8 / 23
魔術の修行
しおりを挟む
翌日、姉ヤミノの王都行きは一週間延期されたが、兄イオカルは予定通り王都へ向けて出発した。兄の顔は、心なしか昨日よりもさっぱりしたもののようにも見えた。父も何やら機嫌がよさそうだったから、昨晩あれから父と兄との間で前向きな話ができたのかもしれない。
兄が領地を継ぐことに本腰を入れるつもりになってくれたのなら、俺としても嬉しい。頼りないところもあるけれども、周りが支えてやればきっといい領主になるはずだ。
で、俺はといえばこの日から早速魔術の猛特訓がはじまった。
姉が言うには、まずは魔術の行使に足るだけの魔力量と、魔力放出量を身につけねばならんのだという。この魔力量と魔力放出量というのは、例えるなら魔力を入れておく瓶自体の大きさと、その瓶の注ぎ口の大きさだ。魔力量が大きくても魔力放出量が少なければ、一度の魔術行使で使える魔力は少ないものになってしまい、逆に魔力放出量が多くても魔力量が少なければ、強大な魔術を行使できてもすぐに空っぽになってしまうということだ。
なので、魔力量と魔力放出量の両方を鍛えて大きくするのが最初の課題であったのだが。
「まずは身体の中を巡る魔力の存在を、自分で掴み取らないとどうにもならないわ。体内を巡る血液、それとともに流れる魔力を意識しなさい。あ、今日一日やってわかんなかったら、たぶん一生かかっても魔術師にはなれないからすっぱり諦めなさいな」
軽い口調でそんなことを宣う姉の前に座らされて、うんうん唸りながら、ようやくこれが魔力というものかという感触を掴めるまで半日ほどかかった。姉曰く「才能ないわね、あんた」ということであった……。
で、それができたら、この魔力を身体の中で自在に動かせるようになれ、というお達しである。これは魔術師の基本的な鍛錬法で、これを続けることで僅かずつ、自身の魔力量と魔力放出量を増やしてゆくことができるのだとか。
これがきつい。ギリギリながらなんとか掴んだ体内の魔力を、逃さないようにしっかり握りながら、中心から指先へとゆっくり動かすのは肉体に負荷のかかる行為であり、実際身体の普段使わないインナーマッスル的な筋肉を無理やり行使しているような感覚がある。だがこれも姉に言わせれば「無駄な力を加えているからそうなるのであって、上手な人間はそんな筋肉が突っ張るような感じにはならない」そうで。
さらに、これだけでは終わらない。
「これ、読み込んどいて」
姉に渡されたのは、数学の教科書だった。
当然だが使われている数字は違うし、方程式や法則も若干違うが、前世の数学によく似た学問がある。そして魔術師にとって数学は必須教養であり、術式を練り構築するのにも必須の技能であるとのこと。
転生先で、まさか数学を学びなおす羽目に陥るとは……しかも微妙に法則が違うから、前世で学んだことが役に立ちそうで役に立たなくてつらい。
魔術を身に着けたいというのは俺自身の希望だったが、その鍛錬というのを舐めていた……。
だが、これも前世ではファンタジーだった魔術を習得するためだ。がんばれ俺。
兄が領地を継ぐことに本腰を入れるつもりになってくれたのなら、俺としても嬉しい。頼りないところもあるけれども、周りが支えてやればきっといい領主になるはずだ。
で、俺はといえばこの日から早速魔術の猛特訓がはじまった。
姉が言うには、まずは魔術の行使に足るだけの魔力量と、魔力放出量を身につけねばならんのだという。この魔力量と魔力放出量というのは、例えるなら魔力を入れておく瓶自体の大きさと、その瓶の注ぎ口の大きさだ。魔力量が大きくても魔力放出量が少なければ、一度の魔術行使で使える魔力は少ないものになってしまい、逆に魔力放出量が多くても魔力量が少なければ、強大な魔術を行使できてもすぐに空っぽになってしまうということだ。
なので、魔力量と魔力放出量の両方を鍛えて大きくするのが最初の課題であったのだが。
「まずは身体の中を巡る魔力の存在を、自分で掴み取らないとどうにもならないわ。体内を巡る血液、それとともに流れる魔力を意識しなさい。あ、今日一日やってわかんなかったら、たぶん一生かかっても魔術師にはなれないからすっぱり諦めなさいな」
軽い口調でそんなことを宣う姉の前に座らされて、うんうん唸りながら、ようやくこれが魔力というものかという感触を掴めるまで半日ほどかかった。姉曰く「才能ないわね、あんた」ということであった……。
で、それができたら、この魔力を身体の中で自在に動かせるようになれ、というお達しである。これは魔術師の基本的な鍛錬法で、これを続けることで僅かずつ、自身の魔力量と魔力放出量を増やしてゆくことができるのだとか。
これがきつい。ギリギリながらなんとか掴んだ体内の魔力を、逃さないようにしっかり握りながら、中心から指先へとゆっくり動かすのは肉体に負荷のかかる行為であり、実際身体の普段使わないインナーマッスル的な筋肉を無理やり行使しているような感覚がある。だがこれも姉に言わせれば「無駄な力を加えているからそうなるのであって、上手な人間はそんな筋肉が突っ張るような感じにはならない」そうで。
さらに、これだけでは終わらない。
「これ、読み込んどいて」
姉に渡されたのは、数学の教科書だった。
当然だが使われている数字は違うし、方程式や法則も若干違うが、前世の数学によく似た学問がある。そして魔術師にとって数学は必須教養であり、術式を練り構築するのにも必須の技能であるとのこと。
転生先で、まさか数学を学びなおす羽目に陥るとは……しかも微妙に法則が違うから、前世で学んだことが役に立ちそうで役に立たなくてつらい。
魔術を身に着けたいというのは俺自身の希望だったが、その鍛錬というのを舐めていた……。
だが、これも前世ではファンタジーだった魔術を習得するためだ。がんばれ俺。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。


このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる