23 / 23
正攻法ではない方法
しおりを挟む
俺の思考は領主寄りなので、荘の代官や名主の目論見はわかる。
荘が広がればそれまであった施設の利便性も変わってくるので、より便利な場所に主要施設を移設したいと考えるのは当然のことだ。その上で、一等地は言わないまでも二等地くらいの場所に小規模なスラム街的な場所ができかけていれば、大きくなる前にぶっ壊してやろうと考えるのも当然のことだ。
理に適っている。圧倒的に理に適っている。
そこから追い立てられる者たちのことを考えなければ。
そして、今回追い立てられる者たちの多くは、この領から領民として認められていないものたちなのである。
……うん。どう考えても、為政者側に非がないんだよなあ。
元の世界にもこれに近い事例は数多あったが、人道や人権という思想が現実の執行に枷を嵌めていた。法的に問題がなくとも対象者の人権や人道的配慮というものが世論で求められていて、多くの人の目を気にした上での執行が求められた。個人的に是非を問うことはしないし、そういった思想が悪用されている面も多々あったが、一定の抑止力になっていたことだけは確かだろう。
そういった抑止力が、この世界にはない。だからこそ、ミンボーは勇気を振り絞って、この話を俺のところまで持ち込んだのだろう。
何とかしてやりたい、とは思う。だが、俺はただの領主の次男坊だ。俺自身にできることは何もないし、仮にこの話をそのまま親父のところへ持ち込んだところで、よい方向へ転ぶとも思えない。
領主を動かすなら、犬人の流民を助けることが領の利益になる方法を提示しなければいけない。そのようなことが、可能なのだろうか?
正攻法では無理だ。何か別の方法を見つけないと。
考えろ。俺は、悪の組織のボスを目指すのだろう? 正攻法でない、抜け道を探すんだ。
悪の組織……。表の仕事と裏の仕事……。
裏の仕事……イストリアとの繋がり……密輸……?
うん。俺の中で、一つの組織図が、ぼんやりとだが構築されてきた。
本件もそうだが、領政というのは、きれいごとだけでは回らないものだ。我らがパワーズ領もここらで一つくらい、裏の組織を抱えてもいいんじゃないだろうか?
それに、この方向は、俺の願望とも合致する。ぜひともプッシュしておきたい。脳内で元カヴェノが非常にイヤそうな顔をしているが、気にするものか。
「あの……どうした、です」
ミンボーがおずおずと尋ねてくる。いかんいかん、この素晴らしい思い付きに、つい笑みを浮かべてしまっていたらしい。
「いやなに、ちょっといい方法を思いついてね。上手くいくかわからないけど……もしかしたら、何とかなるかもしれない」
「本当か! ……です」
思わずといった感じでミンボーが立ち上がる。
「いやまだわかんないから。思いついただけだから。落ち着いて」
あと、いい加減その無理矢理な敬語は話しにくそうだからいいよ。ううむ。上手くいくかどうかわからないのに、希望を持たせてもなあ。
「まあちょっと思いついたことがあるから、進言はしてみる。でも、実際にどうなるかはわからない。僕にできるのはそこまでだ。それでもいい?」
ミンボーは慌ててコクコクと首を縦に振った。その仕草には年頃っぽい感じが垣間見える。できるだけ大人に見えるように振舞っているんだろうな。
ともかく、この話はいったん俺が預かることとして、彼女との突発的会談は終わった。
いやまさか、上着一枚がこれほどの大事になろうとは。次からは本当に気をつけよう。
だけどこの話、持ち込むとしたら父上よりは母上だなあ。母上へのプレゼン……俺にできるのか?
荘が広がればそれまであった施設の利便性も変わってくるので、より便利な場所に主要施設を移設したいと考えるのは当然のことだ。その上で、一等地は言わないまでも二等地くらいの場所に小規模なスラム街的な場所ができかけていれば、大きくなる前にぶっ壊してやろうと考えるのも当然のことだ。
理に適っている。圧倒的に理に適っている。
そこから追い立てられる者たちのことを考えなければ。
そして、今回追い立てられる者たちの多くは、この領から領民として認められていないものたちなのである。
……うん。どう考えても、為政者側に非がないんだよなあ。
元の世界にもこれに近い事例は数多あったが、人道や人権という思想が現実の執行に枷を嵌めていた。法的に問題がなくとも対象者の人権や人道的配慮というものが世論で求められていて、多くの人の目を気にした上での執行が求められた。個人的に是非を問うことはしないし、そういった思想が悪用されている面も多々あったが、一定の抑止力になっていたことだけは確かだろう。
そういった抑止力が、この世界にはない。だからこそ、ミンボーは勇気を振り絞って、この話を俺のところまで持ち込んだのだろう。
何とかしてやりたい、とは思う。だが、俺はただの領主の次男坊だ。俺自身にできることは何もないし、仮にこの話をそのまま親父のところへ持ち込んだところで、よい方向へ転ぶとも思えない。
領主を動かすなら、犬人の流民を助けることが領の利益になる方法を提示しなければいけない。そのようなことが、可能なのだろうか?
正攻法では無理だ。何か別の方法を見つけないと。
考えろ。俺は、悪の組織のボスを目指すのだろう? 正攻法でない、抜け道を探すんだ。
悪の組織……。表の仕事と裏の仕事……。
裏の仕事……イストリアとの繋がり……密輸……?
うん。俺の中で、一つの組織図が、ぼんやりとだが構築されてきた。
本件もそうだが、領政というのは、きれいごとだけでは回らないものだ。我らがパワーズ領もここらで一つくらい、裏の組織を抱えてもいいんじゃないだろうか?
それに、この方向は、俺の願望とも合致する。ぜひともプッシュしておきたい。脳内で元カヴェノが非常にイヤそうな顔をしているが、気にするものか。
「あの……どうした、です」
ミンボーがおずおずと尋ねてくる。いかんいかん、この素晴らしい思い付きに、つい笑みを浮かべてしまっていたらしい。
「いやなに、ちょっといい方法を思いついてね。上手くいくかわからないけど……もしかしたら、何とかなるかもしれない」
「本当か! ……です」
思わずといった感じでミンボーが立ち上がる。
「いやまだわかんないから。思いついただけだから。落ち着いて」
あと、いい加減その無理矢理な敬語は話しにくそうだからいいよ。ううむ。上手くいくかどうかわからないのに、希望を持たせてもなあ。
「まあちょっと思いついたことがあるから、進言はしてみる。でも、実際にどうなるかはわからない。僕にできるのはそこまでだ。それでもいい?」
ミンボーは慌ててコクコクと首を縦に振った。その仕草には年頃っぽい感じが垣間見える。できるだけ大人に見えるように振舞っているんだろうな。
ともかく、この話はいったん俺が預かることとして、彼女との突発的会談は終わった。
いやまさか、上着一枚がこれほどの大事になろうとは。次からは本当に気をつけよう。
だけどこの話、持ち込むとしたら父上よりは母上だなあ。母上へのプレゼン……俺にできるのか?
0
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
俺の娘、チョロインじゃん!
ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ?
乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……?
男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?
アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね?
ざまぁされること必至じゃね?
でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん!
「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」
余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた!
え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ!
【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる