚がこれほどの大事になろうとは。次からは本当に気をつけよう。
だけどこの話、持ち込むとしたら父上よりは母上だなあ。母上へのプレゼン……俺にできるのか?
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