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悪の組織のボスになる!
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二日ほどをかけて俺は自身の記憶とカヴェノ・パワーズの記憶を統合させてゆき、その過程でいろいろなことがわかった。
まず、カヴェノの上には一番目の子どもである長女と、二番目の子どもである長男がいる。次男であるカヴェノは三番目の子どもである。
父の奥さんは今のところ母ひとりで、三人ともが父母の実子であることは間違いないようだ。つまり、貴族家によくある、血筋に関するお家騒動は今のところないということ。
ただし別の騒動はある。リアル奇跡や魔術が存在するこの世界では、元の世界と違い女であることのデメリットが小さいから、女性当主が少なくない。で、当パワーズ家も次期領主を長女である姉に継がせる腹積もりであるらしい。
この姉が出来物で、何と学院で導師の免状を得た魔術師なのだ。
学院というのは王都にある代官や騎士、官僚を養成するための国営機関で、その中には魔術に精通した技術者、いわゆる魔術師を養成するコースもある。姉は狭き門であるこの魔術師コースを留年なしで修了した秀才なのである。
しかも修了と同時に取得した導師の免状は、後進を教え導くだけの力と知識を有していると認められた証で、これがあれば宮廷魔術師や高位貴族の家庭教師にもなれるという、凄まじい権威を持つ代物なのだ。
現に、姉は学院の研究室、前世でいうところの大学のような機関から誘いを受けているらしく、将来はパワーズ家を継がずに研究者として身を立ててゆきたいと考えているようだ。
この時代、農民は当たり前のように武装している。刀剣の類はさすがに持っていなくとも、手槍や短弓辺りなら普通にそこらの農村で隠し持っているものだ。そんな領地を統治してゆくのに何がともあれ必要なのはまず武力で、領主が導師の資格を持つ魔術師ってのはドスが利いている。まずもってよほどのことがない限り反乱は起きないだろう。この世界で導師級魔術師というのはそれほどに恐れられている。
だから父母は、何としてでも姉に領地を継がせたいし、領地経営なぞに露ほども興味がない姉は何としてでもそれを回避したい。
で、現在パワーズ家では、姉に継がせようとする父母と、長兄に押し付けようとする姉との争いが続いている。
パワーズ家の家督を継ぐのがどちらになるかはさておき、俺の立場だ。
姉が継ぐにせよ兄が継ぐにせよ、どちらの場合にせよ俺が跡を継ぐことはあり得ない。よほどのことが起きて姉と兄が両方とも亡くなってしまった場合にはそういう事態もあり得るが、まずその確率は低いといってよい。
それに、正直なところ、俺は家督にまったく興味がない。
前世の俺は、オタクというほどではなくてもそれなりにサブカル文化には精通していたようで、ファンタジーな貴族のイメージだけでなく、リアル方面の貴族の知識も一般教養並みには持ち合わせていた。
貴族というのが毎日美女を侍らせつつ酒を飲み美味いものを食い、といったような生活ができるものでないことは、カヴェノ・パワーズの記憶を覗き見るだけでもよくわかる。軍閥の一角でもある父は日々己に厳しい鍛錬と国境地帯の情報把握、軍学の勉強に励んでいるし、小領主の奥方である母は、パワーズ家の財務と事務仕事を実質引き受けていて、貴族のように着飾るのは王都に出かけるときと誰か重要な相手と面会するときぐらい。
国境線に面する地方の小領主にというのは、実際大変だ。毎日のんびり暮らせると思ったらとんでもない。
だからそんなものは、姉か兄に丸投げしてしまうのだ。
だがしかし、そうなれば、俺は己の身一つで生きてゆかねばならない。もちろん部屋住み居候のままで一生を終えるのも一つの手だが、それはそれでいかにも退屈そうだし、毎日肩身が狭い思いをしなくちゃいけないのは間違いない。
剣も魔法もある世界に転生したんだ。楽しみたいじゃないか。
それじゃあお前はこの世界で何がしたいのかと考えてみたときに、思い出したことがあった。
アニメだったか特撮ものだったかは覚えてないけど、何かのヒーローが活躍する子供向けの番組だったと思う。
どうやら前世の俺は、子供の頃から、ヒーローよりも怪獣や怪人といった敵役の方をカッコいいと思う性癖の持ち主だったようだ。派手な色のスーツや甲冑をまとったヒーローよりは、土の色や鉄の色、禍々しい色合いをして棘やら触手やらが飛び出ているモンスターばかりをかぶりついてじっくり眺めていたらしい。
その中でも、初めて見たときに、衝撃を受けたらしいのが、そういったおどろおどろしい怪人幹部や、妖艶な美女を左右に侍らせて、椅子に座ったまま小さな竜を撫でる白髪と長い白髭の痩せた老人の姿だった。
その老人は一見普通の人間で、周囲に立つ幹部の方が圧倒的に強そうな外見をしている。にもかかわらず、そのシーンを見ただけで、その中で誰が最も強く、誰が最も偉いのかがわかる。
なんだこれカッコいい。それを見た瞬間の前世の俺は、震えるほどの感動を味わったのだった。
一見弱そうに見える組織のボス。ヒーローものある種のテンプレともいえるその存在に、幼い俺は魅入られたのだった。
そうだ。前世の俺は、ああいう存在に憧れたんじゃないか。
俺は決心した。
俺はこの世界で、悪の組織のボスになる!
