渡る世間はクズばかり

翠山都

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朝一番の業務

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 翌日。通勤時に例の祠をちらと探してみたけれど、見つけることができなかった。同じ道でも行きと帰りではまた違って見える。時間があるときにでもゆっくり探してみようと里佳子は思った。
 いつもどおりに制服に着替え、パソコンを立ち上げてメールをチェックする。だいたい日に百件前後のメールがウェブ担当のアドレスには届いていて、そのうち三分の一くらいがスパムや広告で、残りのうち三分の一くらいが注文のメール、それ以外が問い合わせやクレームといった割合だ。なので、日におよそ三十件くらいの注文を受けていることになる。
 店舗側での実際客数が日四十件ほどだが、オンライン販売ではまとめ買いや高額商品の販売が多いので、実際の売上金額は実在店舗とほぼ同等の割合になっている。今や、オンライン販売なしではタケバヤシは立ち行かないくらいのシェアを占めているのだ。
 実際、タケバヤシと同じような民芸品の製造や販売をしている企業で、オンライン販売をせずに生き残っているところは少ない。それでも生き残っているところは大抵百貨店や道の駅などの大口の卸先を抱えていて、半ばそれ専門での商売をしていたりする。百貨店なんかも近頃では経営が苦しいから、契約が打ち切られて、共倒れのように潰れた会社もある。
 タケバヤシの社長は先見の明があった人のようで、業界でも早いうちからオンライン販売の準備をし、オンラインモールへの出店も早かったそうだ。けど社員が軒並み高齢でパソコンに強い人が少なかったため、里佳子が雇われたのだった。
 里佳子もさほど得意というわけでもないけれども、それでも生まれた時からインターネットや携帯電話が普通にあった世代だから、タケバヤシにいる四十代五十代の社員よりははるかに知識があった。そして、社長や先輩の須貝さんも含めて、里佳子任せにしてほったらかしにすることなく、できるだけ勉強しようとしてくれる意識があるので、好感が持てた。
 社長が言うには、こういった中小や零細企業でオンライン導入がうまくゆかないのは、上の人間が詳しい人間に任せてほったらかしにするのが原因なんだとか。そうなると結局、その人間が何をやっているのかが周りの人間がずっとわからないままで、たとえばその人間が大きな失敗をやらかしていても、ときには不正を働いていたとしても誰も気づけなくて、発覚した時には手遅れになってしまっているのだとか。
 わからないかもしれないけど、わかろうとする意志そのものを放棄しちゃいけない。社長はそう言っていたし、私もその通りだと思う。
 だけど、クレームの対応までやらされるなんて聞いてなくて、そこだけは本当に恨めしく思う。
 ため息を一つこぼして、いつも通り発注メールの処理を行う。店舗側に注文内容を送付して、発注書と納品書を作成し、プリントアウトして専用のボックスへ入れておく。要望欄に日時指定やラッピング指定がある場合はそれを忘れず記載して、プリントアウトした紙の所定の欄を赤ペンで囲っておく。こうしておくことで、見落としが減らせるのだ。
 それでも人が手作業ですることだから、だいたい三千件に一件くらいの割合でミスが出たりするので、この点は必ずダブルチェックするようにと社長からもお達しが出ていた。
 日本人はこの手のミスにものすごく厳しい。ほぼ必ずメールではなく直接電話がかかってきて、鬼の首でも取ったかのように、執拗に責め立ててくる。自分ならこういうミスは絶対しないとばかりに。当然こちらが悪いので平謝りするが、穏便に済んだことはない。
 少なくともこの点において、寛容な心で許してくれた場合というのを、私はまだ一件たりとも経験していない。
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