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神様というもの
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「それで里佳子ちゃん、その祠見つけたときに何かした?」
やけにわくわくした顔で須貝さんが尋ねてくる。
「私、昔から、そういう寂れた祠とか街中の小さなお社とか見るのが好きなんで……。まあ、一応、お参りくらいはしとこうかなって……」
手を合わせて拝んだりしたと話すと、
「なるほど、そっちのタイプかー」
と須貝さんは納得する。そういうのを見つけてもスルーするタイプととりあえず拝んでいくタイプって、きっぱり分かれるのだと須貝さんは言う。
「ああいうの拝む人って、どれだけ急いでいても、目に留まったら絶対拝んでいくよね」
「そうかもしれません」
言われてみればそうだ。
「そういうのも、もしかしたら条件の一つかもしれないね」
「そうなんですか?」
「こういうのって、だいたいフラグがいくつかあって、コンプしないと発生しないから」
「ゲームじゃないんですけど……」
でもまあ、須貝さんの言うことはわからないでもない。誰でもが見つけられるようなものじゃないってことか。半信半疑だけど、とりあえずあれはそういうものだったと思うことにしよう。
「それでさー。拝むときに、何か願った?」
そんな質問をされて、ドキッとする。
「そういうときって、なんも考えずにただ拝むだけじゃないよね。ついなんかお願い事とか、しちゃわない?」
「確かに……」
なんとなく、手を合わせて拝むと、何か願い事をしなくちゃいけない、みたいな反射になっているところは、あると思う。
「えっと……。確か、クレームの電話が減りますように、みたいなことを……。その日、たまたまクレーム電話の件で、へこんでたので……」
あー、と須貝さんが納得みたいな顔をする。
「そっかー。もしかしたらとは思ったんだけど。じゃあこれって、里佳子ちゃんがお願いしたご利益ってこと?」
「そんなことが、あるんでしょうか……」
「いや、わかんないけど。でも確かに、ここんところ、クレームなくなったのは事実だよねえ」
確かに、今のところクレームが減った原因は何も掴めていない。だけど、本当にそんなことがあり得るんだろうか。否定したいと思っている自分がいる。
「まあ、里佳子ちゃんがかなり辛そうでギリギリの状態だったから、その祠が出てきたのかもしれないね。きっとその神さまが、普段からあちこちの祠で拝んでる里佳子ちゃんに手助けをしてくれたんだよ」
うんうんと頷いて、須貝さんは一人納得している。
「でも里佳子ちゃん、その願い事でよかったよね」
「え?」
「神様に願い事してってさあ。漫画とか小説でもよくあるけど。基本、何々をしてくださいってのはよくないのよ」
「そうなんですか?」
私は驚いて身を乗り出した。
「うん。菅原道真公とかもそうだけどさ。日本の神様って、基本、何か悪いことをしないでくださいってお願いして祀られる存在なのよね。つまり、何かをしてくれる神様じゃあなくて、何かをしないようにっていうのを願うための神様なわけ。だから、交通安全とか、安産祈願とか、基本的に、悪いことが起こりませんようにって願うものなのよ」
須貝さんはぴっと人差し指を立てる。
「だから、神様に何かをしてくださいって願うのは、本当はダメ。大抵ひどいことになるからね。なぜなら、神様は何かを罰したり害することで、その願いを叶えようとするから」
だから里佳子ちゃんの願いがそれでよかった、と須貝さんが笑うのを、私はきっと青ざめた顔で聞いていた。
だって私が本当に願ったのは、「この国から、クズみたいな人間がいなくなりますように」ってことだったから……。
やけにわくわくした顔で須貝さんが尋ねてくる。
「私、昔から、そういう寂れた祠とか街中の小さなお社とか見るのが好きなんで……。まあ、一応、お参りくらいはしとこうかなって……」
手を合わせて拝んだりしたと話すと、
「なるほど、そっちのタイプかー」
と須貝さんは納得する。そういうのを見つけてもスルーするタイプととりあえず拝んでいくタイプって、きっぱり分かれるのだと須貝さんは言う。
「ああいうの拝む人って、どれだけ急いでいても、目に留まったら絶対拝んでいくよね」
「そうかもしれません」
言われてみればそうだ。
「そういうのも、もしかしたら条件の一つかもしれないね」
「そうなんですか?」
「こういうのって、だいたいフラグがいくつかあって、コンプしないと発生しないから」
「ゲームじゃないんですけど……」
でもまあ、須貝さんの言うことはわからないでもない。誰でもが見つけられるようなものじゃないってことか。半信半疑だけど、とりあえずあれはそういうものだったと思うことにしよう。
「それでさー。拝むときに、何か願った?」
そんな質問をされて、ドキッとする。
「そういうときって、なんも考えずにただ拝むだけじゃないよね。ついなんかお願い事とか、しちゃわない?」
「確かに……」
なんとなく、手を合わせて拝むと、何か願い事をしなくちゃいけない、みたいな反射になっているところは、あると思う。
「えっと……。確か、クレームの電話が減りますように、みたいなことを……。その日、たまたまクレーム電話の件で、へこんでたので……」
あー、と須貝さんが納得みたいな顔をする。
「そっかー。もしかしたらとは思ったんだけど。じゃあこれって、里佳子ちゃんがお願いしたご利益ってこと?」
「そんなことが、あるんでしょうか……」
「いや、わかんないけど。でも確かに、ここんところ、クレームなくなったのは事実だよねえ」
確かに、今のところクレームが減った原因は何も掴めていない。だけど、本当にそんなことがあり得るんだろうか。否定したいと思っている自分がいる。
「まあ、里佳子ちゃんがかなり辛そうでギリギリの状態だったから、その祠が出てきたのかもしれないね。きっとその神さまが、普段からあちこちの祠で拝んでる里佳子ちゃんに手助けをしてくれたんだよ」
うんうんと頷いて、須貝さんは一人納得している。
「でも里佳子ちゃん、その願い事でよかったよね」
「え?」
「神様に願い事してってさあ。漫画とか小説でもよくあるけど。基本、何々をしてくださいってのはよくないのよ」
「そうなんですか?」
私は驚いて身を乗り出した。
「うん。菅原道真公とかもそうだけどさ。日本の神様って、基本、何か悪いことをしないでくださいってお願いして祀られる存在なのよね。つまり、何かをしてくれる神様じゃあなくて、何かをしないようにっていうのを願うための神様なわけ。だから、交通安全とか、安産祈願とか、基本的に、悪いことが起こりませんようにって願うものなのよ」
須貝さんはぴっと人差し指を立てる。
「だから、神様に何かをしてくださいって願うのは、本当はダメ。大抵ひどいことになるからね。なぜなら、神様は何かを罰したり害することで、その願いを叶えようとするから」
だから里佳子ちゃんの願いがそれでよかった、と須貝さんが笑うのを、私はきっと青ざめた顔で聞いていた。
だって私が本当に願ったのは、「この国から、クズみたいな人間がいなくなりますように」ってことだったから……。
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