まず、カヴェノの上には一番目の子どもである長女と、二番目の子どもである長男がいる。次男であるカヴェノは三番目の子どもである。
父の奥さんは今のところ母ひとりで、三人ともが父母の実子であることは間違いないようだ。つまり、貴族家によくある、血筋に関するお家騒動は今のところないということ。
ただし別の騒動はある。リアル奇跡や魔術が存在するこの世界では、元の世界と違い女であることのデメリットが小さいから、女性当主が少なくない。で、当パワーズ家も次期領主を長女である姉に継がせる腹積もりであるらしい。
この姉が出来物で、何と学院で導師の免状を得た魔術師なのだ。
学院というのは王都にある代官や騎士、官僚を養成するための国営機関で、その中には魔術に精通した技術者、いわゆる魔術師を養成するコースもある。姉は狭き門であるこの魔術師コースを留年なしで修了した秀才なのである。
しかも修了と同時に取得した導師の免状は、後進を教え導くだけの力と知識を有していると認められた証で、これがあれば宮廷魔術師や高位貴族の家庭教師にもなれるという、凄まじい権威を持つ代物なのだ。
現に、姉は学院の研究室、前世でいうところの大学のような機関から誘いを受けているらしく、将来はパワーズ家を継がずに研究者として身を立ててゆきたいと考えているようだ。
この時代、農民は当たり前のように武装している。刀剣の類はさすがに持っていなくとも、手槍や短弓辺りなら普通にそこらの農村で隠し持っているものだ。そんな領地を統治してゆくのに何がともあれ必要なのはまず武力で、領主が導師の資格を持つ魔術師ってのはドスが利いている。まずもってよほどのことがない限り反乱は起きないだろう。この世界で導師級魔術師というのはそれほどに恐れられている。
だから父母は、何としてでも姉に領地を継がせたいし、領地経営なぞに露ほども興味がない姉は何としてでもそれを回避したい。
で、現在パワーズ家では、姉に継がせようとする父母と、長兄に押し付けようとする姉との争いが続いている。
パワーズ家の家督を継ぐのがどちらになるかはさておき、俺の立場だ。
姉が継ぐにせよ兄が継ぐにせよ、どちらの場合にせよ俺が跡を継ぐことはあり得ない。よほどのことが起きて姉と兄が両方とも亡くなってしまった場合にはそういう事態もあり得るが、まずその確率は低いといってよい。
それに、正直なところ、俺は家督にまったく興味がない。
前世の俺は、オタクというほどではなくてもそれなりにサブカル文化には精通していたようで、ファンタジーな貴族のイメージだけでなく、リアル方面の貴族の知識も一般教養並みには持ち合わせていた。
貴族というのが毎日美女を侍らせつつ酒を飲み美味いものを食い、といったような生活ができるものでないことは、カヴェノ・パワーズの記憶を覗き見るだけでもよくわかる。軍閥の一角でもある父は日々己に厳しい鍛錬と国境地帯の情報把握、軍学の勉強に励んでいるし、小領主の奥方である母は、パワーズ家の財務と事務仕事を実質引き受けていて、貴族のように着飾るのは王都に出かけるときと誰か重要な相手と面会するときぐらい。
国境線に面する地方の小領主にというのは、実際大変だ。毎日のんびり暮らせると思ったらとんでもない。
だからそんなものは、姉か兄に丸投げしてしまうのだ。
だがしかし、そうなれば、俺は己の身一つで生きてゆかねばならない。もちろん部屋住み居候のままで一生を終えるのも一つの手だが、それはそれでいかにも退屈そうだし、毎日肩身が狭い思いをしなくちゃいけないのは間違いない。
剣も魔法もある世界に転生したんだ。楽しみたいじゃないか。
それじゃあお前はこの世界で何がしたいのかと考えてみたときに、思い出したことがあった。
アニメだったか特撮ものだったかは覚えてないけど、何かのヒーローが活躍する子供向けの番組だったと思う。
どうやら前世の俺は、子供の頃から、ヒーローよりも怪獣や怪人といった敵役の方をカッコいいと思う性癖の持ち主だったようだ。派手な色のスーツや甲冑をまとったヒーローよりは、土の色や鉄の色、禍々しい色合いをして棘やら触手やらが飛び出ているモンスターばかりをかぶりついてじっくり眺めていたらしい。
その中でも、初めて見たときに、衝撃を受けたらしいのが、そういったおどろおどろしい怪人幹部や、妖艶な美女を左右に侍らせて、椅子に座ったまま小さな竜を撫でる白髪と長い白髭の痩せた老人の姿だった。
その老人は一見普通の人間で、周囲に立つ幹部の方が圧倒的に強そうな外見をしている。にもかかわらず、そのシーンを見ただけで、その中で誰が最も強く、誰が最も偉いのかがわかる。
なんだこれカッコいい。それを見た瞬間の前世の俺は、震えるほどの感動を味わったのだった。
一見弱そうに見える組織のボス。ヒーローものある種のテンプレともいえるその存在に、幼い俺は魅入られたのだった。
そうだ。前世の俺は、ああいう存在に憧れたんじゃないか。
俺は決心した。
俺はこの世界で、悪の組織のボスになる!
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