となりの音鳴さん

翠山都

文字の大きさ
上 下
14 / 17

国は告げている

しおりを挟む
 翌日の朝、私は珍しく、音鳴さんに出会った。
「おはようございます……」
「おはようございます。そういえば昨夜は部屋にいらっしゃったんでしたね」
「ええ……。しかし……確かに騒がしかったですねぇ……あそこ」
「でも、前回よりはだいぶましでしたよ。おじいさんのアレが利いたんじゃないかしら」
「前回は……もっと……騒がしかったんですか……?」
「ええ。眠っていたのに、叩き起こされちゃうくらい」
「それは……困りますねぇ……」
「ええ、ほんとに」
 民泊施設の方をぼんやり眺める音鳴さんと別れて、私は階段を下りた。前の道路には、やはり大量のごみが散乱している。ああいう人たちの行動パターンってどうしてこうも共通するんだろうと思う。
 こういった環境を変えようと思ったら、そこには大量の時間とエネルギーと、場合によってはお金も注ぎ込む必要がある。特に民泊の問題なんてのは政府も問題点をわかった上で推進していたのだから、いわば国から、現地で困っている人間たちが自分で時間とエネルギーとお金を割いて、自分たちで何とかしてくださいね、と言われているようなものだ。もちろん関係者たちは面と向かってそんなこと言わないだろうが、現実に即して落とし込むなら、そういうことになる。間接的に国そのものが、私たちにそうしろ、そうして生きろと告げているのだ。
 こういうことがいくつもいくつも重なって、私たちは自分自身の人生というものが生きていきづらくなってゆく。国という組織には、私たちがまっとうに、自分自身の人生や日常生活を送れるようにして欲しい。一番に望むことはただそれだけなのに、そんなことはしてくれないし、選挙演説をする候補者たちも言わない。
 これはもしかして、すごく大それた、難しい望みなんだろうか。そう思ってしまう。
 つまり日常を守るってのは、大層で大変なことなのだろう。
 そう結論づけると、私は朝も早くから憂鬱になって、結局その日一日はずっとそんな気持ちが続いたままだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やってはいけない危険な遊びに手を出した少年のお話

山本 淳一
ホラー
あるところに「やってはいけない危険な儀式・遊び」に興味を持った少年がいました。 彼は好奇心のままに多くの儀式や遊びを試し、何が起こるかを検証していました。 その後彼はどのような人生を送っていくのか...... 初投稿の長編小説になります。 登場人物 田中浩一:主人公 田中美恵子:主人公の母 西藤昭人:浩一の高校時代の友人 長岡雄二(ながおか ゆうじ):経営学部3年、オカルト研究会の部長 秋山逢(あきやま あい):人文学部2年、オカルト研究会の副部長 佐藤影夫(さとうかげお)社会学部2年、オカルト研究会の部員 鈴木幽也(すずきゆうや):人文学部1年、オカルト研究会の部員

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

処理中です...