影の力で護ります! ~影のボスを目指しているのになぜだか注目されて困っている~

翠山都

文字の大きさ
上 下
10 / 23

影追い

しおりを挟む
 午前の勉学と剣術の鍛錬が終わると、自由時間になる。とはいえ俺が動ける範囲は限られていて、休息日には礼拝のための神殿への外出が認められているが、それ以外の日は館の敷地外へ出ることはまだ許されていない。近々乗馬の訓練がはじまるのでじきに解禁されるだろうが、今はまだだ。
 そして、俺は館の外へ出てみたくて仕方がなかった。
 こちらの世界にも『影追い(シャドウストーカー)』と呼ばれる鬼ごっこのような遊びがあって、今日はそれをするとマルサに告げた。俺の遊び相手は館の従僕やその子息たちで、いつも三、四人程度が交代で相手をしてくれる。これにマルサも加わるのだが、これはもちろん俺の監視のためだ。
「坊ちゃまは近頃、変わられましたねえ」
 俺のせいで近頃疲労の激しいマルサが大きなため息をついて嘆く。
「以前はこういったお外での遊びは、お好みでなかったはずですけど」
「状況が変わったからね」
 マルサが父上から家の内情をどれだけ聞いているかわからないが、俺が神殿に入るのを辞めて学院に通う予定になったことは、おそらく知らされているはずだ。
「剣術の鍛錬もはじまったしさ。体力をつけておかないと」
「それだけだとよろしいのですけど……。何か妙なことを企んではおられませんでしょうね」
 この一週間ほどでマルサの中のカヴェノ株はストップ安であるらしい。
 そしてごめんマルサ。実は企んでるんだ。
 マルサが影追い、いわゆる鬼役になったタイミングで、俺は行動を起こすことにした。
 俺の遊び場である中庭は訓練場に隣接していて、庭とはいっても高い樹木や花卉の類は少なく、いざという時に兵馬を駐留させられるよう、むしろ広場を大きく取ってある。庭園に植えられているものも食用になる果樹の類が占めているのも、貧乏男爵家の内情を表しているといえる。
 とはいえ男爵家としての見栄も大事だからな。一応は庭師なんかも入れて、客が眺めて回れるよう最低限の体裁は整えてあるわけだ。
 そんなわけで、中庭の奥、表から見えないところには、庭師や従僕が使う道具をしまっておくための納屋がある。この納屋には閂があって、使わないときは侵入できないよう閉じられているのだが、少しの間だけ道具を外に出すようなときには横着して閂が外されたままになっていることを、俺は知っている。
 俺は隠れ場所として、その納屋を目指した。
 前述のとおりこの影追いは、逃走や追跡、隠密の訓練も兼ねている。参加している従僕の中には猟師の息子なんかも含まれていて、彼やマルサにかかると俺がどれほどうまく隠れたつもりでも、あっさりと発見されてしまう。
 あまりに簡単に見つかるので聞いてみると、靴についた草や泥などですぐにわかるということだったので、隠れる前に靴底をぬぐったり泥を落としたりと工夫をしてみたが、まったく効果はなかった。どうやらもっと複合的な情報で追跡を行っているらしいが、その猟師の息子の話は感覚的なものが多く、俺にはわからなかった。足跡が別の色に見えるってなんだよ。同じ色にしか見えねえよ。
 マルサならもっと上手く教えてくれるだろうけど、聞いても答えてくれないからな……。
 まあどうせ素人の付け焼刃でプロやセミプロにかなうわけもない。そちら方面はおいおい訓練するとして。
 俺は納屋までやってきた。閂が外されたままになっているのは、事前に確認済みだ。
 扉を薄く開けて、中に滑り込む。明り取り用の窓は締め切られているため、納屋の中はほとんど光が入らない。いろいろなものが積み上げてあるから、隠れるにももってこいだ。
 まあだからこそ、真っ先に探されたりもするわけなんだが、ここで俺の魔術、『夜の帳』の出番だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...