20 / 23
予期せぬ再開
しおりを挟む
学院への入学はたやすく認められた。
というか、貴族子女の入学は基本的には撥ねられることはない。特別な試験などはなく、当主本人からの認状と、ほか一名の貴種からなる推薦状が揃っていれば、それだけでいい。
貴族にとって学院は、入学するには容易いところだ。ただし、五年の学業を満了して卒業できるのはその半数にも満たないが……。
ちなみに俺の推薦状は、神殿長が直々に出してくれた。高位司祭の推薦状は、低位貴族の推薦状なんぞよりはずっとずっと格が高い。後のことを考えれば受けるのは大変恐ろしいのだが、不義理を働いた俺に対して、不快に思っていませんよと示してくださる態で差し出されたものを断るわけにもいかない。これが政治ってやつか……。恐ろしい。
やっぱり間違っても領主になんてなるもんじゃないな! 姉と兄貴がいてくれてよかった!
そんなわけで俺は今、学院への入学準備に忙しいのだが、そんなときに限ってトラブルというのは持ち上がるものだ。
「坊ちゃまにお会いになりたいという者が門に来ています」
「俺に?」
マルサに告げられてはじめは訝しく思った。正直に言って、俺の交友関係は広くない。屋敷の人間以外なら、貴族の子弟や神殿関係者くらいだが、どちらも常ならば訪問の際には先触れがある。
あと、知らせを持ってきたマルサの俺を見る目がどことなく冷ややかだ。近頃は特に問題を起こしていないはずなのに。
「……誰?」
「名前は申しませんが、獣人の娘です」
それを聞いて血の気が引く。獣人の娘と聞いて思い浮かぶのは、ひとりしかいない。
「……その子、俺の名前を出したの?」
「いえ。門衛が問い質したところ、以前なくしたとわたくしにおっしゃられた坊ちゃまの上着をお持ちでした」
俺は両手で顔を覆った。あかん。これ、完全にバレてる……。
「どういたしましょう。追い返しますか?」
冷えた視線のままマルサが問うてくるが、そういうわけにもいかないだろう。
「会う。会います。ええと……庭に茶席を用意してもらっても大丈夫?」
「よかろうかと存じます。ただ今支度を」
半刻ほど待たせて、庭に最低限度の格式での茶席を用意した。先に腰かけて待っていると、案内されてきたのはやはりあのときの、金瞳赤毛の犬人娘だった。犬人の表情はわかりにくいけど、俺の顔を見ると少し驚いたような感じに見えた。日除けを吊るしたテーブルのそばまではやってきたが、どうしていいのかわからず、持ってきた上着を両腕に抱えたまま突っ立っている。
「やあ、久しぶり。荘であって以来だね」
どうしていいのかわからないのは俺も一緒だったので、できるだけ気さくに聞こえるように声を掛けたが、彼女は何をするでもなく突っ立ったままだ。
まあ仕方ないよな。この世界だと貴族と平民ってのは住む世界が違うのだ。それがうちのような木っ端貴族であったとしてもだ。
特に彼女たちのような生業では、貴族に関わることなんて全力で避けたい事態であるはずだった。
そんな彼女が、こんなところまで来ている。何か事情があると判断すべきだろう。
というか、貴族子女の入学は基本的には撥ねられることはない。特別な試験などはなく、当主本人からの認状と、ほか一名の貴種からなる推薦状が揃っていれば、それだけでいい。
貴族にとって学院は、入学するには容易いところだ。ただし、五年の学業を満了して卒業できるのはその半数にも満たないが……。
ちなみに俺の推薦状は、神殿長が直々に出してくれた。高位司祭の推薦状は、低位貴族の推薦状なんぞよりはずっとずっと格が高い。後のことを考えれば受けるのは大変恐ろしいのだが、不義理を働いた俺に対して、不快に思っていませんよと示してくださる態で差し出されたものを断るわけにもいかない。これが政治ってやつか……。恐ろしい。
やっぱり間違っても領主になんてなるもんじゃないな! 姉と兄貴がいてくれてよかった!
そんなわけで俺は今、学院への入学準備に忙しいのだが、そんなときに限ってトラブルというのは持ち上がるものだ。
「坊ちゃまにお会いになりたいという者が門に来ています」
「俺に?」
マルサに告げられてはじめは訝しく思った。正直に言って、俺の交友関係は広くない。屋敷の人間以外なら、貴族の子弟や神殿関係者くらいだが、どちらも常ならば訪問の際には先触れがある。
あと、知らせを持ってきたマルサの俺を見る目がどことなく冷ややかだ。近頃は特に問題を起こしていないはずなのに。
「……誰?」
「名前は申しませんが、獣人の娘です」
それを聞いて血の気が引く。獣人の娘と聞いて思い浮かぶのは、ひとりしかいない。
「……その子、俺の名前を出したの?」
「いえ。門衛が問い質したところ、以前なくしたとわたくしにおっしゃられた坊ちゃまの上着をお持ちでした」
俺は両手で顔を覆った。あかん。これ、完全にバレてる……。
「どういたしましょう。追い返しますか?」
冷えた視線のままマルサが問うてくるが、そういうわけにもいかないだろう。
「会う。会います。ええと……庭に茶席を用意してもらっても大丈夫?」
「よかろうかと存じます。ただ今支度を」
半刻ほど待たせて、庭に最低限度の格式での茶席を用意した。先に腰かけて待っていると、案内されてきたのはやはりあのときの、金瞳赤毛の犬人娘だった。犬人の表情はわかりにくいけど、俺の顔を見ると少し驚いたような感じに見えた。日除けを吊るしたテーブルのそばまではやってきたが、どうしていいのかわからず、持ってきた上着を両腕に抱えたまま突っ立っている。
「やあ、久しぶり。荘であって以来だね」
どうしていいのかわからないのは俺も一緒だったので、できるだけ気さくに聞こえるように声を掛けたが、彼女は何をするでもなく突っ立ったままだ。
まあ仕方ないよな。この世界だと貴族と平民ってのは住む世界が違うのだ。それがうちのような木っ端貴族であったとしてもだ。
特に彼女たちのような生業では、貴族に関わることなんて全力で避けたい事態であるはずだった。
そんな彼女が、こんなところまで来ている。何か事情があると判断すべきだろう。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる