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目覚めた人
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「目覚めなさい……」
母上か側使えが起こしに来たのかとはじめは思っていた。でもそうじゃなかった。
そもそも俺は眠っていたんじゃない。神殿に来て、休息日の日課である礼拝を行っていたのだった。
つまり、これはたぶん。神様の声だ。
そう気づいた瞬間、俺は前世の記憶に目覚めた。
カヴェノ・パワーズはパワーズ男爵家の次男坊、御年とって十一歳。父親から黒髪と吊り上がった黒目、微笑むと邪悪そうに見えるフェイスを受け継いだナイスガイだ。
パワーズ家は大陸中央に位置するセンタリアという名の王国の、東端に位置する地方領主だ。国境の守護を任ずるいわゆる軍閥の一家だが、東方国家のイストリアとセンタリアは長らく友好状態を保っていて、ここ二代ほどの間は村同士の小競り合い以上の諍いは起こっていない。
覚醒した俺が宿っていたのは、そんな平和な辺境領を治める貴族の次男坊という、何の理由があってわざわざこいつに、と疑問を抱かざるを得ない存在だった。
前世の名前は思い出せないが、日本という国の、科学技術が発達した時代に生きていたことははっきり覚えている。そして前世の知識から当てはめると、この世界はおおむね前の世界の中世辺りの文明水準であり、王様や貴族が存在する社会形態を持っているらしい。
そして、前世の世界には存在しなかった、リアルな奇跡や魔術が存在する世界でもあった。
つまり、よくあるファンタジーな異世界転生ってことだな! 俺は詳しいんだ!
正直最初は、え、なにこれ? って戸惑ったものだが、慣れてくるにつれ、俺の中にはワクワクした気持ちが湧き上がってきた。
だって、異世界だぜ? ファンタジーだぜ? まるで小説やアニメの中みたいじゃん!
……って興奮したところで、転生した自分、カヴェノ・パワーズの設定を改めて考えて、あまりにも可もなく不可もなくな現状に、なんでこいつに? ってなったのだ。
いやまあ正直、貴族階級だったのは嬉しい。この時代の貴族は平民とは比べ物にならないほど恵まれているし、この手の転生ものだと初手ハードモードっていうパターンも結構多いから、そっちのパターンじゃなかったのは素直に嬉しい。
でも、貴族としてあまり力を持たない辺境領主の、後継ぎでもない次男坊ってのは、現在も将来的にもできることの範囲はごくごく狭い。
俺を目覚めさせたのはたぶん、あれは神様なんじゃないかと勝手に思っているんだけど……神様は、いったい俺に何をさせたいんだろうか?
「坊ちゃま……礼拝堂からお出になられてから、何やらお加減がすぐれないようですけど、大丈夫でございますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
お付きの侍女であるマルサが訝しげに声をかけてくるのをあしらいつつ、何とか『坊ちゃま』らしく振舞えるように演技をした。
実際は全然大丈夫じゃないし問題だらけなのだが、今、怪しまれるわけにはいかない。
俺の中には、目覚めたばかりの俺と、元の身体の持ち主、カヴェノ・パワーズの知識と記憶が同居していて、両者がせめぎあっている。
幸運だったのは俺もカヴェノ少年もともに温厚で争いごとを好まない性格だったことで、俺たち二人は脳内で形而上的握手を交わし、周囲に不審に思われぬよう協力体制を敷くことに決めた。
夢でも見てるんじゃないかといまだに思っているが、護衛するように斜め前を歩くマルサの、染めたのではない青髪とカラコンでも何でもない銀瞳を見るたび、ああ異世界なんだなと再認識させられる。
母上か側使えが起こしに来たのかとはじめは思っていた。でもそうじゃなかった。
そもそも俺は眠っていたんじゃない。神殿に来て、休息日の日課である礼拝を行っていたのだった。
つまり、これはたぶん。神様の声だ。
そう気づいた瞬間、俺は前世の記憶に目覚めた。
カヴェノ・パワーズはパワーズ男爵家の次男坊、御年とって十一歳。父親から黒髪と吊り上がった黒目、微笑むと邪悪そうに見えるフェイスを受け継いだナイスガイだ。
パワーズ家は大陸中央に位置するセンタリアという名の王国の、東端に位置する地方領主だ。国境の守護を任ずるいわゆる軍閥の一家だが、東方国家のイストリアとセンタリアは長らく友好状態を保っていて、ここ二代ほどの間は村同士の小競り合い以上の諍いは起こっていない。
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前世の名前は思い出せないが、日本という国の、科学技術が発達した時代に生きていたことははっきり覚えている。そして前世の知識から当てはめると、この世界はおおむね前の世界の中世辺りの文明水準であり、王様や貴族が存在する社会形態を持っているらしい。
そして、前世の世界には存在しなかった、リアルな奇跡や魔術が存在する世界でもあった。
つまり、よくあるファンタジーな異世界転生ってことだな! 俺は詳しいんだ!
正直最初は、え、なにこれ? って戸惑ったものだが、慣れてくるにつれ、俺の中にはワクワクした気持ちが湧き上がってきた。
だって、異世界だぜ? ファンタジーだぜ? まるで小説やアニメの中みたいじゃん!
……って興奮したところで、転生した自分、カヴェノ・パワーズの設定を改めて考えて、あまりにも可もなく不可もなくな現状に、なんでこいつに? ってなったのだ。
いやまあ正直、貴族階級だったのは嬉しい。この時代の貴族は平民とは比べ物にならないほど恵まれているし、この手の転生ものだと初手ハードモードっていうパターンも結構多いから、そっちのパターンじゃなかったのは素直に嬉しい。
でも、貴族としてあまり力を持たない辺境領主の、後継ぎでもない次男坊ってのは、現在も将来的にもできることの範囲はごくごく狭い。
俺を目覚めさせたのはたぶん、あれは神様なんじゃないかと勝手に思っているんだけど……神様は、いったい俺に何をさせたいんだろうか?
「坊ちゃま……礼拝堂からお出になられてから、何やらお加減がすぐれないようですけど、大丈夫でございますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
お付きの侍女であるマルサが訝しげに声をかけてくるのをあしらいつつ、何とか『坊ちゃま』らしく振舞えるように演技をした。
実際は全然大丈夫じゃないし問題だらけなのだが、今、怪しまれるわけにはいかない。
俺の中には、目覚めたばかりの俺と、元の身体の持ち主、カヴェノ・パワーズの知識と記憶が同居していて、両者がせめぎあっている。
幸運だったのは俺もカヴェノ少年もともに温厚で争いごとを好まない性格だったことで、俺たち二人は脳内で形而上的握手を交わし、周囲に不審に思われぬよう協力体制を敷くことに決めた。
夢でも見てるんじゃないかといまだに思っているが、護衛するように斜め前を歩くマルサの、染めたのではない青髪とカラコンでも何でもない銀瞳を見るたび、ああ異世界なんだなと再認識させられる。
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