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予期せぬ再開
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学院への入学はたやすく認められた。
というか、貴族子女の入学は基本的には撥ねられることはない。特別な試験などはなく、当主本人からの認状と、ほか一名の貴種からなる推薦状が揃っていれば、それだけでいい。
貴族にとって学院は、入学するには容易いところだ。ただし、五年の学業を満了して卒業できるのはその半数にも満たないが……。
ちなみに俺の推薦状は、神殿長が直々に出してくれた。高位司祭の推薦状は、低位貴族の推薦状なんぞよりはずっとずっと格が高い。後のことを考えれば受けるのは大変恐ろしいのだが、不義理を働いた俺に対して、不快に思っていませんよと示してくださる態で差し出されたものを断るわけにもいかない。これが政治ってやつか……。恐ろしい。
やっぱり間違っても領主になんてなるもんじゃないな! 姉と兄貴がいてくれてよかった!
そんなわけで俺は今、学院への入学準備に忙しいのだが、そんなときに限ってトラブルというのは持ち上がるものだ。
「坊ちゃまにお会いになりたいという者が門に来ています」
「俺に?」
マルサに告げられてはじめは訝しく思った。正直に言って、俺の交友関係は広くない。屋敷の人間以外なら、貴族の子弟や神殿関係者くらいだが、どちらも常ならば訪問の際には先触れがある。
あと、知らせを持ってきたマルサの俺を見る目がどことなく冷ややかだ。近頃は特に問題を起こしていないはずなのに。
「……誰?」
「名前は申しませんが、獣人の娘です」
それを聞いて血の気が引く。獣人の娘と聞いて思い浮かぶのは、ひとりしかいない。
「……その子、俺の名前を出したの?」
「いえ。門衛が問い質したところ、以前なくしたとわたくしにおっしゃられた坊ちゃまの上着をお持ちでした」
俺は両手で顔を覆った。あかん。これ、完全にバレてる……。
「どういたしましょう。追い返しますか?」
冷えた視線のままマルサが問うてくるが、そういうわけにもいかないだろう。
「会う。会います。ええと……庭に茶席を用意してもらっても大丈夫?」
「よかろうかと存じます。ただ今支度を」
半刻ほど待たせて、庭に最低限度の格式での茶席を用意した。先に腰かけて待っていると、案内されてきたのはやはりあのときの、金瞳赤毛の犬人娘だった。犬人の表情はわかりにくいけど、俺の顔を見ると少し驚いたような感じに見えた。日除けを吊るしたテーブルのそばまではやってきたが、どうしていいのかわからず、持ってきた上着を両腕に抱えたまま突っ立っている。
「やあ、久しぶり。荘であって以来だね」
どうしていいのかわからないのは俺も一緒だったので、できるだけ気さくに聞こえるように声を掛けたが、彼女は何をするでもなく突っ立ったままだ。
まあ仕方ないよな。この世界だと貴族と平民ってのは住む世界が違うのだ。それがうちのような木っ端貴族であったとしてもだ。
特に彼女たちのような生業では、貴族に関わることなんて全力で避けたい事態であるはずだった。
そんな彼女が、こんなところまで来ている。何か事情があると判断すべきだろう。
というか、貴族子女の入学は基本的には撥ねられることはない。特別な試験などはなく、当主本人からの認状と、ほか一名の貴種からなる推薦状が揃っていれば、それだけでいい。
貴族にとって学院は、入学するには容易いところだ。ただし、五年の学業を満了して卒業できるのはその半数にも満たないが……。
ちなみに俺の推薦状は、神殿長が直々に出してくれた。高位司祭の推薦状は、低位貴族の推薦状なんぞよりはずっとずっと格が高い。後のことを考えれば受けるのは大変恐ろしいのだが、不義理を働いた俺に対して、不快に思っていませんよと示してくださる態で差し出されたものを断るわけにもいかない。これが政治ってやつか……。恐ろしい。
やっぱり間違っても領主になんてなるもんじゃないな! 姉と兄貴がいてくれてよかった!
そんなわけで俺は今、学院への入学準備に忙しいのだが、そんなときに限ってトラブルというのは持ち上がるものだ。
「坊ちゃまにお会いになりたいという者が門に来ています」
「俺に?」
マルサに告げられてはじめは訝しく思った。正直に言って、俺の交友関係は広くない。屋敷の人間以外なら、貴族の子弟や神殿関係者くらいだが、どちらも常ならば訪問の際には先触れがある。
あと、知らせを持ってきたマルサの俺を見る目がどことなく冷ややかだ。近頃は特に問題を起こしていないはずなのに。
「……誰?」
「名前は申しませんが、獣人の娘です」
それを聞いて血の気が引く。獣人の娘と聞いて思い浮かぶのは、ひとりしかいない。
「……その子、俺の名前を出したの?」
「いえ。門衛が問い質したところ、以前なくしたとわたくしにおっしゃられた坊ちゃまの上着をお持ちでした」
俺は両手で顔を覆った。あかん。これ、完全にバレてる……。
「どういたしましょう。追い返しますか?」
冷えた視線のままマルサが問うてくるが、そういうわけにもいかないだろう。
「会う。会います。ええと……庭に茶席を用意してもらっても大丈夫?」
「よかろうかと存じます。ただ今支度を」
半刻ほど待たせて、庭に最低限度の格式での茶席を用意した。先に腰かけて待っていると、案内されてきたのはやはりあのときの、金瞳赤毛の犬人娘だった。犬人の表情はわかりにくいけど、俺の顔を見ると少し驚いたような感じに見えた。日除けを吊るしたテーブルのそばまではやってきたが、どうしていいのかわからず、持ってきた上着を両腕に抱えたまま突っ立っている。
「やあ、久しぶり。荘であって以来だね」
どうしていいのかわからないのは俺も一緒だったので、できるだけ気さくに聞こえるように声を掛けたが、彼女は何をするでもなく突っ立ったままだ。
まあ仕方ないよな。この世界だと貴族と平民ってのは住む世界が違うのだ。それがうちのような木っ端貴族であったとしてもだ。
特に彼女たちのような生業では、貴族に関わることなんて全力で避けたい事態であるはずだった。
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